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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第三部 一章「ミヤビ」
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「異国の文化」

 夜が明ける。どこの国の朝日も同じで、障子から柔らかな光が入り込む。

 こちらの国でも寒さを増す時期に近づいているかの、目が覚めた時には肌寒さも感じられる。 

 ……が。それよりもエリーが抱いたのは窮屈と、そして不快感だ。

 

「……ニーズヘッグさん」


 不機嫌な声でエリーはニーズヘッグの名を呼ぶ。


「ん? あー、おほよー姫君ぃ~」


「なんでこうなってるんですか?」


 熟睡までの寝心地の良さはどこへやら。今あるのは寝起きも吹き飛ぶような寝づらさ。それもそのはずだ。布団の中にはエリーとニーズヘッグが一緒に入り、炎蛇は逃がさないように羽衣を絡めつつ抱かれていたのだから。

 おかしい。眠る前は布団などの寝具を使う事を拒み、部屋の隅で寝ようとしていたはずだ。しかも、布団は2人分あるというのに、ニーズヘッグはわざわざエリーの寝床に潜り込んできている。

 布団が2人分あるなら、そちらを使えばよいのに。一度も使った様子のないまっさらな布団が色々物語ってもきている。

 此処でニーズヘッグは弁解があるらしく。


「……あははー。なんつーかー、自然と姫君が恋しくなっちゃったかな~? ……ほら。外寒いからさー。蛇は寒いの嫌いなんだよー。だから姫君の温もりが必要不可欠。……なんて」


 嘘ではないだろうが、目を合わせようとしないあたり、言い訳なのがよくわかる。


「だからって巻いたり入り込んだりしないでくださいっ。そっちにもあるじゃないですかーっ」


「え~~、俺、姫君に温めてほしい~。それはもう、か弱い蛇を懐で温めてもらう気分で」


「ダメです!」


 羽衣から逃れようとエリーがほどきながら藻掻く。


「姫君~っ。そんな俺を拒絶しないでくれよ~。ちゃんと後でほどいてやるから、もうちょいこのままでも……」


 どうにか引き延ばそうとするも、エリーはプイっとそっぽを向いて聞かない。

 こういう状況は稀にあるが、場所はまったくの別物。にも関わらず、2人は場所を忘れて朝からバタバタと一悶着。

 そんな中、外の光が差し込む障子がそっと開く。


「おはようございます、御二人とも――」


 リキが物音を聞きつけて挨拶をしにきた。しかし、こちらを向くなり不思議と首を傾けている。

 思わずエリーもニーズヘッグもしんと静まってしまった。その姿勢は藻掻いたり妨げたりする最中であったため、まるでニーズヘッグがエリーを組み敷いてるような状況に。


『……押し倒し。夜這い。あ……、でも今は朝。おやすみー……』


「…………失礼いたしました」


 少し間を開けてから、リキは障子を閉じてしまった。


「リ、リキさん!? できれば助けてほしいのですが!?」


「空気の読める奴は嫌いじゃないぜ。そこは褒めてやる」


「ニーズヘッグさんもどいてください! それに、そろそろクロトさんにも戻ってくださいぃ!」


 一晩中ニーズヘッグが姿を表に出していたのだ。それだけ時間が経過しているのなら、それなりに魔力も発散できているはず。叱られたニーズヘッグは不満ながらも受け入れる。


「え~~……、しゃーねーなー」


 すぐさまニーズヘッグはクロトにへと身体を返す。交代するも、まだ眠った状態のクロトがそのままエリーにへとのしかかってしまう。


「えええ!? せめてどけてからにしてくださいよぉ!!」


 完全に密着した状態にエリーは叫び、耳まで真っ赤になった。

 大声が耳によく届く。さすがのクロトも眠気が薄れ目を覚ます。


「……っ、ん? うるせぇ……」


「ク、クロトさんっ。お願いですから、どけてもらえませんか……?」


「……はぁ?」


 むくり。と、クロトは体を起こす。下にはエリーがいて戸惑った顔でいた。


「……お前何してんだ?」


「私じゃないです!」


「……あのぉ、御二人とも――」


 戸惑いつつ、リキが障子を少し開き中を覗き込む。

 続いて。勢いよく反対側のふすまが開け放たれた。


「うっせーぞてめぇら!! 朝から騒ぐんじゃねぇー!!」


 いきなり怒鳴りつけてきたのはルキだ。彼も同じこの平屋で過ごしているのか、騒いでしまった事に腹を立ててきた。

 しかし、中の状況を目の当たりにした途端、ルキは言葉を失い硬直してしまう。


「……な、なにしてんだよ……っ」


「ち、違います! これは……その、なんと言いますか。とりあえずクロトさん。どけてもらっても……?」


 クロトにとってはどういう事態か把握できていない。わけもわからず、面倒そうな顔でエリーから体をどかす。そしてエリーは、さっと布団から飛び起き少し距離をとった。

 何もなかった。という構図をどうにか作りたかったのだろうが、既にそれは遅い。どう説明しようかと考えるも、なにもいい答えが出てこない。

 

