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俺の幼馴染はちょっと変わった優等生  作者: ケイト


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黄金の闊歩


 

 このご時世、行き倒れていたり、悪魔との戦闘で傷を負っていたりする人間は珍しくない。

それを狙い、金目的で法外な値段で治療を施そうとする人だって珍しくない。

俺も生活費の為に回復魔術を勉強したけれど、ミファにそんな事はするなと激しく怒られた過去がある。

 

「ラエル様ッ! しっかりして下さい!」

 

ダルクマートの郊外、森の中で山菜の採集をしていると少女の悲鳴のような声が聞こえてきた。

嫌な予感がして、俺は過去の事を少し思い出していたんだが、やはり予感は当たっていた。

 

「少し休めば……大丈夫……」

 

「大丈夫ではありません! 血が、こんなに……」

 

普段ならミファに危ない事には関わるなと言われているし、見て見ぬふりをする。

だが、あまりにも……酷いな。


大きな岩の影に隠れるように、黒い服の男が倒れている。

乾いた地面が彼の体から流れる大量の血液を吸って赤黒く染まり、地面とは逆に隣にいる少女の顔色は青くなってる。

ここからでも分かるが、男は二つの大きな傷を腹部と足に負っている。

一つ目の足の傷は剣で切られたような、傷口と服が綺麗に斬られているもので、骨まで届いていそうだ。

 

腹部は……空間を捻じ曲げる魔術でもくらったのかと思うぐらい、酷い。

皮膚は破裂し、骨が突き出している。

アレをどうやって治すんだ。

神官なら助けられるだろうが、いったいいくらかかるのか分からない。

 

「いったい何と戦ったらあんな」

 

「そこにいるのは誰ッ!」

 

あまりの傷の酷さに思わず独り言を言った瞬間、少女が俺を見た。

緑髪の、10歳ぐらいの少女だ。

杖を握り、俺を睨んでいる。

だが杖が重いのか、プルプルと震えているし、目には涙の跡もある。

 

「貴方……魔術師かッ!」

 

「まてまて! 俺は山菜を採りに来ただけなんだって、ほら、持ってるのも山菜の入った袋だけだろ!」

 

「もう騙されませんよ! 術式番号21!」

 

彼女は知らない魔術を詠唱した。

どんな魔術だ、どこから来る?

戦闘はしたくないけど、仕掛けられたら……ん?

何も……起きない。

 

「魔力が……そうだ、さっきの戦いで使い切って……」

 

「何があったか知らないけど俺に戦う意志はない! だから杖を向けるのを止めてくれ」

 

杖を奪うか?

いや、もう戦闘になっちまったんだ、二人まとめて灰にするか?

流石にそれはできないよな。


「こ、来ないで……」

 

俺が少女の杖を取り上げる為に近づくと、少女が一歩後ずさる。

そして足元の男を見てから、二歩前に出た。

 

「わ、私はラエル=ラエルド様の付き人のウィン! それ以上近づくなら殺しますよ!」

 

ラエル=ラエルド。

聞いた事が無い。

あの男、もしかして高名な魔術師なのか?

魔力の流れは……。

 

俺は彼の魔力を見た。

七種類の違う色をした魔力が彼には流れていて、そのうち三つは濁っているような不透明さがある。

だが何だあの魔力。

見た事の無い程の、巨大な魔力だ。

アレは……ライフさんじゃないと対処出来ない。

 

「痛ッ!」

 

少女がふらつき、杖で体を支えている。

魔力が足りないまま魔術を使ったせいで体が痛むのか、足がガクガクしているし、左腕はだらりと力無く、目からさらに涙が溢れ出る。

 

そんな事より、あの人だ。

あの状態でも俺を殺せる。

確実に、確実に死ぬ。

 

「回復魔術が使えるんだ、助けたい」

 

「そんなの……信じる訳が……」

 

「……ウィン……大丈夫だ」

 

「ら、ラエル様っ!」

  

血を吐く男にウィンと呼ばれた少女が駆け寄った。

足が上手く動かないのか、隣に倒れ込み、その衝撃で頭を岩にぶつけて出血するが、お構い無しに肩から下げたバッグの中から何かを探している。

 

「イコール様に貰った薬です、今使うべきです!」

 

「ダメ……だ、それは、我の為の物じゃ……ない」

 

「そんな事を言っている場合ではありません! ラエル様、さぁ飲んで下さい」

 

「無理だ……飲めない……胃や内臓がグチャグチャだ、飲んでも……意味は無い」

 

薬を使えるレベルまででいいなら……俺でも治せる!

