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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第二部 六章「魔装具使いたち」
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「改めて」

「あ! クロトさん」


 エリーがクロトを見るなり、いつもの様子で声をかけてくる。どうやらちゃんと治ったようだ。今は出された暖かな飲み物でリラックスしている。

 無事で何よりなのだが……。

 エリーはクロトを見上げたまま小首を傾ける。


「……あの、どうされましたか?」


「…………」


 まずはエリーの無事に安堵を示すべきなのだが、今のクロトの表情は気分を害して少々青ざめている。

 原因はエリーではなく、クロトの視界いっぱいに広がる桃色空間にある。

 ファンシーなルゥテシアの部屋。それはクロトにとって苦手な部類であり、なかなか扉の位置から動くことができないでいた。エリーならいても問題ないだろう。しかし、クロトはそうはいかず。同情するニーズヘッグも見ている分は問題ないが、入る事は躊躇うもの。


「ちょっと、そんな顔しないでよぉ。……まあ、男の子が入るには確かに勇気いると思うけど」


 ルゥテシアも察してか、仕方がなく思う反面、自分のお気に入り空間に気分を悪くされると心が傷つく。可愛いで溢れたルゥテシアの部屋は確かに女性らしさがある。その空間に異性が入るのは、彼女の言う通り勇気のいるものである。

 臆したという見方もされ、不愉快ながらもクロトは意を決してエリーの隣に座り込む。そして、視界の片隅にいたリキにへと顔を向ける。

 

「……お前、よく普通でいられるな」


「こちらの女性はこういった物が好きなようで。最初は慣れない感覚がありましたが、今ではもうすっかり慣れてしまいました」


「言わないでよぉっ。だって可愛いじゃん!? アイルカーヌって、元は軍事国家だから、こういうのを宣伝して「可愛い」をあたしが広めてあげてるの! ちゃんと皆に好評なんだから!」


「大丈夫ですよルゥ殿。女性はやはり可愛らしいものがお好きですからね。それはとても良いことだと思います」


 素で言っているのだろう。リキはすぐそうやって相手を肯定していく。 

 甘い。……実に甘い。


「あ、あのクロトさん。クロトさんの分もありますので、どうですか?」


 クロト分とホットコーヒーをエリーは手渡す。エリーはしっかりクロトがブラックコーヒーが好きだと伝えており、漆黒のそれから温かな湯気が出ている。しかし残念ながら、甘い光景を眺めつつ、ブラックなコーヒーが微糖にすら感じられるほどだ。

 

 ――なんだ此処は地獄か……?


 と。口には出さずにいた。

 落ち着いた頃合いで、ルゥテシアがクロトとエリーに対し、落ち込んだ様子で頭を下げてくる。


「……ごめんなさい。あたし、すぐカッとなっちゃうし、突っ走っちゃうから……。リキくんにも迷惑かけて……」


 当時の荒っぽい気迫は何処へやら。急に気落ちしてしまい、逆にこちら側が悪く見えてしまう。

 クロトは罪悪感なくいるが、エリーは落ち込んだルゥテシアの謝罪に慌てて応答。


「だ、大丈夫ですよっ。びっくりしちゃいましたけど、私も無事でしたし、クロトさんも怒っていませんし……。ねっ、クロトさん」


「……まあ、別の意味で収穫あったって言うか。まさかアイルカーヌで有名な奴が魔女の関係者なんて、思ってもいなかったからな。…………ついでに」


 アイルカーヌ歌姫であるルゥテシアは魔女の関係者であり、クロトと同じ悪魔契約者。契約悪魔は【淫歌のリリン】。そして、その隣には以前レガルで遭遇したリキもいる。彼も魔女の関係者、そして悪魔契約者だ。

 許しを得た事で、ルゥテシアは一つ咳払いをする。


「改めて、あたしはルゥテシア。説明は……しなくてもいいと思うけど、あたしが契約しているのは【淫歌のリリン】。貰ったのはコレ。ヘイちゃんが言うには、№4【魔飾のリリン】」


 ルゥテシアの首に飾られたチョーカー。それこそが、魔女から与えられた魔装具であり、ルゥテシアの力の源だ。


「リキくんのお友達なら、仲良くしたいな。よかったら、「ルゥ」って呼んでほしいな」


 愛称を許す事は、ルゥテシアにとって友好の証なのだろう。

 差し出された手をエリーはとり、互いに握手を交わした。


「わかりました、ルゥさん。私はエリーです」


「エリー……、エリちゃんか~。可愛い♪」


「改めて名乗らせていただきます。自分はリキ。自分が契約しているのは【粉砕鬼のサイクロプス】殿になります。自分は眼帯殿と呼んでおりますが。ルゥ殿と同じで、魔装具というモノを身に着けています。数は三番目の、【魔玉のサイクロプス】だったかと……」


 クロトたちにわかりやすい様に、リキは体の中心に組み込まれた勾玉を見せる。リキに出会ってから抱いていた疑問が一気に解消される。

 それにしても。意外な組み合わせではある。

 リキは異国の人間であり、少し特殊な部類だ。そんな人間に目をつけた魔女。そして、異質なリキと親しそうにするのはアイルカーヌでもてはやされている歌姫のルゥテシアだ。本来ルゥテシアとこうして話すことすら貴重であろう体験だというのに、この様子からして同居にまでも至っている。ルゥテシアの様子から、一方的か相思相愛なのか、ある程度の恋愛感情も。

