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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第三部 三章「異端の0」
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「躊躇なき欠落者」

「それでヘイオスくん。まずは情報が欲しいです。

 ……あ。お嬢さん、こちらに水いただけます?」

 

 堂々と、入れ替わったカルトが勝手に定員にへと呼びかける。水なら有料でないため特にヘイオスが何かいう訳もなく。すぐにグラスに注がれた水が届くと、問題なく話を続けた。


「そうだな。こちらは私とオリガ、そしてお前だカルト。

 その他、我々のような魔武器・魔装具を所有している者が5人いる。

 不死身の魔銃使いが2人。厄介な魔鋏使い」


「不死身の方が2人もいらっしゃるとは、とても愉快な話ですねぇ。

 鋏となると、あの小さなお嬢さんたちではないのですか?」


 カルトの記憶が正しければ。魔鋏――メフィストフェレスを所持していたのは年端もいかない少女たちのはず。瓜二つの如き少女たちの顔をカルトも、そしてヘイオスもよく覚えている。

 だが、今は違っていた。


「ああ。彼女たちではない。

 どうやら契約者を変えたらしい。おかげで厄介となっている。

 ……そして、あと2人魔装具所持者も相手せばならない……かもしれん」


 ……


 カルトは首を傾ける。


「……かも?」


「面倒だが、その2人はこちらと接点があり、協力関係にあったんだ。

 何かしらの理由で抜けられた……というのがこちらの見解だ。

 そのため、話せばまだわかると思っている。……つもりだ」


「……はあ」


「だから見つけたら穏便に話し合いからしておきたい。

 過程が険悪なままだったから、あちらにも変に警戒心を強めてしまっている。

 これは私の落ち度でもあるから、お前にはもしもの際の戦力としていてくれればそれだけでいい」


 要は、どうしようもない際の備えだ。

 ヘイオスも自分の言動は失言であったと振り返っていた。もっと良い言い回し方があったのではと、今では思ってもいる。ルゥテシアの件は自身にも責任があるため、できれば穏便に解決したいという考えだ。

 だが、対面に居座るカルトはその主張に対し、不服そうにため息が漏れていた。

 あれほど饒舌(じょうぜつ)と無駄話の多いカルトが、この時はやけに静かでいる。

 飲み終えたグラスには、まだ溶け切っていない角氷がグラスの中で積まれているのみ。そのグラスの淵をなぞりながら、カルトの表情は期待外れと言わんばかりの呆れたもの。

 

「……な、なんだカルトっ。話をちゃんと聞いていたのかっ?」


「聞いてましたとも。

 ……いや~、ヘイオスくん。ひょっとして、しばらく私の下を離れてぬるくなられましたぁ?」


 ――……


 グラスをなぞるカルトの指が止まる。 

 すると、音もなくグラスは縦に切れ目を入れ、中心に積まれた角氷を残したまま四方にへと倒れた。ガラス細工の断面は、まるで最初っから切れ目があったかのように綺麗に整えられている。どんな鋭利な刃であっても、音一つなく切断するなど困難だ。

 思わずヘイオスは喉をゴクリと鳴らしてしまう。

 

「そんな曖昧な方が、果たして本当に友好な方々なのですか?」


「……っ」


「少し、例え話をしましょうか。

 戦争中。とても敵か味方かの区別がつく場です。そこに、戦いを放棄し降伏してきた敵軍が助けを求めてきた。

 彼らは戦意を喪失しています。なんだったら、敵の情報もくださいます。

 

 ――はい。ヘイオスくんはこの方々をどうしますか?」


 唐突な質問だ。

 

「いきなりなんだこの問いはっ。

 ……まあ、戦意がないのなら無下にするのはなぁ」


 ヘイオスとしては、救える命があるのならどうにかしてやりたいとも思える。敵軍だったとはいえ、戦意喪失、更には裏切り行為として情報提供すらもする。敵を裏切ったなら、その者は味方とも捉えることができる。

 よって、それに見合った保護もすべきだと考えた。

 

 ……が。その判断は違っていたらしい。


 氷の一つが、削られた様に形を崩した。


「激甘な発想ですねヘイオスくん♪

 ――正解は「処罰」。これに限ります」


 残酷な切り捨てだ。

 それは極論ではないかとすら思えて仕方ない。


「いいですかヘイオスくん。

 キミみたいな激甘発想な良い子ちゃんは、いつか助けた者に後ろから刺されるタイプですよ」


「まるで知ったように……っ」


「知ってますもん。

 ――現にそういうのを何人も見てきた私の言葉は説得力抜群ですから♪

 

 え~、もう、本当に戦時に無理矢理投入された人材でして、奪うのも奪われるのにも恐怖しかなく。

 おかげ様で敵にも情けをかけてしまうような人材たちというのは、よくいる話です。

 そして、そういう愚者は味方をも巻き込む。

 キミのように助けようとしても、彼らは自軍を裏切ったような人間ですよ?

