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第四大陸の二人の魔術師


 外の海の外からやってきた悪魔との戦争が始まって百数十年。

三つの大陸は失われ、俺達のいる第四大陸、アメア・ローフィンが今は最前線となっている。

 

そんな最前線の街、ダルクマートの中央にあるルーフィン王立学校には三種類の学科が存在する。

一つ目は直接魔術とは関係ない学科で、ここを卒業すると就職に有利だったり、理論の追求をする人の為の学科、高級学科。

 

二つ目は魔術師見習いとして、魔術師の才能があると判断された選ばれた人が魔術師の基礎を習う為の魔術師養成学科。

ここに入るのもかなり苦労するんだが、それを上回る難易度の学科が存在する。

 

それが三つ目の、特別魔術科だ。

 

特別魔術科は既に悪魔と戦い、実績を残した者しか入る事が出来ない。

さらに前線で戦える魔術を習得しているか否か、高度魔術の構築ができるかどうかも見られる。

 

一言で言うなら、超超超エリート学科だ。

そして俺は今日もエリートらしく……。

 

「ほらまたそこ間違ってますよ、その構築では魔力消費効率が最適にはなりません、まずは……」

 

居残り補習を受けている。

 

「……わからん」

 

「それではダメなんです、いいですか、この学校は特別です、特別扱いされている以上落第や放校だって他の学校にはありませんが特別に認められています」

 

「それはわかってるよ」

 

「わかってませんよ、ナーパム・エストス君」

 

目の前の先生気取りの女は、黒がかった紫色の長い髪を揺らし、手入れされた爪で机をコツコツと叩く。

彼女の紫の瞳はまっすぐに俺を捕らえていて、長く見ていると何とも言えない危機感がする。

 

「つーかさ、やっぱり補習なのに先生が教えるんじゃなくて何でお前が教えてんだよ、おかしくない? 俺達同い年のクラスメイトだよな?」

 

「そりゃ私がエリートの中のエリートだから、理由はこれでどうですか、あまりにも完璧な理由でナーパムも納得するしかありませんね」

 

「納得出来るかボケェ!」

 

目の前の同級生で幼馴染の女、ミファ・オンブラは認めたくないけれど優秀だ。

魔術師として悪魔と戦い俺を守ってくれた事もあるし、何度も功績を上げている。

成績はもちろん優秀で、学校からも期待され、困っている人を助けたり時々前線に呼び出され活躍もしている。

そのおかげで彼女には凄まじい人気もある。

非の打ち所がない、完璧な幼馴染だって言われてる。

 

「やっぱ俺に魔術とか無理なんだって、入学試験もギリギリだったし、実技もパッとしねぇし」

 

「確かに今の貴方はゴミカスですけど、無理かどうかまでは分かりませんよ」

 

ご、ゴミカス……。

 

「……お前さ、前から思ってたけど俺の前だとめちゃくちゃ口悪いよな」

 

「だって今さら隠せないですし、それならもう楽に話したいですし、皆の中の私を出来るだけ壊したくありません」

 

「猫かぶり」

 

「なんて言いました? 皮かぶり」

 

「おっ、俺は皮剥けてますけど!? もうズル剥けなんですけどぉ!?」

 

「ではさっさと一皮剥けて下さい。……私も貴方をこの学校に入学させた事で責任は感じているのです、だから先生に頼んで放課後の教室を使わせて貰って、ゴミカスを粗大ごみにしようと頑張ってます」

 

そもそも俺がこの学校に入学出来たのは、コイツのおかげなんだ。

俺達の住む村が悪魔に襲われた時……。

 

『くるなっ……こ……こないで!』

 

その時の悪魔は人型で、殺した遺体の腕をもぎ取って肉を食い、骨を剣のように扱うやつだった。

目の前で人を食べる姿と、知合いだった人の腕を振り回す悪魔に恐怖で魔術は発動しなくなり、剣の訓練もしていなかった俺はひたすら逃げるしか無かった。

 

『ナーパム君はわたしがまもる!』


その時に助けてくれたのが彼女だった。

身長よりも大きい黒い刀身の魔術剣を握り、背中に補助用の杖と詠唱用の魔術書を背負い、彼女は俺の前に立ち、悪魔と戦った彼女は、杖を折られはしたものの、悪魔の首をはねて俺と村を救った。

 

一番最初に悪魔に対応した俺も勿論感謝されたが、村の皆の感謝は最終的にミファが独占し、彼女は俺を褒め、これを俺の功績として報告した。

それが認められたんだが……。

 

俺は悪魔に勝ったことがない悪魔童貞だ。

魔術学校ならそこそこの成績でいられたかもしれないが、この学校では常に最下位。

エリート学校の……落ちこぼれだ。

 

