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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第一部 一章「新たな旅立ち」
3/43

「少年少女の日常2」

 ――ガシャン!


 その音にエリーはビクリと肩を跳ね上がらせる。

 いったい何の音なのか、確認のため後ろを振り返る。クロトも同時に同じ方向を向いたが、どういうわけか荷馬車の入り口にいつの間にか鉄格子が取り付けられていた。

 状況を察するに、出られない様に閉じ込められた、ということになる。


「……え?」


 呆気に取られていれば、直後馬車の速度が増し、荷馬車の中は雑に揺れだす。


「ヒャッハハハ! 悪いねキミたち! 丁度手頃なのがもうあの街では無理と思っててなぁ。最後に活きの良いのが手に入ってよかったってもんよ!」


「悪く思うなよぉ。こっちだって生きるために金が必要なんでなぁ」


「……」


「え? ……ええっ!?」


 エリーは頭が追いつかず。だがクロトは冷静に理解した。

 先ほどの街で人さらいを行っていたのはこの二人だ。徐々に警備が厳重になり、仕事にならないと諦めがきていた時に遭遇した様子。そして、彼らにとってクロトたちは飛んで火にいるなんとやらだ。それも、親元がないとわかれば捜索もされる心配がない。都合がよかったのだろう。

 向かう先は人身売買か、闇取引か、それとも奴隷か……。とにかく対処せねば最悪コースだ。

 さすがのエリーも、この状況はよくないと思ったのか、なんとか前の様にまで進み、前を見るための小窓から呼びかける。


「あ、あの! なんだかよくわかりませんが、危ないので止まっていただけると……っ、そのぉ!」


 しかし。必死の呼びかけも届かず、舞い上がった彼らには届かず。盛大な笑いを響かせながら荷馬車を勢いよく走らせる。

 大きな揺れがあればエリーはバランスを崩し尻もちをつく。

 どうしたものか。それを考えつつ、クロトがあまりにもあとなしいことに気付く。

 咄嗟に振り向いてみると……。クロトは無言で、前の席に片手を向け、なにやら指折りでカウントを取っている。ついさっきまで5だったのだろうが、ゆっくりと4、3……と進めてゆく。おそらく前の二人に向けた何かしらのサインなのだろうが、生憎あちらはそれに気付くこともなく。

 クロトの表情に感情というものはない。だが、それは逆に怖くもある。普段から短気ですぐ暴言の出るクロトなのだが、そんなクロトが途端に静かになる時は……。

 エリーはゾッと顔を青くさせ、急いで前の席にへともう一度呼びかける。


「お、お願いします!! 早く止めないと、大変なことに……!!!」


 なんとかして気付いてもらおうとするも、その願いは虚しく。

 ……とうとう、クロトからのカウントは0となる。






 ふっ……。と、風が頭上をかすめる。

 だが、ただの風ではない。鋭利で、威嚇にも思えた風に恐怖を得た。

 突如その風は荷馬車の屋根を吹き飛ばし、次に地を抉る音と乱暴な揺れが襲い掛かる。

 エリーが放り出されないようにクロトは腕で抱える。しばらく振動は続く中堪え……、荷馬車は意に反して止まる。直後、取り乱した馬が暴れだし、たずなを握っていた男たちを地にへと放り飛ばす。

 地に打ち付けられた二人は、いったい何があったのかと状況を確認する。

 そして、目にした光景に目を疑った。


「な……っ、なんじゃこりゃぁあ!?」


 驚くのも無理はなかった。

 荷馬車には赤白とした、柔らかな灯火に似た光を纏う、ゆらりゆらりとある羽衣が纏わりついていた。車輪の後ろではその羽衣の一部が地に突き刺さり、硬い地面を長く抉っていた。荷馬車を止めたのは、この生きているかの羽衣だ。