 そんな人間が、いったいいつまで信用できるのですか?

 きっと自分の身が危機を感じれば、彼らは助けたキミをも裏切るでしょうね。

 裏切って、更に裏切って、挙句の果ては彼らは敵陣に混乱を与えたと賞賛され、そしてまた元の居場所に戻る。

 どれだけ良心で救ったとしても、裏切ることに躊躇いのない人間というのは、そんな温情を簡単に切り捨てる。

 これほど図々しく、そして堂々とできる裏切者の方が、キミの考えよりは合理的かと」


 正論の様に。そうカルトが語るたびに、角氷は音もなく崩れ、しまいにはそっと水となって溶けていた。

 先の事を見据えた考えなら、残酷であろうとそれは確かに合理的なのだろう。しかし、それを成し遂げきれないのもまた人間の良心というものだ。成したとしても、心に罪悪感が残り続け、最後には身を滅ぼしてしまう。

 

「そんなんだから、キミは魔女様に()()()()()()()んですよ~♪

 私みたいに思い切りがスパッとしてないから、その辺が減点だったんじゃないんですか~?」


「そういう話はするなっ。

 だいたい、お前も任されなかった立場だろうがっ」


「あはは~。まあ、得手不得手は個々それぞれですからね~。

 それともキミは私が完全無欠の完璧な存在とでも思っておられたのですか?

 どちらかと言えば、私はどこもかしこも欠けている()()()ですね。

 人間って、余分なものが多い。そう思った事はありませんか?

 躊躇いもまた私は必要ないと思うのですがね。

 あれこれ悩んだりするよりも、最初に思いついた行動を取る。

 それが最も自身を肯定したものではないでしょうか?」


「あー言えばこう言うな!

 …………とりあえず話を戻すぞ。だからなんだというのだ馬鹿者」


 話が逸れるところだった。

 どうにか軌道修正をし、話をまとめようとする。

 直後。カルトの口からは率直にと意見がでた。


「ぶっちゃけますと。

 ――疑惑があるならその御2人も「敵」でいいですよね?」


「……っ」


 言葉が詰まった。

 いや、予感はしていた。カルトなら、きっとそう言うのだろうと。

 曖昧な立場を崩し、どちらかを決めるける。


「私はヘイオスくんのために言ってますよー。

 後々になってキミが苦労しないためのね。

 これは助言ですよヘイオスくん。私は可愛いヘイオスくんを見捨てたりなんてしません!」


 呪詛の間違いではないか……。

 綺麗な顔で爽やかに、よくここまで心のこもっていない言葉を述べれたものだ。

 カルトからは親切心や良心というものは一切感じられない。正論も合理性も、ただ口から出るだけでそこに興味がなく感じられる。数年程度だが、されど数年の付き合いだからこそわかる。カルトという存在はそういうものなのだと。そう呑み込むしかなかった。


「……最初に言ったな」


「ん?」


「山から出る許可は出したが、私の言うことが絶対だ。

 それくらいの権限は私にあるはずだぞカルト。

 余計な事を言って自分の都合の良い方向に話を進めるのはお前のいつものことだ。

 少しは自重しろ」


「…………あはは。そう言われちゃいますと、困ってしまいますね~。

 でも、せっかくヘイオスくんに頼っていただけるのです。

 ご褒美は私の膝枕でもいいんですよ~? いつでも安眠させてあげます!」


「そのまま永眠させられそうだから却下だ。

 私を後ろから刺されるタイプと言ったが、お前が刺すような奴に見えて仕方ないぞ」


「心外ですね~。こう見えて尽くすタイプなんですよ~?

 ……まあ。では、そうならないようにしてくださいねヘイオスくん。

 私もキミも、魔女様を敬愛する同士なのですから」


「その時は冥府に顔を出す事になると思っておけ。

 ……バフォメット。そろそろ王都を出る。ルゥテシアの魂の経路を今からでも追えるか?」


『は、はいっ。……はあ、ようやく慣れてきましたとも。

 街を出れば魂の数は減りますので、追いやすくなりますが……』


 まだ近くにいる契約者。その1人として目星を付けているのはルゥテシアだ。

 リリンは確かに空を飛べるが、大悪魔という存在が表に長くいるのは不都合でしかない。必ずどこかでルゥテシアに戻り、身を隠せる場所に潜むだろう。他と合流していないのなら、警戒心の強まっている今、1人で安易な行動は避けるはず。

 

「わかった。

 カルト、街を出たら捜索を始める」


「了解しました~。

 ……あ。でも、そういうのは私で事足りるかと?

