★【序章】
アイルカーヌで【聖杯】の捜索を続けるクロトたち。
新たな魔武器所有者たちとの対立、対話を重ね、新たな事象が……。
アイルカーヌに出現した新たな街。
消息不明となったメフィストフェレスの魔鋏に新たな契約者?
王都でもてはやされる【歌姫】の正体は……。
アイルカーヌに集う7人の契約者。7体の悪魔。
彼らは各々の意志に従い行動する。
敵か、味方か。定まらない関係。
そして、エリーにも変化が。
使い道のわからない魔女の力。魔女として、そして誰かのために、クロトのために何かできないか。教えるのは、誰よりも魔法に長けた存在。
【厄災の姫と魔銃使い Ⅱ】 魔女の遺産編2 開幕
――時折、同じ夢を見る事がある。
目を覚ませば忘れてしまうような、泡沫の夢。しかし、いざ夢で訪れれば、既視感のある光景でしかない。
そこは延々の闇。暗い世界で、なにもない。
なにもないが、――何かはある。
自分などちっぽけでしかない、巨大なそれをいつも眺める。
体が覚えている。
触れてはいけない。亀裂の奥を覗いではいけない。
歩みすぎれば、戻れないくらい引きずり込まれて、何もかも失ってしまう。
その恐怖がある限り、自分はそれ以上踏み込むことをしなかった。
だが、時折聞こえてくる。
招く様な呼び声が。
――私を呼ぶ貴方は誰?
――どうして私を呼んでいるの?
そう心で何度も呟いた。
問いかければ、歩み寄ってしまうのと同じに感じたから。
――此処にいてはいけない。
後退りする。その時、誰かがこちらをずっと見ている気配にようやく気付いた。
思わず驚愕と振り向けば、そこには不自然なものが置かれていた。
闇の中で、鮮明と映る白い席。円形のテーブルと、椅子。
こんなものは初めてでしかない。初めてのものに困惑していれば、奥から、くすり、とほくそ笑む声が聞こえた。
テーブルに置かれたティーカップが浮く。その席に、誰かはいた。
「――また此処に来てしまったのね。あまり頻繁になってくると、少し不安だわ」
少女の言葉に悪意というものは一切感じられない。
そして、その存在を。――エリーは知っている。
「夢だと思うなら覚める時間よ。……あの子が待っているわ」
少女は人差し指を向け、途端に視界がその場から遠のいてゆく。
最後に見えた少女の瞳。
それは鮮血とした……赤い瞳だった。