心中で約束を破る事についてミファに謝罪しつつ、俺は男に近づいた。

 

「やめて下さい……ラエル様に酷い事しないで下さい……お願いします……お願いしますから……」

 

「そんな事しない! ……よし、キュアメデック!」

 

初級の回復魔術のキュアメデックじゃ出血した血液は戻せないし、痛みも殆ど取り除けない。

さらに傷口を塞いでも、運動すればすぐに開いてしまう。

だけど、今は傷口を塞げばいい!

 

「……なんだこれ」

 

魔力が吸い取られる。

発動に必要な魔力を超えて、俺から魔力がどんどん消えていく。

 

「傷口が……塞がっていく」

 

「さっさと薬を飲ませろ!」

 

ウィンは小さな小瓶を取り出し、幾重にも魔術施された紙を破り捨て、蓋を開けた。

そして、男の口に薬を流し込む。

それと同時に、目を焼くような黄金色の光に包み込まれた。

 

 


 「……あのー、生きてます?」

 

杖で頬を突かれている。

あれ、俺は……。


「ウィン、恩人に失礼だ、止めろ」

 

「あわわ……そうでした、えっと、これで……」

 

頬に当たる物が杖ではなく、落ちていた木の枝に変わる。

いや、殆ど変わってないけども。

空が暗い。

そうか、あの時、凄まじい魔力と光で意識を失ってたのか。

俺はいったいどれだけここで気絶してたんだ?

もう星が見えてるじゃねぇか。

 

「ウィン、それも失礼だ」

 

「そうなると……石で」

 

「それは洒落にならないからぁ!」

 

「うわっ!」

 

俺が体を起こすと、ウィンはラエルさんの後ろに隠れてしまった。

そして俺の足元には結構デカ目な石が置いてある。

まさかあの女の子、これで俺の頭を叩こうとしてた?

助けたのに殺される所だった……。

 

「すまない、ウィンの無礼を許して欲しい。言い訳にしかならないが見ての通り彼女はまだ幼いのだ」

 

ラエルさん……すげえ、あの傷が全部治ってやがる。

薬のおかげか?

それしか考えられないけれど、だとしたらあの薬は神官の魔術と同等、それ以上の魔術が込められた物になってくる。

聞いた事ないぞ、そんなの。

 

「だってラエル様以外の異性に触りたくないんです!」

 

「……すまない、ずっとあの感じでな、我の教育の不足だ」

 

そしてこの人、ラエルさん。

何処かで見た気がする。

……あっ!

黄金の闊歩。

あの絵だ、図書館の四階にあった絵だ。

顔だと顔の所の作りがめちゃくちゃだったけど、着ている服と身長は絵の中と全く同じだな。

 

「さて、恩人よ、欲しい物はないか?」

 

「え? 欲しい物ですか?」

 

「ああ、我は恩義を重んじる。恩人の君に何か返せるものがあればよいのだが」

 

あの絵があったって事実。

それに、この人の中にあった凄まじい量の魔力とあの七種類の魔力。

この人は……圧倒的強者、卓越した魔術師に違いない。

 

「俺に魔術を教えてくれ!」

 

俺はそう口にしていた。

この人の教えを受ければ、俺だって圧倒的成長ができると思ったからだ。

 

「魔術を欲するか、ではどのような魔術を望む?」

 

どのような魔術か……つまり、教えてもらえるのは一つだけって事だろう。

師匠になってくれって言いたいけれど……。

圧力が凄くて、言い直す事なんて出来やしない。

気を悪くされたら絶対殺されるし。

 

「恩人よ、難しく考えるな。では攻撃か防御、この二つで言えばどちらだ」

 

「……それなら、攻撃です」

 