 開いた口が塞がらず、呆気に取られていた男たちを、檻から出てきたクロトが見下ろしている。


「一応、待ってやったんだがなぁ。やっぱ、馬鹿な奴は死ななきゃ治らねーってやつか?」


 クロトの右手には黒い銃が握られていた。銃口は自然と愚か者たちにへと向く。

 明確な狂気が向けられ、圧倒的な威圧のある羽衣を目にして、男たちは情けなく身を抱き合いながら怖気づいていた。

 明らかな弱者と強者の対面。生か死か。そのはざまの空間に割り込めるなど、それこそ勇敢な何者かだろう。

 緊迫とした空気。そこに何者かの声が割り込んだ。



『おいおい、クロトぉ~。めっちゃ相手無様にお泣きの様子なんだぞぉ? その姿だけでウケるって。そのくらいで勘弁してやれよ、我が主ぃ~♪』



 この空気に不似合いな陽気とした呼び声に、クロトの怒りの矛先がずれる。

 声の主は、その場にいて、その場にいない。声はこの場ではクロトのみ聞き取ることだできるもの。

 それは、クロトの内に潜む蛇。世では昔にいたと語られた、極悪非道の大悪魔。業火で焼き尽くす竜種の一体。

 ――【炎蛇のニーズヘッグ】。


『いや、わかる。わかるぞぉ。短気ですぐ敵意丸出しにしちまうお前が、5秒も耐えたんだもんな~。進歩したよウチの主は。前なら5秒も待たねーって。速攻で撃ち抜いてもおかしくねーからなぁ。よしよし』


「黙れクソ蛇。茶化しにきたなら話しかけてくんな。お前から撃ち殺すぞ?」


『やめて我が主。こんな健気に付き従う大悪魔な俺に、いったいなんの不快感があると? 酷くないですか? たまにはデレてください』


 切実な願いかのように炎蛇は物言う。

 鬱陶しいことこの上ない大悪魔。その姿も声も、クロトの精神の中では嫌というほど見聞きすることができた。

 駄々をこね、大の大人にも関わらず威厳というものが消失してしまっている。


『まーいい! 姫君に目をつけるたぁいい度胸だなゴミカスども! 温情な俺様もよくよく考えたら極刑の一択だ! つーわけで、どう料理すんだクロト? 任せろって、この炎蛇様がご要望にお応えいたしますとも』


 ついには止める事をやめてしまった。

 さんざんな言われように対する発散場所。それを愚か者たちにへと変える。

 羽衣。――炎蛇の皮衣はゆらめき、しだいに炎を纏い火花を散らす。

 相手の恐怖心を煽り、男たちは助けすら求め叫び出す。


「ま、待ってくださいクロトさん!」


 事態を次に止めに入ったのはエリーだ。

 炎の中心でクロトを呼ぶ。


「悪いことをしていた人たちですけど、なんだかこっちがもう悪くなっちゃってますっ。それに、怖がっているんで、もう許してあげましょうよ」


 被害を未然に防いだだろう。今の状況としては、正当防衛というよりは過剰防衛とも捉える事ができる。

 すっかり相手も抗うどころか怯え切ってしまっている。

 冷静にこの場を見直すクロト。不快感は残るも、目の前の障害に対するこの過剰は溜まった不満をここでぶちまけてしまっているだけにすぎない。検問やら濡れ衣やら。街でこれを出さなかっただけでもクロトはよく耐えた方だった。

 もはや障害でもない彼らを罰する気力も失せ、クロトは顕現させた羽衣をふっと消す。


「……クソ蛇が焼こうとしてただけだ」


『おいおい』


「そ、そうなんですか!? ニーズヘッグさん、ダメですよ! そんな可哀想なことしたら」


『あれ~?? 俺が悪いことになってないか!? クロトお前! 姫君はな、ほんと稀にしか俺の声聞こえねーんだぞ! そんなこと言ったら俺が率先してあのクズども焼こうとしてたみたいになるだろうが、訂正を求める!!』


「…………そのうちな」


『それ絶対やらないやつだ!!』


 炎の熱が冷めてゆく魔銃。それをしまうと、クロトは足場から飛び降り、へたり込む男達を再度見下ろす。

 続いて、エリーもクロトの後ろで申し訳なさそうに頭を下げた。


「すいません! 私も声をかけたんですけど、聞こえてなかったみたいで……」


「それはべつにいい。さーて、どうすっか? たぶん、こいつらがあの街で言ってた人さらいの件と関与してるはずだが」


「それなら、他の人が今どこにいるかも知ってますよね」


『じゃあ拷問……いや、尋問して吐かせるか?』


「つーか、結局そっちに話は進むんだな」


 これはもう人助けの流れだ。本来ならどうでもいい赤の他人。それを探す手掛かりが目の前に転がっている。

 もう拾ってやってくれと言わんばかりだ。

 

「……おい、お前ら」


「ヒッ!?」


「さっきの街での人さらいはお前らが原因だな。そいつらは何処にいる? 言わねーと………………わかるよな?」


 先ほどの恐怖の再来。それを促してやれば、男たちは正直に白状した。

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