ナーパムの味が好き
第四大陸北部の漆黒林に到着した。
魔力を探知される事を警戒し、馬車を使ってここまで来た。
……雰囲気あるな、今にも悪魔が飛び出してきそう。
この中で人が発狂してしまう仕組みは良くわかっていない。
何故かって?
発狂した人から何があったかなんて聞けないだろ?
分かっているのは、悪魔すら寄り付かない場所だという事と、ここで人が生活する事は不可能だという事だ。
「……嫌な場所だな」
「ナーパム、あれを見てください」
ミファが空を指差した。
おいおいおいおい、どうなってんだよあれ。
黒色の星が浮かんでいる。
月と同じ大きさだろうか、それがゆっくりと日の光を遮るように動いてやがる。
漆黒って程じゃないが、黒い星はどこか満月にそっくりで、それでいて少しづつ……大きくなってる?
「あれも教団の魔術だったりすんのかな」
俺は訳が分からず、何も考えずにそんな事を言っていた。
ミファの顔は険しく、彼女の魔力は俺を包み込みつつ、全方位を警戒している。
魔力はなるべく使うなって話だったのに、いったい……いや違う、ミファはいつだって正しい。
「……まずいですね」
そんなミファが警戒しているんだ、あの星の魔術は、とんでもない物なんだろう。
パラ先輩も信じられない物を見たと驚きを隠せない表情で空を見ている。
「……黒い月」
光は完全に黒い星に飲み込まれた。
時間は昼間だが、いまここに光は無い。
あるのはどこまでも広がる暗闇だけ。
とりあえず、まずは明かりを……。
「ナーパムくんとミファちゃん、森に入って右回りに移動していけば教会があるはずだから先に行って」
枝に火をつけようとする俺をパラ先輩が止め、動けと指示をする。
先輩は事前に場所を聞いていたのかもしれないが、あの顔、ただ事ではない。
「何故ですか、先輩」
「ミファちゃんに説明してあげたいけど時間が無いの! 森の中なら安全なはずだから……行って!」
先輩の叫び声のような大声をうけ、ミファは俺を連れて森の中に走った。
「ナーパム! 急ぎますよ!」
「後で説明してくれよ!」
先輩は来ないのかと後ろを見たが、先輩は空を見たまま動かない。
そしてスクロールを使って、誰かと喋りだした。
「……君、第四大陸に……わかってる」
ここからじゃ何を話しているかは分からないが、先輩は最後まで誰かと話をしているみたいだった。
「大丈夫ですか、ナーパム」
ミファとかなりの距離を走った。
途中、彼女に魔術で浮かされ運ばれていたおかげで特段疲れてはいないが、ミファは肩で息をしている。
周囲は背の丈程もある草が集まって出来た草原と、黒い星を隠す程背の高い木々に埋め尽くされている。
「怪我はありませんか? 体に痛みはありませんか?」
「大丈夫だよ、心配し過ぎだ」
「なら……良いのですが」
ミファは魔力を消している。
それと同時に、俺の中の魔力も抑え込み探知されないようにしてくれている。
しかしこんな場所に教会があるのか……いったいどんな教会なんだろうか。
ダルクマートの街にある普通の教会みたいな見た目なら分かりやすいんだけど……。
「……ナーパム」
「ミファさん!?」
周囲を見ていたら、ミファの顔がすぐ目の前にあった。
近い近い近い!
しかもなんだか雰囲気が変!
もしかしてこれ、え、き、キスするの?
こんな所で!?
まってまってまって、心の準備が……少し時間を……。
「んっ!」
口を手で閉じられた。
何がおこって……。
「ミウク様、ご報告があります」
男の声がする。
しかも結構距離が近い。
さっきまでそこに居なかったはずなのに、赤い鎧の剣士がそこにいやがる。
さらに奥には、純白の城と言ってもいいレベルの大きな教会がそびえ立っている。
バカな、俺達が本当にさっきまで見ていた方角じゃねぇか。
魔術で教会そのものを移動させてる、もしくは透明にしてる……のか?
「黒い月の事ですね、嫌でも把握しますよ」
ミウクだ。
あの化物がすぐ近くにいる。
「我らが主神の降臨の儀が早まったのかと、皆戸惑っています」
「あくまで実験です。降臨の儀の為の魔術がまだ二つしかありませんが、どこまで形にできるのかを試しているだけですが……やはり、月は出てしまうのですね」
「月と言えば……先日、赤い月が出現したと報告がありましたが、あれはいったい……」
「それは私にわかる事ではありませんよ」
まずい。
こっちに歩いて来てる。
魔術を使えばすぐに捕まるだろうし、動いても見つかる。
ヤバいヤバいヤバい!
ミファは……落ち着いてやがる。
何かここから逃げる方法を知っているのか?
それとも、大丈夫だと分かっている……とか?
ないな、ないない。
ミファの事だ、きっと色々考えてるに決まってる。
ミファがいるんだ、絶対に大丈夫。
「ミウク様大変です! こ、降臨者が現れました!」
あと少し、本当に一歩でも前にでていれば見つかってしまうであろう場所にミウクと男が来た時、別の男の声がした。
降臨者が現れたって?
……タイミングが良すぎるけど、ナイス!
「わかりました、私が相手をします。貴方達は祭壇を回収し、一度ダイボーナに戻って下さい」
ミウクが離れていく。
これは……すっごいチャンス!
あの男二人、あの時の赤い剣士と同じ装備だから油断は出来ないけれど、ミウクを相手にするより100倍いい!
まぁ、アメアの魔術があればもしかしたら戦えるかもしれないけど、今日は戦いに来た訳じゃないからな!
「降臨者ですか、紫か黒のどちらでしょうか。赤は……無いですね」
知らない事を言いながら、ミウクが見えなくなるぐらいに離れた。
よし!
ミファ、今がチャンス……って!
「……怯えたり喜んだり、最高に可愛いですよナーパム」
ミファは俺の口を閉じていた手を離したかとおもいきや、人差し指と中指を俺の口に入れ、舌を掴んでいる。
「や、やふぇろ」
指が邪魔で上手く喋れない。
「私がいるから大丈夫だと心で連呼して、あの聖女が居なくなったらホッとして、戦えるけど戦わないだけとか考えて……何もしない、出来ないナーパムは最高に可愛いです!」
彼女の指から舌が解放されるまで、5分近くもかかってしまったが……。
「ん、ナーパムのダメ人間唾液、おいしいですよ」
俺の口でベトベトになった指先を舐める彼女は……めちゃくちゃエロかった。




