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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第二部 五章「激音乙女」
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「大図書への道」

「むふ~。久々のお休みだ~。嬉しいな~♪」


 辺り一面ピンクと白で彩られたファンシー空間。そこで左右にツインテールを揺らし、少女――ルゥテシアはご機嫌だ。

 

「ルゥ殿、ご機嫌ですね。なによりです」


「だっていっつも忙しいも~ん。たまのお休みだし、やりたいことやりたいし~。あ! 今日届いたお茶美味しいリキくん? アイルカーヌはミヤビともそんな遠くないし、輸入品で届くんだよね。気に入ったなら、マネちゃんに頼んで定期的に用意してもらうからね」


「美味しいですよ。故郷を思い出せますし。ありがとうございます、ルゥ殿はお優しいですね。とても悪い気がしてしまいます」


 桃色の空間で、湯飲みに緑茶と浮いてしまう存在感のあるリキ。地元の品を取り寄せてくれるなど、配慮のあまりに申し訳なさが出てしまう。

 それを口にした途端、ルゥテシア首を横にぶんぶんとふりだす。


「そんなことないー。リキくんはこっちの生活あんまりまだ慣れてないみたいだし、文化の違いもあるもん。だから、こういうのもないとね」


「甘えてしまっている気がしてしまって、本当に申し訳ないです」


「甘えていいのー! アタシもリキくんに甘えてるもーん。お互い様~」


 リキが気に病む事ではない。ルゥテシアはそう押し続ける。

 そしてルゥテシアは気を取り直して休日の予定をぶつぶつと指折りで数え始めて行く。


「せっかくのお休みだもん。リキくんといっぱい時間過ごしたい。

 でも街中を2人で歩くのは良くないかな? リキくんも目立っちゃうし、アタシは変装すればどうにか……。

 でもでも、変に視線集めちゃうのもあれだよな~。変な取り巻きとかに囲まれたくないし。

 いっそのこと、リキくんとの2人っきりデート楽しみたいな~。

 あ! デートって言っちゃった、キャ~恥ずかし~~。

 行くなら甘いもののお店とか、服はお気に入りあるし、やっぱ食べ歩きがいいかな~。

 おしゃべりしながらご飯食べて、いい場所で夕日を眺めて、夜はお洒落にディナー。

 ……って、もう告白しちゃう流れじゃん、も~~~っ、考えただけで恥ずかし~~!」


 1人妄想と格闘しているルゥテシア。嬉恥ずかしな様子に、リキは邪魔しない様静かに見守るのみ。

 緑茶を飲み干した後は席を立ち、部屋から出ようとした辺りでルゥテシアがハッと気づく。


「リ、リキくん? どっか行くの?」


「はい。せっかくのルゥ殿の休日ですので、ルゥ殿もゆっくりされたいかと。なので、美味しいお茶をいただきましたし、その分働かないといけませんからね。またヘイオス殿の探し物に勤しもうと思います」


「うぇ~~!?」


「あ! 大丈夫ですよルゥ殿。自分がやりますので、どうぞゆっくり過ごしていてください。自分なら平気ですので」


「あ、いやっ、そうじゃなくて……! え~~~っ」


 ルゥテシアの予定という妄想が崩れ去って行く。どうにか止めたい気もあるが、意気込み励もうとするリキにどう言えばよいのか。迷いに迷い、されど答えなど出ず。

 困惑するルゥテシアの手をリキは取り、そして続けて言う。


「心配しないでくださいルゥ殿。ルゥ殿のために、自分は頑張りますので」


 ……と。面に隠れていてもわかる、眩しいほどの微笑みにルゥテシアは抗いを捨ててしまう。

 自分のためと言われてしまえば、彼の意気込みがどれだけルゥテシアにとって尊いか。ハートをグッと鷲掴みにされた気分だ。しまいには屈して「いってらっしゃい」と見送る。

 そこからリキがいなくなるまでの虚無感。ルゥテシアは動くことができず、静かに数分が経過してゆく。

 リキの気配がなくなれば、すーっと息を吐き捨てる。そして懐から通信機器を取り出し、即座に通話を開始した。


 ――……。……。


『どうしたルゥテシ――』


「ヴァカァアアアアッ!!!!」


 と。八つ当たりの如く言葉を放っては即座に通信を切る。






「……お? どしたのヘイオス? 誰から?」


「……いや、ルゥテシアからだが……いきなり馬鹿と言われてしまった」


「えー。なんかしたんじゃないの~?」


「しばらく通信以外で会ってすらいないのだがな……」


 何がいけなかったのか。唐突な罵声にヘイオスは混乱しかない。


   ◆


 ネアにイロハを預け、クロトとエリーは王都を目指し、手前の街に到着。目視で王都が確認できるほどの距離まで来ていた。

 

「相変わらずでけーな……」


 クロトは数年ぶりに見るアイルカーヌ王都を遠目で眺める。

 魔科学を発展させた国。王都の中心にそびえる大きな建造物。天高くある塔に似たものは最大の研究施設にして王城。代々アイルカーヌの王族は高い知識を活かし国の発展に導いてきた。昔は軍事を中心に進めていたが、今では多くの科学者を生み出し暮らしの支えとなるものを研究している。今となってはアイルカーヌに留まることなく、その技術は他国にも活用されている。