「……ルキ。人それぞれだと自分は思うのですが……」


 この場をどうにか取りまとめたかったのか。リキが擁護するも……。


「うっせーリキ! だから余所者は嫌いなんだよ!! ……あとどう考えても歳の差ありすぎだろ!!」


 怒鳴った後。ルキはふすまを乱暴に閉めてドタドタと行ってしまう。

 明らかに、変な誤解を与えてしまったことだろう。


「……あの、朝食をお持ちしたのですが。自分はしない方がよいですか?」


「いてくださいっ、お願いします!」


 これ以上変な誤解をされたくないと、エリーは真っ赤な顔でリキを引き留めた。

 






 気持ちを落ち着かせている間に、リキは食事の支度を進めて行く。

 布団を折りたたみ隅に寄せ。広くなった畳の部屋に2人分の座布団を配置。クロトとエリーが敷物に座ると、彼らの前に御膳が配置される。四角いお膳の上には器が幾つも配置されていた。

 

「どうぞ。お口に合うと良いのですが」


 そわそわと、こちらの様子をうかがうリキ。しかし、2人は食事に目を向けたまま、目を丸くしパチパチと瞬きを繰り返す。

 お膳にあるのは、炊き立ての白米。味噌汁。そして焼き魚と、漬物。見慣れないものが幾つもあり、戸惑いが隠し切れず。そしてなにより……。


「……どうしましょう、クロトさん。こちらで食べるんでしょうか?」


 小声でエリーはクロトに問いかける。

 食事に欠かせないものといえば、スプーンやフォークなどの存在だ。だが、それが何処にも見当たらず、代わりに添えられているのは2本の棒状のもの。

 そう。――箸だ。

 どう使うべきか。エリーは深く考え込まされる。クロトもそれを握り持つ。


「どう使うべきだ……。串の様に刺すのもありだが、2本の意味がわからん。これで一つの組み合わせなら……ん~っ」


 試行錯誤を頭の中で繰り返す。しまいには眉間にしわを寄せてしまうほどだ。

 その時、静かだったニーズヘッグがその光景を眺める。


『……あー。そういえばこういうの、サラマンダーの爺がよく使ってたなぁ』


「……」


『あれだろ? 箸ってやつ。爺は結構古風なやつでさ~。確かこう持って~。で、喰いもんを摘まんで喰うってやつ。まー、俺は使った事ねーけど』


 と。ニーズヘッグが使う真似をする。クロトもそれを見様見真似で持ち直す。そして、試しにと逸品に箸を伸ばし、摘まみ、落としてしまわない様にすぐさま口へ運んだ。

 なるほど。これが箸の使い方か。そう納得したと同時に、クロトの口内を酸味が刺激する。思わぬ不意打ちにクロトは口に手を当てどうにか呑み込んだ。


「ク、クロトさん!?」


「~~ッ。……平気だっ。急な酸味にやられただけだ」


 考えなしに食べてしまい、クロトは何を食べたのかと見直す。

 

「あ。そちらは漬物になります。野菜を漬け込んで作られるもので、白飯ととても合います」


「漬物。……要はピクルスみたいなもんか。とりあえず、これの使い方は合ってんだな?」


「はい。扱いづらいようでしたら、似たものを探してきますが……?」


「……いや、いい。エリー。とりあえず、こうだ。こう」


「は、はい……」


 クロトに手で教えられ、エリーも不思議そうに箸を持ち直す。掴み方を教えてやれば、不慣れながらもエリーは少しずつ使い方を覚えていく。

 確かに使い慣れている物を使うのが良いだろうが、覚える事も大事だ。慣れない食事をぎこちなくも朝食を進めた。

 暖かな白飯。コクのある味噌汁。香ばしく焼き上げられた魚。そして、漬物を食べた瞬間、エリーは口をすぼませる。


『よかったなー我が主ー。俺が使い方知っててー』


 ニーズヘッグが何かを訴えてきている。これは少しでも見直してほしいということなのだろう。

 ……が。


「そういえば目ー覚めた時のことなんだが――」


『なんでもないです……』


 すぐさま炎蛇は奥にへと引っ込み、先ほどの発言をなかったことにへとした。

 

「……なんか、あの赤いガキがいた気がしたんだが?」


「あー、ルキの事ですか? ルキは巫女様の警護もありますのでね。今でも上に……」


 上。と、リキは天井を見上げ、クロトもそれにつられて上を見た。

 すると、天井板の一部がめくれ、不機嫌なルキがリキを睨みつける。



「うっせー、リキ!! 余所者が余計なことしない様に見張ってるんだろうがっ、お前も余計なこと言うな!!」



 最後に板を叩きつける様に直してから、また気配を消してしまう。

 あちらこちらから姿を現すルキ。どこからでも現れるのも気になるが、この建物の構造もきになるところ。

 そして未だにあの態度だ。全く凝りていないのだろう。

 

