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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第一部 六章「魂の行方」
31/59

「魂の真意」

「――いっただっきま~~っす♪」


 オリガが手を合わせ、待ってましたと手を合わせる。

 先ほどまでの険悪な様子は何処へやら。

 そんなオリガの気を鎮めたのは、彼女の前に置かれていた3人前はある大き目のパフェ。色とりどりのフルーツとクリーム、そしてケーキ素材で層を作り、上はアイスなどを追加して豪華に飾られたもの。

 それをオリガはなんの躊躇いもなくスプーンで食べ始めてゆく。

 大きさに圧倒されるエリーは普通のサイズのパフェを注文。差は歴然であり、とても食べきれるとは思えないものにがっつくオリガに目が釘付けだ。

 

「ん~~~~っ。すっごく美味しい~~~!! アイルカーヌに来たら絶対食べるって決めてたんだ~」


「そ、そうなんですか? 私、こういうのあんまり見たことなくて……」


 アイルカーヌ国内の街には何度も立ち寄ったが、こういったしゃれたものはまだ見ていない。何処もメニューの内容は均一としていた記憶がエリーとしては真新しかった。

 しかし、国の中心に近づくにつれ、こういった変化も見られる。 

 理由はやはり、国民の敬愛する【歌姫】にあった。

 様々なパフェの描かれたメニュー表を見れば、どの料理にも【歌姫】のお勧めや感想が端的に記載されている。あまりよく触れられなかった食文化にも、彼女は貢献していると見受けられる。この喫茶店もまだ新しく、今は少ないが時間が来れば大賑わいな大繁盛となっているらしい。

 正に、女性が好みそうな店だ。


「ほらほら娘子ちゃん! これ美味しいよ! 一口いる? あーん!」


 もはやオリガにエリーへ対する警戒心は微塵もない。

 一口とスプーンを向けてくるも、エリーはハッとして断る。


「だ、大丈夫ですよ。自分のがありますので」


「そう? 欲しくなったら言ってね娘子ちゃん!」


「……あの、私はエリーです」


 会ってからずっとオリガはエリーの事を魔女の娘として「娘子」と呼んできた。その呼ばれ方には少し抵抗があったのか、自分の名前を告げておく。もしかしたら、ただ名前を知らないだけなのかもしれないのだから。

 名乗った後、オリガはようやく知った様な顔をする。


「そうなんだ! じゃあ、――()()()()だ!」


「…………たん?」


 思わず首を傾ける。しかし、悪くもなく先ほどよりはマシだろうと、エリーは受け入れて冷えた甘味をようやく口にする。

 確かに、オリガの言う通りとても美味しくある。冷えたバニラアイスと生クリームの組み合わせがとても合い、ほんのり苦みのあるチョコソースがまた甘さを引き立てる。フルーツも新鮮で申し分ない。

 

「美味しいですね。甘くて私好きです」


「でしょ~」


 気付けばオリガ起用に上を残しつつ半分ほどまで進めていた。

 そんな機嫌よくいるオリガに誘われる悪魔が一体。


『……オリガ、それ美味しいデス?』


「ん? ルサルカも食べる? 代わるよ~」


『ほ、ほんとデスか!? オリガ、大好きデス!』


 途端に活気づいていたオリガがしんと静まる。次には瞳の色を青く変え、少々戸惑った様子へ。恐る恐る握るスプーンでクリームを小さくすくい、それを口に含む。

 その後、瞳は潤った様に輝き、思わず頬にへと手を当てる。


「お、美味しい……デスっ。こんなの……初めて、デス」


 と。何処か聞き覚えのある言葉遣いにエリーは察する。

 今目の前にいるのはオリガであってオリガではない。ルサルカが簡易的に表にできているのだと気づく。

 オリガとは違い小口ではあるがぱくぱくと食べ進めてゆく。もしかしたら、オリガはこれを見越して上を残しつつ食べていたのやもしれない。とてもオリガとルサルカの仲は良くあると見える。

 夢中になっていたが、ルサルカは正面を向くとエリーの存在を思いだし、急に慌てだして大きな器にへと入りきらない姿を隠そうとした。そして、小刻みに震えて顔を赤らめている。それをルサルカの姿で置き換えても、とても以前あった悪魔とは思えない。あの時はもっと、怒りやすい性格であったと記憶している。


