激怒するミファ
リビングで本を開き、まずは片付けからやってみる。
本にはコツとして、複数の事を一度にやろうとするな細かく一つ一つを完璧に!
そう書かれていたので、早速やってみる。
「……よし!」
その結果、グチャグチャだった部屋は綺麗に整った。
すごい、すごすぎるぞこの本!
"魔力ゼロの魔術師でもできる片付け講座"
この本を選んで正解だった。
他の本はどうだろう。
この魔力ゼロシリーズ、略して魔ゼロを借りてきたけど……。
「見せてもらおうか、お前の実力をな!」
料理の本を開く。
言っておくが難しい料理専門の言葉なんか出すなよ?
その時点で詰むからな!
「えーっと、まずはかりを用意して……ふんふん、成る程うちにははかりなんて……お?」
コップに入れるだけで今何グラムの水や調味料が入っているか分かる魔道具が本から出てきた!
すごい、これなら間違えようが無い。
鍋にこれを入れてから、水とスパイスを入れていく。
途中おおくなり過ぎたが、真っ白な魔道具が赤色になって警告をしてくれたお陰で適量に戻った。
次は、煮込む野菜のカットだ。
「野菜の大きさは食事用ナイフの四分の一ぐらいか……できるかな……お?」
本の後側が光っている。
そのページをめくると、透明なシートが現れた。
だが透明なだけじゃない、野菜の種類ごとにカットする大きさの見本がそこに描かれていて、切った物を載せれば合っているかどうかが分かる。
この本さえあれば、俺は料理をマスターしたも同然!
ミファの奴、驚くだろうな。
『ナーパムがこれを作ったの!? すごいです、これからはナーパムに御飯を任せてもいいですか?』
なーんて言われて頼られたりするかも?
そう言われたらどう言い返そうかな、最初は断ってみるかな、んで、ミファが泣きついてきたら……。
「お前が居なくても、俺はやっていけるんだぞ」
この決め台詞を言ってミファからの評価を……。
「ナーパム、何をしているの?」
「え……お、おかえり、帰ってきたんだな、玄関の開く音も気配もまったくしなかったけど……とにかくおかえり!」
クソ、料理をサプライズとして出したかったのに!
「何を、しているの?」
「料理だよ、お前を見返したくてな……ほら、料理だけじゃないんだ、部屋が綺麗になってんだろ? これも全部俺が」
体が動かない。
比喩じゃない、本当に、指一つ動かせない。
いったい……何が。
「……ナーパム、何故こんな事をしたのですか」
「だから……お前に認められたくて……喜んで欲しくて」
「ダメです」
「ダメなのは今の状況だっての!」
体は動かないが、口は動く。
それでも首は動かない。
俺の目の前まで近寄ってきたミファの瞳は、どんよりと濁ったアメジストのような、鈍い光を放っている。
「ナーパムは何もしなくていいの」
彼女の瞳から、見続けると吸い込まれそうな、落ちていきそうなあの瞳から目が離せない。
この目、この目は……。
『ミファちゃん! あのね、ミファちゃんのおともだちの……ちゃんってとってもかわいいからお友達になりたいな!』
『……ナーパムくん、こっち見て』
『み、ミファちゃん? どうしたの、そんな怖い顔して……』
子供の頃、ミファの友達の事が好きになったと相談してブチギレていた時と同じ瞳だッ!
やっべえ、どうするよこれ。
落ち着け、まず何がダメだったのかを考えろ。
「何もしないで、何も出来ないくせに、成長しようとしないで」
……まさか、いや、あり得るぞ。
確かに俺は今日、手前に置いてあった野菜と卵を使ったし、肉も新しい物を使っている。
そしてこの間のアルバイトは失敗してお金が無い。
そんな状況下で、俺は腐りやすい古い野菜と肉を無視して、新しい物から使ってしまっている。
こんなの、何も出来ないと言われても仕方ないじゃないか。
さらに片付けた部屋だ。
整理整頓したのはいいが、途中でミファの下着を見てしまったのも事実。
何もしないでと言われても……いや、年頃の女の子のミファが言うのは至極当然!
「……ご、ごめん、俺が勝手な事したから……怒ってんだよな?」
「ナーパム……分かってくれましたか?」
「ああ、お前の黒色の下着を勝手にしまった事とか、腐りやすい物から使うって当たり前が出来てなかったから怒ってんだよな? ……わかってるよ」
「……え?」
「だけど一言言わせてくれ! あの黒色の下着はほぼ隠せていない! あんな下着はもはや下着じゃなくてただの」
「ナーパムのスケベ!」
フライパンが浮かび上がり、俺の頭を叩く。
へぇ、人の頭ってこんないい音するんだなぁ。
「あ、強くやりすぎました……大丈夫ですか?」
「頭が……星が回ってる」
ミファは謝りながら俺の頭を膝に載せ、ゆっくりと頭を撫でた。
「ごめんなさい、少しだけ取り乱しました」
本当に申し訳ないと思っている。
そう確信出来るほどの落ち込んだ顔だ。
ここで大丈夫以外の答えが言える程、男を捨てていない。
「大丈夫だ」
本当は全然大丈夫じゃないけれど!
でもここは空気的に大丈夫って言うべきだから我慢して言ってんの!
「でもナーパム、貴方は本当に何もしなくていいんです。料理も洗濯も片付けも起きるのも歯を磨くのも……全部、ぜーんぶ私がしますから」
「俺はさ、少しだけだがお前が居なくなったこの家で生活して分かったんだよ、お前が居ないと俺は何も出来ない。だから、そんな俺を変えたくて」
「……! なら、私はずっと側にいます、ナーパムの隣にずっといますからね!」
変わっているが、彼女は本当に優しい。
こんなダメな俺をまだ支えようとしてくれている。
「……ありがとな」
家事は出来なかった。
なら、俺は何をしてミファにこの恩を返せるんだ?
勉強も出来ない、家事はダメ。
そうなると……もう、魔術しかない。
「もう少しだけ、頑張ってみるよ」
ミファに笑顔を見せた。
俺なりの決意を込めた、期待していろって笑顔だ。
「……まだダメか」
「ミファ? 何か言ったか?」
「いえ、期待していますよナーパム! でも家事は全部任せる事、約束して下さい!」
「わかった、頼むよミファ」
ミファが何かを言ったような気がしたが、気の所為か?