「申し訳ありません。ルキは人見知りも激しいところがありまして……」


「……なんつーか。双子っていうわりには似てねーな。……まあ、そういうのもいるか」


 容姿は瓜二つなのだが、性格が全く別と言っていいほど異なっている。よくあるのは中身も同じというモノなのだが、これもまた双子の特徴やもしれない。冷静であるリキはあまり感情的にはならない。その反面をルキが補っている。怒りっぽく、リキにない要素を持っている。

 たりないものを補う。これもまた双子の特徴だ。理に適っている。

 

「御二人は本日どうされますか? 予定では明日の朝になりますので」


 そう。予定としては丸一日空いていることになる。一日もの間この異国であるミヤビで過ごすのだが、予定もなにもない。かといって人里まで下りるのも気が引けた。異国なだけあって、他の住人からもどういう目で見られるかわかったものではない。環境も違う。ならば、この山で過ごしていた方が安泰とも思える。

 暇ではあるが……。


「とりあえずはこの辺で時間潰すつもりだが、……なんかあったりするか?」


「そうですねぇ……。こちらは巫女様のためにありますし……」


「ちなみにお前は今日どーすんだよ?」


 この地に詳しいのはリキだ。リキは今日一日何をするのかを参考として聞いてみる。

 リキは上を見上げながら考え込む。


「……自分は追放された身分なので、人里には下りない方がいいと思いますし。……強いて言うなら、静闇 (せいあん)の間に行こうと思ってます」


「…………なんだそれ?」


「修練の場です。自分がよく利用していた場所で、山の中間にあります」


「修練……修行の場か……。暇だし、山の内なら行ってみるか……」


 クロトも、少し思うところがあった。

 現状、自分たちが相手にしているのは魔物や魔族といった者ではない。同じ魔武器を有している契約者たちだ。以前、ヘイオスやオリガにはさんざんな目に合わされた。今は見逃されていたとしても、いつかはまた衝突する事となる。そのために必要なのは自身の力を見直すことだ。

 このままではまた二の舞になる恐れもある。此処は異国の地。別の視点からなにか成長のきっかけになるやもしれない。これを期にクロトはリキに同行する事とした。

 

「お前はどうするエリー?」


「私はクロトさんと一緒に行こうと思います。難しい事はできませんが、なるべく近くにいたいので」


「てなわけなんだが、いいか?」


「大丈夫ですよ。では、朝食が終わりましたら準備をしてご案内しますね」

『やくまがⅡ 次回予告』


リキ

「まずは長い道のりお疲れさまでしたクロト殿。短い期間ですがよろしくお願いします」


クロト

「まあ、初めてのミヤビだからなぁ。本でもちょっとは聞いた事あるが、本当に分化がまるっきし違うんだな……」


リキ

「それは自分も同じです。食べ物も違いますし、人の気配や肌で感じる環境も違いますし。一番は道具の違いですよね。便利なようで、まだ慣れないところがあります」


クロト

「技術的には遅れてる感はあるが、しっかり生活に支障なくある。灯篭だったりの中は火と油とかでどうにか持続させてるんだろ? サキアヌとはまた違う魔素とかをあまり使わない文化か。その代わり魔素を術というものに利用している。式ってのもその一環か。魔法とは方式が違うっぽいし、も別世界だな」


リキ

「クロト殿も饒舌になる事があるのですね。ルキも実は刃物の手入れになると色々饒舌になるのですよ。くないの手入れだって欠かしませんし、そういうルキはとても活き活きとしています」


クロト

「……前もそうだったが、俺とあのガキを同じような目で見るのはやめろ」


リキ

「目で見るといいますか、雰囲気が近しいのですよね」


クロト

「OK。それ以上混同するな。全然ちげーからな? 何処が似てんだよ?」


リキ

「何処と言われましても、やはり雰囲気ですかね。少し周囲を警戒したような気配や、発言に力が入っていたり、あとは短気なところもですね。なんだかんだで手がすぐに出てしまうあたりも似ていると思います」


クロト

「……お前俺がどう見えてんだよ? 俺会ってからは好意的な印象を受けていたが? どう考えても短所ばっかあげてないか?」


リキ

「もちろん、クロト殿がとてもお優しい方であると自分は思っておりますよ」


クロト

「わからん。お前の受け止め方が時折わからん」


リキ

「次回。【厄災の姫と魔銃使いⅡ】第三部 二章「底の闇」。エリー殿も不思議な気配がしますよね。言葉にするのは難しいのですが、時折妙な気配が……。1人でない……? 誰か近くにいるような……」


クロト

「あんま気にすんな」


リキ

「あ、はい。わかりました」

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