「では恩人に合った物を授ける、目を閉じ、気持ちを落ち着かせよ」

 

ラエルさんに言われた通り、俺は目を閉じた。

警戒すべきだと一瞬だけ思ったが、この人相手に警戒した所で生存時間が一秒から二秒になるだけで変わらないと思い、魔術での警戒も止めた。

 

「炎の魔術が得意か……ふむ、だが魔力量は多くない……ウィン、恩人に合う物はやはり"運命"か?」

 

「だと思います! 一応"金剛"と"適応"も使えるとは思いますが、隣接大陸の魔術ですし、一番使いやすいのは"運命"です!」

 

何を言ってるのかさっぱりわからん。

だけど、口を挟めるような感じじゃないし……。

 

「では"運命"を授けよう、恩人、目を開けよ」

 

言われた通りに目を開ける。

それと同時に、自分の脳裏に知らない魔術が浮かび上がる。

それの術式はこれまで見たどの魔術の物より長く、複雑で、何故これで発動するのかも分からない。

魔力を変換する量は凄まじく、かなりの時間がかかるだろう。

 

「授けたのは"運命"の魔術、使い方を教える、構えよ」

 

ラエルさんが木の枝を持ち、それを岩壁にもたれかかるように置いた。

あれを……魔術でどうにかしろって事だよな?


「運命の魔術を発動し、その後使いたい攻撃魔術を選んで使え」

 

不慣れな魔術は大抵発動が出来ない。

言うなら早口言葉を最初から言えないのと同じで、慣れていないからだ。

だけど、俺はこの始めて使う魔術を簡単に発動できた。

そして、知らないはずの魔術の名を詠唱する。

 

「アメア」

 

俺の中の魔力を100とすると、この魔術を使うだけで50は持っていかれる。

最適化も、効率化も術式をどういじるのか分からない以上出来ないな……。

 

「攻撃魔術だ、枝を狙え」

 

「アメア・フレイム!」

 

フレイムは火を起こし攻撃する魔術だ。

その火の大きさはだいたい人の頭程度で、この魔術一撃で悪魔を倒す事はできない。

込める魔力を減らし、日常生活に使う人もいるぐらいメジャーで、威力の無い魔術だ。

 

俺の前では、フレイムではあり得ない程の爆炎が広がる。

目の前でライフさんレベルの魔術師が爆発魔術でも使ったのかと思うレベルの、あり得ない威力の爆風が吹き、炎が広がっていく。

炎は俺達を飲み込むが、見えない魔術で作られた壁らしき物が三人を守っていて直撃はしない。

それでも、炎の勢いは止まらず後ろにあった木々にまで届いて木を燃やす。

そして、あり得ない程の速度で灰になっていく。

 

「何だ……この魔術……」

 

「それが運命の魔術だ、この魔術使用後に使用する魔術の効果や範囲全てを最大化する。魔術に込められたこうあるべきと言う運命を変える物だと覚えておくといい」

 

この力があれば……俺も最強の魔術師だ。

ミファにも認めてもらえるし、もう落ちこぼれなんかじゃなくなる。


「だがその魔術は恩人の魔力量では連発出来ない、だから使い所を間違えるなよ」

 

師匠なんていらない。

この力が……フフっ、そうだ、ミファをおどろかせてやるか。

前線での悪魔との戦闘、このアルバイトは常に募集されているが、生存率が低く人気の無い物だ。

しかし金払いは良く、しかも前金で貰える。

大金を持って、彼女を驚かせてみせる。


「恩は返した、ウィン、一度フィッタイトに戻るぞ」

 

「イコール様……怒るかな」

 

「それは我から説明する、怒られるのは我だ」

 

「ラエル様が怒られるなら私が怒られてきます!」

 

「では恩人よ、達者でな。第六大陸の魔術師と剣士には気を付ける事を勧めておく」

 

魔術の威力と、これからを考えているうちに、二人は消えていた。

かすかに聞こえていた会話から、フィッタイトに向ったのはわかるんだが……つまりあの人は大陸間のテレポートが出来るって事か。

やはり、すごい人だった。

 

「ありがとうございます、ラエルさん」

 


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