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俺の幼馴染はちょっと変わった優等生  作者: ケイト


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19/25

借り物の力


 

 魔術師にとって一番危険な事は何か。

ミファにそう質問されて俺は魔力が切れる事だと答えた記憶がある。

あの時、彼女は旅をしていた魔術師から色々と旅の話を聴いていたらしく、同じ質問をしたのだと言っていた。

当時俺は魔術はおろか魔力すら扱えなかったが、それでも知識として知ってはいたのでそう答えたが、彼女は違うと言った。

 

そして一番危険な事は、己が恐怖する事だと言われた。

 

最初意味が分からなかったが、今なら分かる。

恐怖で頭が回らないと、魔術の発動が出来ないからだ。

 

「ヒッッッッ!」

 

日が沈み星々が現れるのと同時に、蜘蛛のような悪魔の群が攻めてきた。

しかも、この西側戦場だけでなく、北側と南側まで、ここ数ヶ月で一番の勢いで攻勢を仕掛けてきているらしい。


さらに困るのが、あいつらの背中にくくりつけられている子供達。

魔術を使って攻撃しようものなら、確実にあの子達も殺してしまう。

ラエルさんから貰ったこの魔術じゃ、焼き払う事は出来ても守る事は出来ない。


「あのっ!」

 

俺の呼びかけを無視し、兵士達は弓を構えている。

そして何の躊躇いもなく、子供ごと悪魔を貫く矢を放つ。

子供の叫び声は徐々に小さくなり、悪魔と共に沈黙する。

それが、数回、数十回も目の前で起きている。

 

「魔術師! 早く手を貸せ! 食い破られるぞ!」

 

傷だらけの兵士が俺に魔術を使えと叫ぶ。

俺に、人殺しになれと言っている。

出来ない、こんなの、無理だ。

俺達は悪魔と戦う為に学び修行してきてるんだ、人を、それも子供を殺す為なんかじゃない。

 

「さっさとしろ!」

 

「できません!」 


高台に登ってきた兵士は俺が拒否したのを聞いて殴ってきた。

ものすごく痛い。

頭まで響くような、感じた事のない衝撃。

ミファにフライパンで殴られた時とは比べ物にならない。


「ガキ! よく見ろ、アレを止めなきゃ俺達全員死ぬんだぞ!」

 

死ぬ。

でも、それでも……こんなの、ここで子供を殺したら、ミファは俺を軽蔑するに決まってる。

俺が望んだ、魔術師の姿じゃない!

 

「クソッ! 守備を固めろ、北側は薄いらしいからそこをまず突破して……何? もう片付いただと?」

 

兵士が魔術の込められたスクロールを開いて誰かと話をしている。


「ならこっちに回してくれ! こっちの魔術師は使えない!」

 

みんなからの視線と暴言が痛い。

でも、俺からすればお前達が間違ってる。

人質の子供達を、何の感情も無しに殺せるお前達が間違っているに決まってる。

 

「魔術師! 後ろ!」

 

兵士の声で振り向いた。

そこには、蜘蛛形の悪魔が二匹俺めがけて飛びかかるように空中にいる。

口に見える鋭い牙。

鉄のような頑丈さがありつつも、生物としての見た目を保つ足。

そして、真っ赤な赤色の目が無数にある。

それが、俺を殺そうと攻撃してきている。

 

このままじゃ、死ぬ!

 

「アメア・フレイム!」

 

反射的に、俺は魔術で迎撃していた。

それも、アメアを使っての攻撃だ。

周囲には炎が広がり、人が焼ける時の吐き気を催す匂いと、燃える悪魔の匂いが充満し、この戦場に広がっていく。

匂いだけじゃない、炎も広がる。

悪魔から悪魔に炎が移り、気がつけば悪魔の群がいた場所は炎の海に飲まれてしまっていた。


「やるじゃねぇか!」

 

兵士達の歓喜の声と共に、小さな、幼い叫び声が聞こえる。

悪魔は……どっちだよ、クソッ!

 

膝をついてその光景を見ているだけしか出来ない俺を、兵士達は英雄だともてはやす。

やめろ、こんなの、ミファが見ても認めてくれる訳がないだろうが!

