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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第三部 一章「ミヤビ」
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★【序章】

 アイルカーヌでリキと再会。そして同じ契約者であるルゥテシアと協力関係となったクロトとエリーが次に目指すは異国【ミヤビ】。

 訪れた2人に待つのはミヤビの要である巫女。神の目を持つ彼女が下した【呪い】に関する事とは……。


 同時期、ヘイオスたちにも動きが生じる。


 ネアにイロハ。残したルゥテシアを巻き込み始めて行く。

 遺産を所持する者たちすべてを悪夢に引きずり込もうとする存在。秘かにこの争いに割り込むは、1人の【怪物】。

 

「――どうか私を楽しませてください。魔女様に選ばれた皆さん」


 新たな異質――カルト。

 滲み広がる死闘の絶望。その先に光は見出せるのか……。

 星の少女が掴み取るのは黒星か、それとも白星か……。

 

 【厄災の姫と魔銃使い Ⅱ】 魔女の遺産編3 開幕

 その日はいつもの様に乾いた風が吹いていた。

 時期のせいか、外を出れば冷たい風が身を撫でる。

 肌を。髪を。身に纏う衣服を。空を仰ぎ、男は鼻歌を口ずさみながら、長いマフラーをなびかせる。

 

「今日も清々しく良い天気ですね~。暇で退屈で、つまらないですが♪」


 これ以上ない清々しい顔で、男は愚痴を強調。場所はとある山の山頂であり、綺麗に拓けた場所だ。中心にある岩に腰かけ、それでも彼の姿は楽し気としている。発言と表情が合っていない状況。

 退屈と口ずさむ男。その時間は静かなままで終わる事はなかった。

 ガラスのような、薄い瞳を丸くさせ、彼は下を向く。

 理由は単純。

 遠くから足音が聞こえたから。

 何者かがこちらに向かっているから。

 それすなわち、退屈な1人の時間がなくなるから。

 人数は5、6人。足音からは重量を感じ、全員男である。身長や体格にばらつきはあるが、武器を所持している様子。どの足音にも荒い様子があり、とても善人や周辺の住人とは思えない。

 そして、こういったことは数日前から度々ある。

 そう思い返していれば、数人のならず者が山頂に訪れていた。


「あっ? なんだ、山頂にも魔物はいないのかぁ?」

「この山はロクに魔物がいないが、登るのも一苦労だ」


 疲れた様子で一息入れようよする男たち。休もうとするも、その隙を与えない様に声が飛ぶ。


「おやおや、いらっしゃ~い♪」


 岩の上でうつぶせになって、ならず者集団に手を振る。声をかければ、彼らは不快な様子で見上げてきた。

 彼らの目にとってその人物の姿は不思議なものがあった。黒いコートに身を包み、右腕には大量の包帯を巻いている、その異質な存在には。


「……なんだ、お前は?」


「私ですかぁ? そうですね~、しばらく此処で生活をしている者ですよ~。よろしければ、私の退屈しのぎに付き合っていただけませんか? なにせずーーーーーーーーーーーーーーっと1人なもので、退屈で死んでしまいそうだったので。自己紹介なんていかがです? 私、――カルトと言います」


「ああッ!? そんなのお断りだ。こっちは偵察にいった身内を探しにきたってのに」


「……身内?」


「そうだ。先に山に登った奴が数人いたはずだが、一向に帰ってこない。逃げ足は速い奴らだから捕まりはしないはずだが……」


 どうにか会話を交わす。カルトはキョトンとした後、手を合わせ微笑む。


「ああ、いましたね~、そんな方々。お会いしましたとも。そして話しかけたとこ、なかなか付き合ってもらえず……。あっ。ちなみにまだおられますが、御会いになられます?」


 カルトは自身の岩の下を指差す。

 居座る岩は下にくぼみを作り、人が入れるほどの大きさがあった。雨を凌げるようになっており、その中で生活をしているのだろう。

 不気味と、男たちはゆっくり岩の下を覗き込み、疲れた表情は青く、驚愕と恐怖に強張る。

 岩の下にあったもの。それは数名の人間の骨だ。肉を綺麗に削がれ、血生臭さが一切感じられない亡骸。異様な光景に、何人かが声を震わせ始めた。


「ちなみにぃ~……」


 声が出ず、思考が定まらない中。1人の耳元で声が囁かれる。

 すぐ近くにカルトは降り立ち、耳打ちをしてきた。された側などガタイに見合わない叫びをあげてしまう。

 それでもカルトは続けた。


「お客さんたちの肉はとーーっても有効活用させていただきました。新鮮なうちに魔物を誘き寄せる餌にしたり、時には暇なので魚の餌にして釣りもさせていただきました。これが上手いこと行きまして~、助かりましたよぉ。人間誰にでも取柄ってあるものですよね。周辺には魔物が寄り付かなくて、こういった餌でもないと近づいてきてくれないのですよ」


「なっ、お前……っ、何を言って!」


「それにしても、身内の方を心配されるなんて、とてもお優しいのですね~、見た目によらず。私にもそういう人がいらっしゃるんですよ? 聞きたいですか? 聞いてくれますか? もう、しょうがないですね~♪」


