魔術剣姫 ルサンチマン
ルサンチマン先輩はミファを超える優秀な人だ。
ミファも先輩に懐いているし、先生からの信頼も厚い。
魔術を使えば一騎当千、知恵を絞れば不可能を可能にし、笑顔を振り撒けば落ちない男はまずいない。
実際あの人はとても可愛い、違うな、綺麗だ。
輝く金色の髪は痛み一つ無く、女性らしいと言っていいのか分からないが、小柄で明るい。
そんな人が、ついに学校に戻って来た。
その噂を聞き、強さの秘訣を知る為に上級生達のクラスへ向った俺だったが、そこにいたのは……。
「わたくしが優秀な魔術師? それ、嫌味で言ってますの?」
「ルサンチマンちゃん違うの! あのね、本当に私はそう思ってるから……」
「貴女はラタを知っているでしょう? 優秀とはラタの事を指す言葉ですの、わたくしにはふさわしくありません」
ピンク色の長い髪をした女子生徒が、ルサンチマン先輩の前で半泣きになりながらオロオロとしていて。
「でも……ラタちゃんは人間として」
「わたくしの親友を馬鹿にするのはやめてくださいませんか」
そんな彼女に対し、腰から下げた剣を抜いて、噂の笑顔を見せる事なく苛ついた表情、もしくは怒りの表情で睨みつける変わってしまった先輩だった。
「ご、ごめんなさい」
「パラ=ミーラさん、次ラタを批判したらわたくしは貴女を殺しますわ」
あのピンクの人、パラ=ミーラさんって言うのか。
しかし上級生の髪はみんな綺麗だな、ピンクの髪が輝いてやがる。
それに結構胸もある。
雰囲気は……ドジなお姉さんって感じだ。
「殺すって……そんな大袈裟な」
「あら、わたくしとラタが第六大陸で何をしていたかご存知無いのですか? 人も妖怪もこの剣で殺してきましたのよ、今更一人殺しても心は痛みませんわ」
全然噂と違う。
殺気立っていて、近づくだけで殺されそうな人だ。
金色の瞳はどこか疲れているようにも見えるが、迷いが無いようにも見える。
彼女の足より少し短い剣は、一切動かずにパラさんの心臓を一突き出来るよう構えられている。
これじゃまるで……剣士じゃないか。
「ごめんなさい! だからその、昔みたいに」
「謝るついでに一つ覚えておいて下さい、貴女は先程こう言いましたね"わたくしなら勇者候補生になれる"と」
「うん……言った……よ」
剣先が少しだけ動いた。
それと同時に、パラさんの綺麗な長い髪が切られ、腰の長さまであった物が、肩の所までに減ってしまっている。
剣の軌道は見えなかった。
剣とはあそこまで早く、正確に動かせる物なのか?
それも、数カ月前まで魔術師だった彼女がだ。
「わたくしは勇者を目指さない、あのクズ男の話は今後しないようにお願いします」
「ひっ……ご、ごめんなさい! 私はそんなつもりじゃなくて……もう言わないから、許して……下さい……」
「ああそれと、そこに落ちているゴミは貴女が片付けておいて下さいな、これはラタを馬鹿にした罰ですの」
落ちた髪を剣先で指した後、剣を鞘に戻し、先輩はこっちにやってくる。
俺に用事がある訳では無い、ただ教室から出ようとしているだけなのは分かってる。
そして入口近くで突っ立ってる俺邪魔な事も、十分に分かる。
彼女の殺意を直接向けられた訳では無い。
それでも、第三者として見ているだけでこんなにも足が重く成る程の恐怖をばら撒くなんて……。
「邪魔ですわ」
落ちた髪の毛を踏み、俺の前を横切って彼女は教室を後にした。
あの方向、おそらく校長室か職員控室に向ってるな。
「……話と違いすぎるだろ」
魔術師として成長する為の秘訣とかを聞きたかったけど、今の先輩からは何も得られそうにない。
そもそもさっきの一連の流れで一度も魔術を使った形跡が無いし……魔術で作り出した剣を使う戦い方があるのは知ってるけど、アレは本物の剣だから……魔術師の戦い方じゃないよな。
「くずっ……なんで……私はただ……返ってきてくれて嬉しくて、また仲良くしたかっただけなのに!」
先輩の事を考えていると、教室の中のもう一人の先輩が泣き出した。
俺以外の見物人はそれを見てヒソヒソと話をしながら見て見ぬふりをし、皆どこかに消えていく。