 

「俺は……なんて事を……」

 

脳裏に焼き付くあの光景。

これからも、忘れる事はないだろう。

炎の魔術を使う度に、俺はあれを思い出す。


「貴方があれをやったんですの?」

 

高台に、ルサンチマン先輩が来ていた。

後から聞いた話だが、北側の魔術師というのは先輩の事だったらしく、ここの為に駆けつけてきてくれたらしい。

そんな彼女は、驚きながら燃える光景と俺の顔を交互に見ている。

責められて当然だ、魔術師失格だと言われても仕方ない。

 

「あの燃える範囲と威力……貴方!」

 

剣を構える先輩。

兵士達はそれをみてもなお、拍手を止めない。

彼女の顔は驚いていた者から、酷く嫌悪するような顔になり、そして。

 

「アメアの……運命の魔術を持っていますね」

 

だれにも話していない、俺の秘密の魔術について言い当てた。


「……先輩、知ってるんですか」

 

「ええ、わたくしと師匠が手を焼いた相手がその魔術をよく使っていましたもの、よーく覚えてますわよ」

 

剣先が頬にあたる。

軽く当たっているだけなのに、肌が軽く斬れて出血をする。


「失礼、動かないでください」

 

その傷口に先輩は指を押し当てた。

痛むが、そう言える空気でもない。

 

「……ハズレですわね」

 

先輩はそう言うと、指を離して取り出した綺麗な……赤色のハンカチで指を拭いている。

何故赤なのかとおもったが成る程、あれなら血の色がめだたない。

 

「借物の力に頼るのはよくありません、ですがそれに気付くのは力を失った後でしょうから何も言いません、後は……自分で考えて下さいな」

 

「あの……」

 

「何ですの? 言っておきますけど、教えろとか言われても……」

 

「俺、人を殺したんです。あの悪魔達が背負っていた子供達を……焼き殺してしまったんです!」

 

何故こんな事を泣きながら先輩に言うのか分からない。

ただ誰かに怒って欲しかったのか、励まして欲しかったのか、それとも褒めて貰いたかったのか、自分の心の中がグチャグチャで、どうしたいのか自分でも分からない。

この狂った環境で、正しい答えを求めているでもいい。

狂えない俺を狂わせる答えを求めているでもいい。

何か、言葉が欲しかった。

 

「ええ、あれは見事です、悪魔を一撃であれ程葬った、それは認めましょう」

 

この人は俺の殺しを認めている。

認めてもらえた。

でも、彼女はミファじゃない。

 

「まさか、子供を救おうなどと考えてはいませんか?」

 

「……救うべきでした」

 

「いいえ、弱いのが悪いのです。もっと言うならば、あの子達を守れなかった大人が弱かった、それだけですわ」

 

ならどうすれば良かったんだ。

……襲われる前に、あんな人質が出る前に、悪魔を葬れば助かるのか?

そうだ、そうに決まってる。

絶対に、そうだ!

 

「もし罪悪感があるのでしたら、この前線の先に悪魔の巣があります、そこを借物の力で破壊してきたらどうですか?」

 

「……わかりました」

 

悪魔の魔力の多い場所。

そんなの、少し探せばすぐに見つかる。

俺はその場所を目指して一人前線からさらに前に進んだ。

 

子供達を殺した贖罪の為か。

ミファに認められる為か。

どちらの為なのか……。

 

「ミファは、子供を殺した話を喜ばないよな」

 

巣を破壊する。

これならきっと、贖罪にもなるしミファにも認めて貰える。

 

『ナーパムは凄いです!』

 

「ああ、ミファ、俺が守ってやる」

 

居ないはずのミファが見える。

彼女は俺の隣に立ち、巣のある方向を指差して笑っている。

破壊してみせろと、笑顔がそう言ってる。


「見てろよ」

 

彼女はついてきてくれるらしい。

俺の活躍を、彼女専用の特等席から見たいようだ。

なら、見せてやるしかない。


 

「……おい、あのガキ魔術師、何一人でぶつぶつしゃべってんだ?」

 

「あれじゃねぇの、悪魔と戦ってる時に偶にある……えーっと、なんだっけ」

 

「幸夢障ですわね、彼の脳内は今状況の理解が間に合わず、何か都合の良い考えと、感情で動いているのでしょう……」

 

「それだそれ! ってそれまずいんじゃねぇの? 金髪の魔術師さん、助けてやれよ」

 

「わたくしが?」

 

「ああ、なんてったってあんな爆炎を起こせる魔術師はそういねぇだろ、ありゃ人類の宝になる男だぞ」

 

「人類の宝ですか……師匠とタリラ様に連絡するべき……いや……あの程度ならわたくしとラタで……」

 

「お嬢ちゃん?」

 

「あの人なら大丈夫ですよ、ずっと外からも内側からも監視されていますから……時が来たらきっと彼女が助けますよ」

 

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