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貴方達がお腹を空かせてしまいますから


 気付いた時、俺はミファの後ろで浮いていた。

そうか、あの魔術でいきなり酸素をめちゃくちゃに使って酸欠になって……それから。

 

「ミファ」

 

「起きました? おはようございます」

 

「その……ありがとう」

 

彼女は倒れた俺を運びつつ、先に進んでいたんだ。

人を運ぶのは簡単だが、ジリジリと魔力を削られる。

どれだけ意識を失っていたか分からないが、彼女は俺を守りつつ運んでくれていた。

 

「大丈夫ですよ、ナーパムは軽いですから」

 

「お前が居なかったら俺……生き埋めになってた、仮に生き埋めは避けられてもこんな悪魔が何処から来るか分からない場所で意識を失ってたら……俺は」

 

考えただけでもゾッとする。

 

「ええ、私が居なければナーパムは死んでいましたね」

 

洞窟での戦闘は始めてだった。

少しでもかっこいい所を見せたくて、だから……。

……全部、言い訳だな。

 

「ナーパムは頑張りました」

 

「……へ?」

 

「確かに酸欠を引き起こしましたが、ナーパムは私の為に悪魔を倒してくれました、だから……」

 

彼女は俺の体を地面に下ろした。

しばらく浮いていたせいなのか、両足が地面について安心するような感じがする。

 

「頑張りました、えらいです」

 

彼女は頭を撫でている。

子供扱いするなって言おうと思ったが、何故か彼女の手を拒絶する気持ちは湧き上がらず、嬉しいって感情が湧き出てきた。

 

「悪魔を倒せてえらい、私を守ってくれてえらい、失敗できてえらい」

 

「……失敗は余計だろ」

 

「フフッ、そうですね、すいません」

 

ミファが俺の頭から手を離す。

そういや……ここはあれからどれぐらい進んだ場所……え?

 

「でも、守ってくれるんだって思えたのが嬉しかったんです」

 

ミファの後ろ側、俺がさっきまで浮いていた場所の奥には大量の悪魔の死体が転がっている。

そのどれもが首を切断されていて、切り口は魔術で作られた刃で斬り裂いたように綺麗な物ばかりだった。

 

「でも洞窟では攻撃も私に任せて下さい、ナーパムの魔術と環境の相性が良くありませんから」

 

あれは、ミファが殺した悪魔なんだろうな。


「大丈夫、ナーパムは洞窟で何もしなくていい、攻撃も防御も何もかも、ぜーんぶ私がしてあげます」

 

ニコニコと笑う彼女の手には小さなルビーが二つあった。

悪魔と戦い、俺を守り、目的のルビーの採掘まで完璧にこなしている。

 

「では、帰りましょう」

 

「……ああ」

 

「攻撃も防御も何もかも、ぜーんぶ私に任せてくれればいいいんです」

 

洞窟じゃ俺の魔術は使えない。

でも、ここじゃなければ、俺の魔術だって……!

もう覚えたぞ、俺の魔術は魔力だけじゃなくて酸素も消費する、だから起動させる場所はしっかりと考える……よし!

 

「そういや、俺は酸欠になって倒れてたけどさ、近くにいたお前は何で倒れなかったんだ?」

 

俺の質問に対し、ミファは少しだけ間を開けてから。

 

「……ナーパムが魔術の発動者で、発動の時から多くの酸素を使っていたからじゃないでしょうか」

 

少しだけ、本当に少しだけ、他の人が見ても困っている顔だと分からないレベルの表情の変化があったが質問に答えてくれた。

……あきられられてんのかな。


「成る程な……使う時はもう少し距離を取って……でもそれじゃさらにコントロールが上手くいかないし……うーん」

 

自分の失敗した点を考えつつ、彼女と共に宝石洞窟を後にした。

行き道、帰り道のどちらかで他のクラスメイトと会うかなと思っていたが、誰にもすれ違わなかった。

歩いて四時間程度で洞窟から出る事が出来たから……多分ミファが結構な距離を運んでくれていたんだろう。


「おや、ミファ君にナーパム君、もう戻ったのですか?」

 

洞窟を出た所で、先生はチョークを投げるのを止めた。

彼は俺とミファの顔を交互に見てから、銀色のテーブルの上の青いテーブルクロスの上にルビーを置くように指示をする。

 

「もう? 二日は洞窟にいたんじゃないのか?」

 

途中気絶してたから、本当の時間は分からないけれど……。

 

「いえ、だいたい八時間ぐらいですよ」 

 

は、八時間だと!?