俺もとりあえず教室に……。
「大丈夫ですか?」
前の俺なら見て見ぬふりをしていた。
他の奴らと同じ事をしていた。
でも、俺は成長してミファを守れるようになると決めたんだ、だから、困っている人の一人ぐらい助けないと。
絶対に目の前の人を助けるのは、ミファを守る事より簡単なんだから、逃げちゃダメなんだ。
「ふぇ?」
涙を流す先輩に、俺は持っていたハンカチを渡すと彼女はそれを受け取り涙を拭いている。
「噂とは違いましたね、ルサンチマン先輩」
「……だね、私の記憶の中の姿ともかけ離れてたよ」
この人と先輩がどんな関係だったのかは知らない。
でもこの人は恐怖で泣いていると言うより、変わってしまった先輩に対して、困惑し、どうすればいいのか分からず泣いているような感じがする。
その証拠に、彼女の手は震えていない。
「片付け……と言っていいのか分かりませんが、手伝いますよ」
「うん、ありがとう」
切られた髪の毛を箒で集めながら、彼女は自己紹介をしてくれた。
名前はさっき言われていた通りのパラ=ミーラ。
何でも、ルサンチマン先輩とはこの学校に来た時からの友人で、これまで三年間一緒だったがあんな彼女は見た事がないらしい。
「そう言えば、さっき知らない名前が出てませんでした? えっと、ラタさん? で、いいんですか?」
「うん、ラタちゃんで合ってるよ」
「そのラタさんって方の事を随分……気に入ってるというか、執着しているように感じましたけど、どんな人なんですか?」
パラさんは箒を動かず手を止めた。
そして頑張って作っているだろう笑顔で、説明をしてくれる。
「名前はラタ・ルリラだよ、何となく分かった?」
「……いえ、まったく」
「ルリラなんだよ、あの子」
ルリラ?
えーっと、それ何?
でもすっごい聞きにくい。
えーっと、思い出せ、なんか聞いた記憶は……。
『……ルリラ様と転生者、そして勇者様は魔王と』
思い出したぞ。
ミファとやっていた歴史の勉強の中に名前が出てきていた。
もしかして同一人物なのか?
「あの魔王と戦ったっていう……ルリラですか?」
「それはラタちゃんの師匠のタリラ・ルリラ様の話、あの子はそのタリラ様の弟子なの」
タリラ・ルリラ。
言われてみればそんな名前だった気がする。
どいつもこいつもすっごい人を親に持ったもんだよ。
セイメイにはライフさんがいるし、ラタさんにはタリラ様がいる。
産まれた瞬間から魔術師として成長する環境に差がありすぎないか?
「よし、あとはこれをまとめてゴミ箱に入れるだけ、手伝ってくれてありがとう。えっと……名前、教えてくれる?」
「パラさんの話を聞いてばっかりで名乗ってませんでしたね、俺はナーパム・エストスです」
「ありがとう、ナーパム君! あとさ、ハンカチは洗ってから返すから少し待ってね」
「わかりました、俺自分で言うのも何ですが落ちこぼれなんで補習受けてる事が多いんです、その時に見かけたら返して下さい」
何故かこのタイミングでパラさんは笑顔になった。
何処にそんなタイミングがあったんだ、落ちこぼれって所か?
そんな事を考えていると、俺の手はがっしりとパラさんに掴まれた。
「私も落ちこぼれなの! だから、仲良くして欲しいな!」
「えっと……は、はい」
力強……くは無いな。
ミファに比べたら全然弱い。
普通の女の子の力だ。
「優しくて話を聞いてくれて味方になってくれる、さらに同じ境遇、こんな素晴らしい後輩が友達になってくれてうれしいな」
「あはは……あー、笑って良かったんですかね、パラ先輩」
「私の事はパラでいいよ、ナーパム君」
「なら俺もナーパムで大丈夫です」
「えへへ、新しいお友達が出来た、わーい!」
そんな話をしていると、時計はもうすぐ次の授業が始まる時間を指した。
俺はパラさんに色々教えてもらった礼を言ってから、自分の教室に戻ってきたんだが。
「後で友達の印あげるね!」
あの人、人としては悪くないよな。
明るくて、優しくて、友達思いのいい人じゃないか。
俺はルサンチマン先輩よりも、断然パラさんの方がいいね。