「えっと、ルサルカさん……ですよね?」


「ぴぃ……っ!! あうあう……」


 警戒もしているだろうが、人見知りも激しく思える。


「大丈夫ですよ、何もしませんから……」


「~~~っ」


 しばらくすれば、ルサルカは物陰から出る様に座り直す。


「なんだか、以前と全然違いますね。とっても、その、恥ずかしがり屋さんみたいな……」


「……ルサ。あんまり他の奴と、いるの……苦手、デス。…………変、デスか?」


「いえ。怖い悪魔さんかと思ってましたけど、やっぱり可愛らしいかと」


「…………それに、ルサは、あのクソ蛇嫌い、デス。魔女の子も……気を付ける、デス」


「……は、はい。気を付けます」


 まさかルサルカにまでも忠告されるとは。

 しかし、これまででどれだけニーズヘッグから過剰な愛情表現を受けてきたか。その忠告ももう遅くはあるが、エリーは受け止めてクリームの甘味で流す事とする。

 不意に、エリーは少し離れた席を見る。

 今この席にいるのはエリーとオリガの2人。残りの2人は窓際の別の席にいた。

 





「さて。こんな所で発砲するなよ? 魔銃使い」


「お望みならやってやろうか? 眼鏡野郎」


 エリーたちとは違い、こちらはとてもぎすぎすとした空気が漂っている。

 しかし、そんな空間でもひときわ目立つのはヘイオスの前に運ばれてきたオリガと同じパフィだった。お互い険悪な様子でも、それだけで破壊力は絶大でしかない。すごく気が散るというもの。

 店の店員はパフェを置いた後、なにも頼んでいないクロトの方を恐る恐る確認。


「あ、あの~。そちらのお客様、ご注文は?」


「――水」


「は、はい!」

 

 店員はすぐさま無料の水を取りに駆け出す。

 すぐさま持ってくれば、「ごゆっくりどうぞ」と焦った様子で逃げてゆく。

 ようやく部外者がいなくなれば話の続きなのだが、どうしてもヘイオスの品が気になってしまう。


「……つーか、お前もそれ食うのかよ」


 何処か冷めた目でクロトはヘイオスを見る。軽蔑も含まれているだろうが、よくこの場と空気で頼めたなと、別の意味で恐れ入る気分だ。

 ヘイオスは咳払いをし、わずかに顔を赤くする。


「べつによかろう。……オリガに頼ませたのは間違いだったか。さすがに気まずくなってくる」


 自分の意志ではないと主張するも、体は無意識にそれを食べ始めてゆく。

 ――コイツ。甘党か……。

 甘いものが好きというのは基本女性にあるものだが、男性にないというわけもなく。人の好みも多種多様のため否めない。だが、クロトは甘いものをあまり好まないため、別でヘイオスに対する不満が更に増えた瞬間だ。

 

「それより、お前はなにもいらんのか? 一応、こちらで出すぞ?」


「いらねーよ。そういうのは好きじゃねーし、奢られるくらいなら水でじゅうぶんだ。あの魔女のことだ。どうせお前らも金には苦労してねーんだろ?」


 クロトは当初から魔女による金銭的な施しを受けている。イロハがそれを有していないのは、イロハが無知であるため。常識のあるヘイオスたちに渡していてもおかしくはない。

 しかし、ヘイオスはそれを強く否定。


「なめるな。これでもしっかり魔物退治などをして稼いでいる。…………私だって魔女様から渡されているが、さすがに手は出せんよっ」


 と。クロトと同じ金のカードを見せる。しかし、一度もそれを使わないようにしてきたとのこと。

 確かに。何処と繋がっているものかわからない。クロトもそれは知らずでいるが、使うことにあまり抵抗はない。あるものは使う。ただそれだけなのだから。

 何を泣き言の様に決意を示しているのか。クロトにはそんな心情がわからない。


「……それで。話ってなんだ? 例の話なら断るぞ? 逆にこっちはお前らが余計な事をしてないか知りたい」


「余計な事とは……。こちらも北に来てからなかなか作業が進んでいない状態だ。【聖杯】も見ていない」


「……てっきりお前らが潰して周ってると思っていたが」


 これは意外だと、余計な濡れ衣を2人に着せるところだった。

 進んでいないということは、イロハも捕まっていない事となる。


「【聖杯】とて、その場に必ずあるわけでもないからな。手間は減って助かるが、予期せぬことで壊れている可能性もある。探しているなら無駄足ばかりだと思うぞ?」


「大きなお世話だ」


「それに、こちらがお前に聞きたいのはこの前のことではない。……別の事だ」


 さて。此処までの流れで何度ヘイオスは眼鏡を上げ直した事だろうか。そう思考を働かせ、ヘイオスの話がどうでもいいと聞き流そうとしていた。

 だが、ヘイオスの本題をクロトは聞き流す事はできなかった。

 