 正に、科学者たちの楽園。魔と科学を混合させた技術の宝庫。


「大きいですね。あそこに行けば、【呪い】の解除方法見つかりますかね?」


「だといいんだがな……。アイルカーヌの大図書館は一度行った事あるが、結構広いからな」


 おもむろに過去を思い出す。


「書物に留まらず、過去の歴代研究資料の一部だってある。それら含めても1億を優に超えている」


「い……1億だと……、1,2、……と、とにかく多いんですね」


「それに今でも増え続けてるだろうからな。破綻していた研究結果も、見直し改善すれば扱えるものはある。そこから更に改良を重ねたりして、その知識と技術の応用を広めようと登録する奴らはゴロゴロいるからな。未来に自分の名をそういう形で残したいんだろうな。承認欲求の塊なんだろ」


「……クロトさんはそういうのは興味ないんですか?」


「…………今は特にな。名前残したところでなぁ。まあ、そんだけ数があって探すのには苦労するだろうがな。……そういえば、俺が行った時にはちょうど整備もしていた時だったな。あの本の数だ。もっと探しやすい様にまとめてもいれば、魔科学で位置を教える何かがあるかはしてるだろうな。それでどうにかするか」


 当時のクロトはエリーよりも小さな子供でしかなかった。しかし、探求心もあり、両親に連れられて王都に来た時はよく大図書館を利用してもいた。最初はただの時間つぶしだったが、当時の幼子であったクロトには退屈にならない時間でもあった。

 しかし、重要な書物もあるせいか、一般でも立ち入る事ができる大図書館でも入場に審査もある。それを考えるにつれ、クロトの思考がふと真っ暗になっていった。


 ――これ、俺は入れるか?


 と。不穏な兆しが見えてきた。

 証明書などというものをクロトは有していない。ヴァイスレットの時もネアがどうにかしてくれた。そして、疑念があればそれはエリーにも向けられる。今となってもエリーの素性【厄災の姫】という肩書は消えても拭えてもいない。妙に勘付かれれば厄介だ。

 親の名を借りるという手もあるが、それには躊躇いが出る。むしろ、それが通用するかも危うい。

 

『……え。ちょっと待って。まさかここまで来て手詰まりっすか?』


「うるさい。……ネアを呼べる気もしねーし、どっかに大図書館に用がある奴がいればいいんだがな」


『脅しっすか?』


「交渉次第だ」


『おーこわ』


 この手前の街でそれらしい人物がいればいいが。生憎知り合いと呼べる者も早々いやしない。クロトは自分の交流の無さが欠点と若干感じ始めてもいた。

 最悪侵入するという手もあるが。相手は魔科学発展国の中心。数年間の間にどれだけの警備技術を仕掛けているかもわからない。

 アイルカーヌ王都を眺めつつ眉を潜めていた時だ。微かに聞き覚えのある様な声を聞いたのは。


「では、こちらの貸し出し記録にサインをお願いします」

「いつも配達ご苦労様だねぇ~。年寄りだとわざわざ出向くのも苦労するから助かるよ」

「いえいえ。ずっと家にいても暇になりますよね。それと、こちらのチラシをどうぞ。近々王都の大図書館から近隣の街に貸し出し用移動図書が来る予定ですので。もしよければ、どのような本がいいかご意見をお書きください」

「助かるねぇ~。ありがとう」


 そうやって他愛なく図書の単語を思いて会話する様子に、不意に視線が寄った。

 理由としては、聞き慣れた声がそこから聞こえてきたからだ。

 視線を向けた時、思わず目が丸くなる。

 家の前で老婆と会話していたのは、情けなさが漂うような成人男性。話を終えれば彼は背負っていた箱に書物をしまい、こちらにへと顔を向く。


「……?」


 偶然、だったのだろう。男性と目が合い、どちらも同じような顔をしてしまう。

 男性はキョトンとし、しだいにクロトは顔をしかめる。

 

「え……あ、え!?」


「なんでお前がいんだよ……眼鏡野郎」


 クロトの前にいたのは、以前魔女の住む街を探す際に同行していた青年――ユーロだ。

 困惑するユーロ。その間にクロトは不快ながらも情報を整理。何かを閃いた様子でユーロに近づき、彼の肩に手を乗せ、逃げないようにギュッと掴んだ。


「ちょっといいかヘタレ眼鏡? 話があんだが?」


「な、なんですか、なんですか魔銃使いさん!? あ、えーっと、お久しぶりですねっ。その節はどうも!! ――それじゃあ!」


 急いで逃げようとするも、それは叶わぬ願いだ。

 既に身をクロトが掴んでしまっているのだから。


「まーまー、とりあえず話を聞けヘタレ眼鏡♪ …………な?」


 どれだけクロトが笑みを浮かべ親しみを取ろうとするも、ユーロにとってそれは脅迫的なものだったのだろう。言う事を聞かねばどうなるか。

 すぐに観念し、おとなしくクロトに従うことにした。

 

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