「お前はこの学校の事昔から調べてたのに、何で俺まで巻き込んだんだよ、俺が通える学校じゃないって事は分かってたはずだろ」

 

「一人だと寂しいからだって言ったじゃないですか」

 

「寂しい? お前が? ハハッ、似合わない事言うな」


「いえナーパムが」


「言ってねぇ!」

 

「はい雑談はここまで、次の科目いきますよ、次は大陸学です。ナーパム、私達に残されてる大陸はどれだけあるか覚えていますか?」

 

「そんぐらい覚えてるっての!」

 

残された大陸は第四大陸のアメア・ローフィン。

第五大陸のフイッタイト。

第六大陸の五月雨王朝。

そして未発見の大陸、幻の第七大陸だ。

 

「珍しい、本当に覚えているのですね」

 

「珍しいって一言は余計だ」

 

「では次、近代魔術師学です。第三大陸ダイボーナの偉大な魔術師である……」

 

ダメだ……眠くなってきた。

もう一時間以上はこの補習やってるぞ。

まぶたが魔術で重くされているように、俺の意思に反してどんどん閉じていく。

 

「……ルリラ様と転生者、そして勇者様は魔王と……って、ナーパム! 起きなさい!」

 

「……寝てない」

 

「寝てました」

 

「どこかに隠れた魔術師が俺のまぶたに魔術を使って」

「次眠そうな顔したらおしおきしますからね」

 

「おしおきって……あのな、俺はもう16だぞ? そんなのでビビる俺じゃ」

「ごはんを全て野菜にします、肉も魚も一切無しです」

 

「ごめんなさいちゃんと聞きます、だから許して下さい」

 

俺達の故郷の村には金が無かった。

だがこの街に住んで学校に通わないといけない、だから俺とミファは同じ家に住んでいる。

月々の家賃に学校で使う消耗品を考えれば、残念な事に二人で暮らすしか選択肢は無かった。

 

「もう私、料理しませんから」

 

「うっ……でも飯ぐらいなら」 


「洗濯もしません」

 

「うぐっ」

 

「朝も起こしません」

 

「……遅刻はヤバい」

 

「さらに、お弁当も作りません!」

 

お弁当の事完全に忘れてたァ!

ダメだ、逆らったら確実に餓死するだろうな。

料理や家事はコイツが全てやっている。

一度俺がチャレンジして失敗した物は全て彼女が代わってくれていて、俺が今もまだ任されているのは……時々薪を取りに行ったり、買い物をしたりぐらい。


「悪かったよ、謝る」

 

「……」

 

「……ミファちゃんごめんなさい」

 

「はい、謝ることができてえらいですね」

 

さっきまでのジトーっとした目と表情が柔らかくなり、普段の笑顔になって俺の頭を撫でる。

 

「ナーパムは何もしなくていい、何も出来なくていい、大丈夫、私がいるからね」

 

ギラギラ光る紫色の瞳を向ける彼女に俺は何も言えない。

俺は弱い、何も出来ない。

それでもいつか……立派な魔術師になるんだ。

 

「さて、次は数学ですよ」

 

「……魔術師に数学とか必要ない」

 

「必要です」

 

「使う場面が見当たらないって」

 

「黙ってやれ」

 

「……はい」

 

「歴史を学ぶのは過去の敗北から学ぶ為、数学を学ぶのは座標と空間の意識を確実にする為、全てに理由があります」

 

「わかった、わかった、やるよやりますよ!」

 

「いいえ、分かってませんからこれもついでに学びましょう」

 

「それはだいたい覚えてるっての!」

 

彼女の手に握られている本には、人類歴史学と書かれている。

あの本には悪魔の脅威に晒されながらも、大陸渡りが出来ないだろうという甘い考えを持ち、資源を巡って争い滅びた国の話。

戦争に全力を注ぎ、敗れていった第三大陸の話。

そして最後は、悪魔のいる場所から来た者が悪魔を呼び寄せるとして、他の大陸からの避難民を受け入れようとしない現在の大陸の非難と、利害関係を無視し団結すべしの言葉で終わっている。

 

「結局人は利益を求める、それがその本に書かれている事だろ」

 

「本当に覚えてるなんて……ナーパム、今日の貴方は多分、いえ絶対に疲れているに違いありません、買い物は私がやりますから先に帰っていて下さい」

 

「いや俺それぐらい」

 

「いいですね?」

 

……数学を嫌だと言ったせいだろうか。

今日の唯一やるべき事だった買い出しすら、彼女に奪われてしまった。

 


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