「魔銃使い。……お前はあの方が、――()()()が何処にいるか知らなか?」







 唐突な問いに、クロトの思考が不意に刹那停止した。

 言葉の意味もわかったものではない。ヘイオスの言う魔女とは、あの魔女の事でしかなく、その魔女は既にこの世にはいない。

 

「どういう意味だ? 魔女は死んだ」


 死を知っていないのか。ハッキリと断言しておく。

 ヘイオスも少し頭を悩ませる。


「それは……こちらも理解している。なら魂は何処かにあるはずだと私は思っている」


「……魂?」


『ああ、なるほど。そういう事か』


 察した様子でニーズヘッグは気付く。

 ヘイオスには冥界の使者であるバフォメットがついている。魔女の魂を探しだし、なにかしらの助言を得ようとしているのだろう。なんせヘイオスとオリガは魔女側の人間なのだから。


「我々は今魔女様の魂を探している。……しかし、バフォメットに冥界を確認させたが見つかる事はなかった。バフォメットによれば、魔女の魂は冥界を通る事はないらしい。そのためこちらで探しているのだが、なかなか見つからないでいる」


『魔女殿たちの魂は異質であって、冥界では見たことがありませぬ。魔族側からも相当恨みありまして、ハーデス殿に見つかればそれはもう制裁な罰が与えられるでしょうからね。……役立たずとなってしまいましたが、ヘイオス殿、御仕置きはありますか?』


「……少しおとなしくしていろバフォメット。……我々の行動も魔女様の意志を尊重したものだが、あの方の残しものも不透明なものが多々ある。そのため、今一度魔女様の真意を知りたい。そう思っている。……娘子のこともあるのでな。まさか魔女として目覚めるなど、こちらも予想はしていなかった」


「俺だってあんな姿は初めて見た」


「無事ということは、お前はあれをどうにかした……ということか。いったい何をした?」


「べつに。……それに、エリーのことをあれとか言うな眼鏡野郎。マジで殺すぞ?」


「…………了承した。言葉には気を付けるが、それはそちらも同じだぞ魔銃使い。……私はお前を認めも、そして許す気もないのだからな」


 話を打ち切ると同時に、ヘイオスはスプーンを空になった器へ挿れる。

 話に気が向いていたが、いつの間にかヘイオスはペフェを食べきっいた。

 バフォメットの空間操作もそうだが、ヘイオスの中に異空間があるのかと疑いたくなるものだ。

 

 新たな情報にクロトは危機感を抱く。

 死して尚、あの魔女という存在はまだこの世にいるやもしれない可能性。もし、それがヘイオスたちに見つかり、干渉すれば、また終焉の引き金になるやもしれない。

 これ以上現状の悪化をしないようにと、魔女の魂は自然消滅したと考えたくもあった。

 同時に、魔女ならエリーの【呪い】を解ける手立てを知っているのではと、淡い希望すらもある。

 その魂は、あるとすれば今何処にあるのか。


 ――お前は今……何処にいるっていうんだ。魔女……。


 

『やくまがⅡ 次回予告』


クロト

「ついに2期も始動してやっと1部終了か。何気に新キャラ続出でこの回に一気に詰め込んできたな。速足じゃね? 初見が見たらそう思うぞ?」


ニーズヘッグ

「ウチのクロトが読者の心配をしてらっしゃる! これが成長です皆さん!!」


クロト

「いや、一般論だから心配でもなんでもないぞ?」


ニーズヘッグ

「つーか、今回はメタい話していく感じなわけ?」


クロト

「正直、文字数とかが原作と比べれば確かに増えててなかった話が盛り込まれてたりとしてるんだよな」


ニーズヘッグ

「要は改善されてるって事だろ? さすがに改悪はしてねーと思うが」


クロト

「作者の中ではな?」


ニーズヘッグ

「怖い怖いw」


クロト

「にしても、魔女との因縁も終了したってのに、またあの魔女が出てくるのか? さすがに勘弁してほしいが」


ニーズヘッグ

「俺もあの魔女には二度と会いたくねーんだが……。でも一番の近道があの魔女なんだよな~……」


クロト&ニーズヘッグ

「はぁ~……」


クロト

「とりあえず、王都に向かいつつってことだな。今回は見逃したが、あの眼鏡野郎も放置しておけねーし」


ニーズヘッグ

「逆に向こうも見逃してやったって思ってるぞ絶対に」


クロト

「次は絶対に負けない……だろ?」


ニーズヘッグ

「次回、【厄災の姫と魔銃使いⅡ】第二部 一章「知識の存在」。あったりまえだってーの。ルサルカ相手じゃなきゃ眼鏡野郎なんて消し炭です!」


クロト

「そこはどっちにも負けねー勢いでいけよ」


ニーズヘッグ

「心の問題ってもんだあんの」

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