 話を続けようとする一方、男たちの1人が後ずさりをし、そして逃げ出そうとした。

 危機感を覚えた。友好的なその様からは当初感じられなかったおぞましい気配。話に夢中になっている隙に立ち去ろうとしたのだろう。

 見捨てることや、そんな罪悪感など捨て。ただ自分が助かりたいという本能的な行動。だが、それは一瞬にして断ち切られた。

 一足先に逃げ出した男の首が、スパッと瞬時に宙を舞う。断面はとても綺麗であり、まるで鋭利な刃で切り離された様。体が斬られた事を認識せず、男の体はしばらく走った後に崩れ落ちた。血は遅れて吹き出し、その場を赤くする。

 

「私、とーっても寂しがり屋なんです。以前こちらで面倒見ていた可愛い~子がいましてね。真面目でとてもからかいがいのある子でした。もう昼夜を共にする仲で、食事は当番制にして。あ、聞いてくださいます? その子、最初毒キノコでくっそまずいもの作ってしまって~、吐いてたんですよ~。あの時は面白かったですねぇ。稽古とかも付き合ってあげてたんですけど、一生懸命に強くなろうとする姿勢って、やはり私としてはとても癒されるといいますか~、可愛い一面見れて嬉しいと言いますか~。最初、彼の親しい人を手にかけようともした事があります。その時、彼はどうしたと思います? なんと、人を殺した事もない彼が私に剣を向けてきたのですよ? そうです、そうですよねっ。人間が一番強さを発揮するのは、そういった感情によるものだと、私はとても理解しております。友人、家族、恋人。親しい者が危機に陥ろうとした時、人は自分の限界を超えようとする。あの時の彼の震えつつも刃を向ける姿は、今でもよーっく覚えていますとも。そして、私の下で強くなろうとする。そんな彼を見てると、わくわくしちゃうじゃないですか。その子が強くなって、私のお相手をしてくださると思えば、それはそれは楽しみで仕方ないですじゃないですか。何度彼のひたむきな背を襲いたくなったものか。ですが、我慢って大事ですよね。だって彼は私の中では楽しめる逸材の御一人なのですから。……ですがですが~、そんな愛おしい彼は今お忙しい様でしてね。私1人残して旅に出られたんですよ。私、絶対この山の範囲から出るなと言われてまして。ずーーっとこの山にいるんですよ」


 カルトは相手の介入など受け入れず、長々と自分語りを一方的に続ける。しかし、それを聞く者などこの場にはもういない。

 先ほどまで息をしていた者たちは、既に首を切り落とされ四方に散らばっていた。誰しもがカルトから逃げる様に、離れる方に向かって倒れている。

 しかし、それがどうした事か。

 カルトは話を止める事など無かった。


「ほら、私ってこんな感じで、魔物とかすぐ逃げちゃうんですよね。こういうのって、罪な男というのですよね。え? 意味が違う? まーまー、似たようなものですよ。ちなみに私、昔っから愛称がありまして、よく「怪物」と言われています。いいですよね、そんな風にして人外扱いしていただけるのは。ただの人間はつまらないですからね。私はこの愛称をとても気に入っております。むしろ誇りに思いますね。だって私は、あの方の望む「怪物」としてあり続けられるのですから。……ああ、もう御会いできないと思いますと、私は悲しくて寂しくて、危うく死を体験してしまうほどでしたとも。ですが、それもまた人生。私はあの方の運命や最後を甘んじて受け入れますとも。生の儚さは、芸術点の高いものですのでね。……あ。私の敬愛する魔女様の事を聞きたいですか? あの方とは結構なお付き合いがありまして、それはもう恋仲とか愛人みたいなものでしてね。……あれ? 聞いておられますー? あ。聞こえてないですかー、そうですかー」


 ようやく周囲の惨状を理解したのか。カルトはぴたりと語る事を止めてしまう。

 最後は呆気なかったと静まり返り、また天を仰ぐ。暇と退屈が押し寄せる中、彼の懐から機械音が鳴り響く。

 途端に瞳を輝かせカルトはそれを取り出し耳に当てた。

 

「はいはい! 私ですよ~♪ 私にご連絡とは、会えなくて寂しくなりましたか? 私は寂しくてもう退屈で退屈で、誰かを殺めちゃう今日この頃なのですよ。もはや末期かもしれません。飼っているペットが粗相をしないように、現飼い主であるならちゃんと面倒見てくださいよ~。クレーム殺到しちゃいまーーーーっす」


 通信機に楽し気と愚痴を言い続けるカルト。

 相手は……


『……連絡早々うるさいなお前は。相変わらず壊れた脳みそをしてくれおって』


「つまり平常運転というものでございますよ。死んでたり使い物にならないよりはよっぽどマシではないですか。ねー、ヘイオスくん」


 ――魔剣使い、ヘイオス。

 彼は眉間にしわを寄せつつ、冷静と言葉を交わし続け、そして言い放つ。



『――カルト。山を下りてこちらに来い』


 その指示に、カルトは目を丸くさせた。


「……え。いいんですか? ヘイオスくん、なにかいけないモノでも食べちゃいましたか!?」


『なにも変なものは食べてないっ。いいからこちらに来い。……こちらも事態が急変した。仕方なくお前を呼んでるんだ。来ないのか?』


「――行きます! 行きますとも!! ヘイオスくんからお誘いいただけるなんて、寄り道なんてしてられませんね。ええ、すぐ行きますとも。場所はなんとなくわかりますので、しばしお待ちください~い!」


 話の続きがあろうがなかろうが、カルトは一方的に通話を切る。抑えられない胸の高鳴り。それはカルトにとって柵から解放された瞬間だった。

 

 この日。しばらく居座っていた【怪物】が山から姿を消した。

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