 ヘイオスくんお忘れですか~? 私って人を探す事はとーーーーーっても得意なんですよ?」


「……まあ、そうだが。

 見ず知らずの相手でもできるものなのか?」


「平気ですよ。

 丁度今はアイルカーヌの中心。この国から出ていなければ、まだなんとかなるかと。

 なんせ相手もキミと同じ契約者。そういう人材、とっても興味を注がれて是が非でも見つけちゃいたくなります」


 見ず知らずの人間を探すなど、人間には困難なものだ。

 これにはバフォメットも不安になる。


『……マジで言ってるのですか?』


「その辺は侮れん奴だぞ。

 追うなら確かに、コイツの方が適任だ。その点は呼んでよかったと思っている」


『…………それほどのものなのですか?

 我でも国一つ全ての魂を把握するのは困難ですぞ』


「魂というか……、コイツはなんというか、獣的直観があってな。

 標的を見つけると何処までも追いかけると、魔女様が言っていたな……。

 気配を察知する能力が常人を超えているし、コイツの体力の底も化け物だとか。

 ……まあ、実際コイツが疲れている様子など見た事ないし、すぐ私の居場所を嗅ぎつけてくるからな。

 秘かに山を下りようとしても、いつの間にか先回りされていたりと、私もわからなくなる……」


『頼れるを通り越して、もう怖いの領域ですよ……』


 死霊の類が何を言うのか。

 

「それでは行くぞカルト。

 いいか? ある程度近くなったら一度待機だからな」


「一応了解でーーっす♪」


 本当にわかっているのかどうなのか……。同行する以上、ヘイオスはカルトが妙な動きをしないよう監視しなければならない。苦労が尽きないようだが、呼んだ以上責任はヘイオスが負う事となる。それを踏まえて、ヘイオスはオリガと別行動を選んだ。

 

 ――この【怪物】には、あまりオリガを付き合わせたくないからな……。

  

『やくまがⅡ 次回予告』


カルト

「またお会いできて嬉しいですよヘイオスくん。

 そして一緒に再び次回予告ができるなんて、やっぱり私たちは縁で結ばれていますね♪」


ヘイオス

「そうだな。

 結ばれていても腐れ縁のようなものだろうがな……」


カルト

「もー、照れ屋さん!

 でもそうですね。私の小指は魔女様と赤い糸で結ばれてますので、ヘイオスくんはその次ってとこでしょうか」


ヘイオス

「嬉しくもないし、魔女様を巻き込むな」


カルト

「でも私、魔女様とはダンタリオンさんの次に付き合いが長いので~。

 魔女様の事ならヘイオスくんよりもよーーーーく知ってますとも」


ヘイオス

「お前の言う魔女様とのメロドラマ(妄想)はもう飽きるほど聞いた。

 なんだあれは。お前の一方的思考じゃないか、恥を知れ」


カルト

「恥……、恥ですって!?

 そんなもの、とうの昔に捨てましたとも!

 そもそも羞恥心ほど不要なものがありますか!?

 自身に枷をかけるなど、それこそ自由への反逆ではありませんか!

 自由とはすなわち、何者にも縛られないことですよ!」


ヘイオス

「最もらしい事を言っているようだが、まったく尊敬も共感もできないな。

 お前が言うとただの屁理屈にしか聞こえないんだよ!」


カルト

「とはいえ、発言は個人の自由なので言うのはタダなんですよねw

 えー、私は例え屁理屈だろうと魔女様への敬愛する気持ちはなーんにも変わりませんよ。

 それはもう、靴底で踏まれたってご褒美としか受け止められませんからね。

 なんなら命のやり取りだって遊戯の一つですよ。私ほど魔女様に狂ってる狂信者なんて他にいませんから。

 これはもう赤い糸を通り越した縁で結ばれているのですよ。

 羨ましいかもしれませんが、ヘイオスくんでは到底追いつけない次元ですね。

 本当にお疲れ様ですwww」


ヘイオス

「ちょっと待て。

 まるで私とお前が魔女様の取り合いをしているかの様な話になってるぞ!」


カルト

「下りるなら止はしませんよヘイオスくん。

 所詮キミの魔女様への気持ちはそこまでということで、私は受け止めてあげますとも!」


ヘイオス

「下りる下りない以前に、またお前の無駄話で予告が全くできてないじゃないか!!」


カルト

「次回。【厄災の姫と魔銃使いⅡ】第三部 四章「∞」。

 つまり私の魔女様への愛は無限大、ということですね!」


ヘイオス

「やかましい!!

 このバカルト!!」


カルト

「あ~、怒ってるヘイオスくんは本当にいじりがいがありますねw」

 

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