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ナーパムの朝事情


 俺の一日を紹介しよう。

まずは余裕を持って早起きをする、早起きはなんとかの特って言葉があったよな、確か第六大陸の言葉だったっけ?

とにかく、朝は大切だ。

 

「起きて下さい、朝ですよ」

 

「ミファ……あと5分だけ……」

 

「では朝食が出来たぐらいにまた来ます、着替えはここに置いておきますからこれを着て下さね、自分で着替えられますか?」

 

「うーん……大丈夫……」

 

ベッドから出てリビングに向かうと、寝ぼけて逆に着てしまったシャツをミファが直してくれる。

彼女は既に制服を着ているが、長く綺麗な紫色の髪は纏められていない。

学校では見せないセミロングの綺麗な髪は、魔術でも使っているのかと思うぐらい綺麗に纏まっている。

 

「シャツは裏表逆ですし、ボタンも掛け違えてますよ…はい、これで大丈夫です」

 

次は優雅に朝食を食べる。

朝食を抜く奴も多いが、それじゃ頭は回らない。

朝はしっかり食べる!

それが俺流だ。

 

「ナーパム、ほらこぼしています。口を開けて下さい、ほら、あーん」


朝食はポテトに卵、それから俺とミファの故郷の名産のソーセージだ。

しかも驚くなよ、ミファはソーセージを手作りしてるんだぞ!

故郷でもミファの味を超える店は……無いね。

 

「……ん、あーん」

 

「おいしいですか? いつものスパイスも効かせていますが薄めにしました、どうでしょうか」

 

「ミファのウインナー、おいしい」

 

眠くてぼーっとしていても、必ず食べるんだぞ!

 

飯を食べたら身だしなみの確認だ。

髪型を整えて、寝癖を無くす!

魔術師には必要ない事かもしれないが、これは人として必要な事だから、しっかりやるように!

 

「ナーパムは何もしなくていいですからね、座っていて下さい」

 

ミファと一緒に鏡台の前に座ると、世中に髪の毛が意思でも持っていて動いていたと言われてもおかしくない程の寝癖がついているのが分かった。

寝癖は厄介だが、このままじゃダメだぞ!

 

「いやこれぐらい自分でやるよ、何もかもしてもらってばっかりじゃ……」

 

「何もしなくていい、私はそう言いましたよね?」

 

「でも……髪ぐらい」

 

「そうですか、ええ、そうですか」

 

ミファは櫛を俺に渡すと、自分の準備をし始めた。

やれやれ、髪型ぐらい俺だって……!

 


 「おはよ……何その髪型」

 

教室の扉が開き、見慣れた男がやってきた。

彼は驚いた顔を少しだけ見せてから、今にも吹き出しそうな、笑いを我慢しているような表情になる。

 

「うるさい、こっち見んなセイメイ」

 

「いや見るも何も……そんな塔みたいな髪型……ププッ……嫌でも目に入るっての」

 

「笑うなって!」

 

数少ないクラスメイトの一人、セイメイが俺を見て我慢出来ずに笑っている。

彼は今日もビシッと決まった髪型をしていて、銀色の髪は跳ねたりする事なく同じ方向を向いている。

どんな手入れをしたらあんなに綺麗な髪になるんだろうか、ミファは女だからな、同性の髪型事情について後で聞いてみよっと。

 

「笑いすぎだぞセイメイ」

 

「いやすまんすまん……フフッ」

 

銀色の瞳はチラチラと俺の顔と頭を見ている。

そして目は伏せられ、笑い声がさらに大きくなっていく。

 

「謝るか笑うかどっちかにしろよ」

 

「なら精一杯笑ってから謝るわ……その頭……なんだよそれ!」

 

入学試験時に定員を設けていない、それでいて合格者ゼロの年もあるこの学科は全校生徒合わせても10人も居ない。

そんな中でセイメイは唯一、俺が友達と呼べる男だ。


彼は才能に恵まれ、努力もしている。

出来ない事なんて殆ど無いだろうが、このクラスではずっと二番だ。

 

「それにお前流石にミファさんに何でもさせすぎだろ、全部任せてるとお前一人になった時に」

「おはようございます、セイメイ君」

 

「……ああ、おはよう」

 

ミファの声を聞いて、彼は一瞬で笑顔を止めた。

あまりに急な表情の切り替わりだったのと、あまりにも無表情だったのでびっくりしたし、怖かった。

 

「さっきまで笑ってましたよね、どんな面白い話をしていたのか気になります!」

 

「何でもねぇよ、優等生さん」

 

「セイメイ君も優等生ですよ」

 

「へいへい、そーかよありがとな」

 

「それに油断しているとセイメイ君に抜かれそうで……毎日ヒヤヒヤしてます、次のテストも頑張りましょうね、負けませんよ」

 

ミファはそう言って笑顔を振りまくと、教師を呼ぶ為に教室から出ていった。


「……何がヒヤヒヤしてるだよ、一回も満点以外取ったことないくせに」


その背中をセイメイは見ている。

その瞳は俺と笑っていた時の瞳ではなく、少し苛ついているような、呆れているような感じがする。

 

「お前に気を使ったんだよ、ほら、あんな優等生さんなんて言われたらどう答えてもマイナスな答えにしかならないじゃん? 優等生さんって言われてはいとも答えられないし、だからお前にも」

 

「優しいのは分かってる、俺は別にアイツが嫌いじゃねぇから落ち着けっての!」

 

「あ、悪い」

 

俺はセイメイの前に身を乗り出していた。


「別に取るつもりもねぇから安心しろって……そんな事より、やっぱ一回ぐらい勝ってみたいんだよ」

 

ミファに勝つ。

……あんまり想像出来ないけれど、確かにそれは。

 

「それは……分かる、かも」

 

「だろだろ、やっぱ男なら勝ちにはこだわりたい!」

 

「でもさ、この学科のトップって歴代全員女性なんだよな? 男ってだけで不利だったりするんじゃないか?」

 

「ま、それはあるかもな、虹のルサンチマン先輩も女性だし……なんだっけな、男は筋肉が発達する分女は魔力が発達するとか聞いた事あるような」

 

「やっぱり!?」

 

俺の説は正しかった。

そうなると、俺が落ちこぼれなのにも納得がいく。

だってこの学科は殆どが女性、つまりもうスタートラインで不利に……。

 

「……」

 

「どうしたよ、ナーパム」

 

でもセイメイは同じ男なのにずっと二番を取ってる。


「いや、何でもないよ……あはは」

 

あっ、ダメだ、これ以上現実を見たら失明する。

 

「お前目ぇ死んでるぞ」

 

ジリジリと近づいてくるセイメイ。

彼の後ろから差す光なのか、それとも彼自身が放つ光なのかは分からないが、この光は明らかに俺の体には有害ッ!

 

「やめろ俺に近づくな! その光で俺を失明させる気か!」

 

「何言ってんだお前……」

 

友達からの攻撃に苦しんでいると教師とミファが教室にやってきた。


「おはようございます、みなさん」

 

他の数人のクラスメイトが挨拶している。

教師の男は自分の名前を一度も名乗らず、聞いても卒業したら教えるの一点張りなので、ここにいる全員があのビシッとしたスーツを着て髪をオールバックに固めた男を先生と呼んでいる。

 

「それでは早速、行きましょうか」


先生が指を鳴らすと、魔力の流れを一気に感じ、瞬きした時には俺達は教室じゃなくて、知らない屋外に移動させられていた。

 

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