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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第一部 二章「聖杯」
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「隔離された街」

 木々の道を三人は進む。

 先頭を行くクロトも、一応は警戒と周囲に視線を配る。

 元の位置からそれなりに進んだが、戻されるという感覚もなく、ユーロが不思議と周囲を見渡す。


「……あ、あれ? 戻らない?」


 ユーロは何度も体験している。しかし、彼ですらこの事態は異常な様子。いつもなら戻されている頃合いなのだろう。

 つまり、進展があったということだ。


「どう思う、ニーズヘッグ……」


 条件の違い。その理由は未だ不明のまま。

 何が切っ掛けで進展があったのか。クロトはニーズヘッグに話を持ち掛けた。


『そーだなぁ……。結界の突破にも色々と条件がある。例えば、通るタイミングとか。あとは二人目なら通れるとか、色々考えられるが明確なのは定まらねーな。お前なんかしたかぁ?』


 やましい事はないか。そんな疑念のある目が向けられる。失礼だと言ってやりたい気分だ。


「なんもしてねーって、わかってんだろうが。クソ蛇がっ」


『怒んなよ我が主ぃ~。…………もしだが、お前だから通れたってこともあるな』


「なんで俺なんだよ……」


『だから、もしだってばよ。もしも、この先にあるとすれば……その可能性も有り得るってわけだ』


 ニーズヘッグの言う、もしも。その説は完全に否定などできなかった。そして、そうと同意することもしなかった。

 答えなど、この先で待っているのだから。






 しばらく歩き続ける。

 すると、突如霧が晴れたかのうように周囲が変化し、次に見えた光景を前に三人は足と止める。

 森を抜けた先。誰もたどり着けなかったと噂された迷いの森の奥。そこにあったのは、天を覆うような岩山に囲まれた一つの街だ。岩山の大雑把な隙間から青空と太陽が差し込み、それだけでもじゅうぶん街全体を照らしている。不思議な光景でもあった。

 確かに、上空からでなければこの街は見つける事はできないだろう。しかし、イロハはまだこの場所を見つけていない。単に通っていないだけか、それとも、迷いの森のように上空にも何かしらの結界が張られていたのか。

 上を見上げていれば、何かに気付いた様子でユーロが前へ駆け出す。


「こ、此処です! 間違いありません! 祖母が見せてくれた写真と、同じ街並みです!」


 どうやらユーロの情報は正しかったらしい。迷いの森の先には人に知られていない街が存在していた。

 だが、ユーロの情報が正しかったとわかった途端、不快感がじわりじわりと湧いてくる。腑に落ちないとはこのことだ。

 

「よかったですねユーロさん。……ところで、ユーロさんはどうして此処に来たかったんですか?」


「実は、祖母が亡くなった後、家が火事になってしまって……。何かしら遺品があればと思っていたのですが……、人の気配がありませんね」


 ユーロの言うとおりだ。この街には人の気配というものがない。建物の外装は年期はあったとしても人が住めない場所ではない。道も綺麗なもので、まるで生き物だけが忽然と姿を消したような有様だ。


「……誰も、いないのでしょうか?」


「みたいだな。……で? どうすんだよ眼鏡」


「どうと言われましても……。人がいれば、祖母の事を聞きたかったのですが……。魔銃使いさんと天使様はどうされますか?」


「とりあえず、魔物の気配もない。適当に俺らは散策だな」


 それらしい街はあるが、まだ魔女がいた街かどうかもわからない。魔物がいないとわかれば、安心したのかユーロは胸を撫で下ろす。


「そうなのですね。よかったです。では、お互い到着したので、しばらくは別行動でもしますか? 魔銃使いさんたちは別で御用もあるようなので」


「まあ、そうだな。じゃあな眼鏡」


「か、帰りも一緒でお願いしますね!? 置いて行かないでくださいね!!?」


「考えとくー」


「そんなぁ!?」


 情報提供は助かるが、長期間の同行は認められず、クロトは早々にユーロを置いて街にへと入って行く。些細ではあるが、「ユーロさんも気を付けてくださいね」と言葉は残してから、エリーもクロトの後を追いかける。

 しばらくは入り口から動けずいたユーロ。その姿は見えなくなるまであり、その後彼がしっかり行動できたかどうかは確認できなかった。

 大通りを進み、街並みをぐるりと見渡す。建築は貧しさを感じられず、平等で平凡な生活感がある。外側には農園や家畜小屋もある。しかし、人がいなくなってから年月が経つのか、農作物はなく、家畜小屋もガラリとしていた。建造物だけがまだ劣化せずに残っているのみ。

 違和感を得たのは、人間がいなくなった理由の痕跡がないことだ。

 人がいなければ成り立たないものは、自然と消えてしまうものは仕方ない。世話をする者がいないのだから。だが、何故人間が消えたかは不明だ。

 窓から中を覗くも、生活環のある様子だけが残されている。物が散乱していたり、荒らされた形跡がない。盗賊に入られた跡もなければ、意図的に出て行ったという様子もない。もし出て行ったのならば、これだけの物を残して出ていくだろうか。


「……何も持たずに出た。そういうわけでもなさそうだが」


「なんだか、不思議ですね」


『出て行ったよりも、消えたって思う方が妥当だよな。……そんなことができるとすれば』


 ――魔女の仕業。

 そう答えが脳裏をよぎる。

 クロトのよく知る魔女なら、それも容易く行えただろう。

 大通りを過ぎた先には広間が広がっていた。片隅にはボールが転がっており、人がいたなら此処でよく子供が遊んでいたのだろうと想像できる。今となっては使う者もなく、寂しさすら感じられる。

 ボールを拾い上げて、エリーは悲しそうな表情に。


「……なんだか、とても寂しいですね」


「いなくなった奴らの事はもう考えない方がいいな。それは結果でしかないし、考えても仕方ない」


「……」


 起こってしまった事象を深堀しても、それで消えた者たちが戻ってくるわけでもない。

 クロトはそう言いたかったのだろう。深く考えればエリーはそちらにばかり気が向いてしまう。それを気遣ってだ。

 エリーもボールを元の場所に置き直す。


「それよか、魔女の手掛かりがあるかどうかだな。見た所、なんもなさそうに見えるが……」


「うーん…………」


 エリーも一緒になって周囲を見渡す。

 広間を中心にぐるりと視界を巡らせるが、確かに特にと言ったものはない。ただ人のいない建物が並ぶのみだ。

 ぐるりぐるり。体も回していると、ふとエリーは秒針の止まった時計の様にピタリと止まる。

 向いた先にあるのは、広間から続く草道。一見、ただの草むらにも見えたが、あまり整備されておらず、人が通った痕跡のない様。それは建物の細道に紛れてあった。

 そちらに、じっと星の瞳が向き続け。


「……誰か…………いる?」


 ぽつりと、エリーは呟く。

 クロトもその方向に寄り、草道の奥を凝視する。

 そこから先は街並から外されており、まるで除け者にされているかにも思えた。

 

「なんか感じたか?」


「わかんないです。……でも、誰かがいるような……そんな感じがします」


 この生命が消えた街にある存在。もし情報を求めるなら、その存在になる。

 

「とりあえず、行ってみるか」

 

 草むらをかき分け、二人は細道にへと入る。



 

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