 年齢的にも、ルゥテシアはクロトと同年ほど。リキはそれより年下にもなる。歳の差はよくある事だが、たいていは男性が上になる事が多い。その真逆をついた組み合わせだ。更に意外性がでてしまう。

 これを一般人が知れば大問題として取り上げられてもおかしくない。

 

「なんつーか、お前見ない間に何があったんだって感じだよなー。お前が魔女の関係者ってだけでも驚きだってのに……。大物と同居してるとか」


『更に言えば女とだぞ? 物好きってやっぱ何処にでもいるんだな~』


「何度も思いますが、自分も同じ気持ちです」


 クロトはそう言いつつ、リキの頭をぺしぺしと叩く。リキは嫌がるどころか、親し気だ。偏見であれば一種の荒い扱い。そして暴力。ルゥテシアがまた機嫌を悪くするかもと思えたが、そんな事もなかった。それどころか、驚き感心すらしていた。


「お、男の子同士の接し方ってやつだよねっ。リキくんがすごく嬉しそうにしてるっ。ヘイちゃんたちの前でもそんなの見た事ないのに!」


 などと、リキがどれだけクロトを好意的に見ているかがよくわかる様子らしい。それを言われてか、クロトはリキの頭から手を離し、少々距離をとってゆく。あまり変な好感を持たれるのもクロトにとって受け入れづらいからだ。

 ここは一つ、話題を逸らす事で逃れる。


「……とりあえず、あの眼鏡野郎に変な連絡はとってねーだろうな?」


「眼鏡野郎? ああ、ヘイちゃんたちの事か~。してないよ~。だってリキくんにお願いされたし~。それに、あたしもリキくんも気になってる事あるし……」


 ルゥテシアとリキは、お互いに顔を見合う。

 2人が気にしている事。それはおそらく、2人が魔女の関係者でありながら知り得ていない情報だ。

 

「魔女さんに娘さんいたなんて知らなかったし、あたしは魔女さんと一回しかあった事ないからよく知らないんだよね。あたしとしては、噂のこわーい存在というよりは、【願い】を叶えてくれた恩人」


「自分にとっても、魔女殿は恩人にあたります。不可能かと思えた自分の【願い】を叶える術をくださったので。同時に、皆さんのいう悪魔と契る事となりました。こういうのは明かさない方がいいと思い、クロト殿たちに伝えられずにいました」


「……まあ、普通はそうか。悪魔契約者は人間の世で迫害される。明かさないのは正解だ」


「あたしだって言えないよ~。言ったらもう大炎上じゃん。今の地位って、すっごくいいから」


「……まさかと思うが、悪魔の力で伸し上がったんじゃねーだろうな?」


「まっさか~♪」


「ルゥ殿の歌にリリン殿は加担しておりませんよ。どの歌も、ルゥ殿のみの実力です」


 ふっふーん。と、ルゥテシアは胸をはる。

 さすがにそこまでのいかさまはしない辺り、ルゥテシアの歌に対する熱量は本物だとわかる。

 

『そうそう。リリンはルゥルゥの歌がだ~~い好きなのぉ~♪ 可愛くって~、超可愛くって~。もう最高なんだから~♪』


「当然! じゃなくてっ、あたしたちが聞きたいのって、今の状況なんだよね!」


 褒められて更に自信を表明するも、ルゥテシアはビシッと人差し指を立てて話を戻す。


「あたし、リキくんと会って、そんでヘイちゃんたちの話聞いてね。それで、あたし意外にも魔女さんからこういうの貰ったって人がいるの知ったの。そんでその後すぐ、あたしはアイルカーヌでアイドル始めててさ。街見てたらわかると思うけど、あたしってもう超有名人なのよね。だから、ヘイちゃんたちの頼まれ事はリキくんが積極的にしてくれていたの」


「はい。ルゥ殿と会う前に、自分はヘイオス殿と出会いました。そして、協力してほしいとのことで、魔武器を持つ方々を探し、そしてルゥ殿と出会いました。先日、魔武器二つを所有していた翼の方と遭遇したのですが……クロト殿ともしやお知り合いの方では?」


「そうなるな。イロハが大変お前に世話になったみてーだ。まあ、アイツもアイツでしっかり抵抗したし、特にその後こっちにとって害もない。どーせお前も知らなかったんだろ?」


「申し訳ありません。自分もルゥ殿も、ヘイオス殿から指示を得ているのみで、あまり詳しいことは知らされておりません。しかし、魔女殿は恩人ではありますが、少し懸念のある方でもありました。なんと言いますか、他者の生死に無頓着と言いますか……」


 リキの申し訳なさそうにある発言は、ある意味的を射ている。

 そう、この2人は魔女のことを全くと言っていいほど知らない。それを知らずのまま、2人はヘイオスたちの側につき、同じ契約者として協力をしているだけにすぎない。

 だからこそ、クロトたちは話す必要があった。

 自分たちが知り得る今の状況。そして、恩人と語られる魔女が世界に何をしようとしていたのかを。

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