おいおい待て待て、ルビーの硬度がチョークに耐えられる物は洞窟を二日間進んだ所にしかないって話じゃなかった!?


「いや待て待て! それじゃあのルビーは……」

 

「大丈夫ですよ、さあ、ナーパムのルビーはこれです」

 

少し離れた所で先生は白いチョークを握って素振りをしている。

魔術を使わなくてもあの腕の動きから投げられるチョークで並大抵の宝石は砕けるだろうなって素振りだけで分かる。

 

「それでは、投げます」

 

テーブルの上に置かれたルビーめがけ、先生がチョークを投げる。

それと同時に火花が散り、小さなルビーに対してチョークがめり込んで……いや、違う。

ルビーがチョークを破壊している。


「……ほう、流石はミファ君ですね」

 

「私のも置きますか?」

 

ミファはニコニコとルビーを掌に置いて先生に見せる。

だが、先生は首を横に振り、チョークを新しく握ろうとはしなかった。

 

「いえ、同じ事になりますから大丈夫ですよ、今日は家に戻って休んでいて下さい。そうですね、生徒が半分戻ってきたぐらいで別の授業をやりますから、お知らせが届いたらまた学校に来てください」

 

「ありがとうございます、それでは、先生、お先に失礼します」

 

「大変優秀でしたよ、ミファ君」

 

ミファに手を握られ、彼女が複数人でのテレポートの魔術を詠唱している。

それと同時に、ルビーが粉々になり、それを見て先生も頷いて、笑っている。

 

「デュオテレポート!」

 


 テレポート先は俺達の家だった。

いや、そんな事よりも!

 

「おい! あのルビー粉々になってたぞ!」

 

「ええ、ですが先生の一撃に耐えた後に粉々になりましたから、問題ありませんよ?」

 

「そ、そうかもしれないけどさ……あれって、硬度足りてないよな?」

 

ミファは制服の上からエプロンを着ながら。

 

「まったく足りてませんよ? だから魔術で硬くしたんです」

 

さらりと宝石の硬度上昇という高難易度の魔術を使ったと言った。


「……マジか」

 

「魔術師の学校で本当に硬度の高い宝石を取ってこいなんて課題が出る訳ないじゃないですか、それじゃあハンターへの依頼ですよ」

 

魔術師なら、魔術でどうにかしろ。

そういう授業だったのかよ。

……いや気付けないって。

他の皆も気付いてなかったし、皆は普通に2日以上かけて取りに行ってるって!


「と言っても硬度を高めるにも限界はありますから、ある程度の硬度がありつつ、あのチョークに耐えられる物を探す為にある程度潜らないといけませんでした、それでも早く終わらせたかったのでギリギリを攻めましたが上手くいきましたね」

 

「最初二日って言ってたけど、あれって……本当の硬度で耐えられる物を用意しようと思ったらって事か、確かに魔術で硬く出来るならあんな場所に長くいたくないもんな」

 

「ええ、それにあれ以上いたら間に合わないじゃないですか」

 

「……間に合わない?」

 

髪を解き、フライパンを持ち、彼女は笑う。

学校とは違う、髪を解いて優しい笑顔を見せながら。

 

「はい、ナーパムの晩御飯に間に合わないから急ぎました、お腹空いたでしょう?」


俺の晩御飯を気にしていたと笑った。

 

「……あ、ありがとな」

 

「今日は頑張ったナーパムの為に、ご馳走作りますね!」

 

先生からの連絡が来たのは、それから四日後だった。

俺達の次にルビーを手に入れて戻って来たのはセイメイだったみたいで、三日とかなり早かった。



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