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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第一部 四章「冥界使者と水霊鬼」
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「魔槍使い」

「……予想はしていたが、やはり無理だったか」


「だから言ったじゃんヘイオスー。こっちの方が早いって」


 オリガは肩にかつぐ槍を揺する。

 どうもオリガという魔武器所有者は回りくどい話し合いよりも端的な行動を優先したい様子だ。なんというか、考える事が苦手なイロハが脳裏をよぎる。


「これを最後にしておこう。我々には賛同しない……ということでよいのか?」


 どうしても穏便に済ませたいのだろうが、ヘイオスの問いにクロトは、


「うっせー眼鏡。邪魔するなら俺にとって敵も同然だろーが、出直してこい」


 ……このように高圧的だ。

 ニーズヘッグの予想通り、クロトに賛同の意志というものはない。


「……いや。魔銃使い、そちらの回答はなんとなく理解はできている。私は魔女様の娘子に聞いているのだ」


 クロトが意見を変える事はないだろう。敵意もヘイオスは理解している。

 ならば、部外者ではないエリーにもこの話は大事だ。少しばかり放心していたエリーが、ハッと我に返る。


「わ、私ですか……? ……私は、その…………」


 エリーにとって、クロトとヘイオスたちとでは目的が明らかに異なっている。だとしても、敵対という関係は良く思えっていない。同じ人同士。同じ魔女の関係者。同じ魔武器所有者で悪魔と契約している。ある意味同族だ。悪い相手とも思えず、できることなら仲良くしてほしい。

 唐突に選択を迫られると、エリーはクロトを困った顔で見上げた。


「……クロトさん…………」


 悩むエリー。しかし、クロトは判断を少女にゆだねる。


「お前が決めろ。……お前はどうしたい?」


「……」


「ちなみに、クソ蛇から聞いてるが、向こうはお前の【呪い】を解除したくねーってよ」


 クロトの目的はエリーの目的と言っても過言ではない。むしろ、そのために2人は一緒に行動しているのだから。

 この身に宿る危険な【呪い】を解除するため。なら、解除を阻もうとするヘイオスたちに協力するのは真逆だ。

 悩んだ末、エリーは自分のために、クロトのためにと意を固め、ぎゅっとクロトに寄りそう。


「……だってよ」


「…………やむを得ない……か。手荒ではあるが、仕方ない」


 眼鏡をくいっと上げ直し、ヘイオスは断念した様子でため息を吐く。

 そして、前にでようとすれば、彼の前を遮るようにオリガがずいっと前へ進む。


「あたしが行くよヘイオス。不死身くんには、あたしが適任だしね」


「そうだな。……それでは、――両者の捕獲を開始する」


 ヘイオスはオリガの頭をひと撫で。機嫌よく、くるりと回ってオリガは更に前にへと進む。ぱしゃぱしゃと水音をたて、止まったところで赤い槍を振るい、一気に構える。

 その矛先はクロトにへと向いていた。


「お待たせ不死身くん。ルサルカがキミと戦いたいってさ。なんでもすっごい嫌いな悪魔みたいだし、こてんぱんにしてあげるっ」


 好戦的と笑みを浮かべるオリガ。面倒ではあるが、挑まれたからにはクロトも逃げはしない。女を相手に逃げたなど己のプライドも許さない。

 

「俺は相手が女でも手加減しないからな? 邪魔するなら、容赦なくぶち抜くぞっ」


 男女の壁などクロトには関係ない。なんの躊躇いもなく魔銃の銃口がオリガにへと向いた。

 エリーはその後の危険を感じ、後退ってクロトとの間を開ける。望まぬ結果ではあるが、この場はヘイオスたちも退かないため衝突という形にへとなる。不安に緊張をはしらせ、エリーはゴクリと息を飲んで見守ることに。


『ニーズヘッグ……、絶対に死なす、デスッ』


『絶対殺す気でくるってルサルカはぁ……。一番戦いたくねー相手だが、……やるしかねぇっ』


 どちらの準備も万端だ。

 クロトにとって、イロハに続く悪魔を宿す魔武器使いとの戦闘。どういった攻撃をするかは未だ多くが未知の領域。

 警戒を怠れず、気を引き締めて挑まねばならない。

 なんせ、オリガもまたお魔女に認められた魔武器使いなのだから。

 こちらに緊張がはしるも、対してオリガにその様子は見受けられない。それどころか、ピシっと片腕を上げ、


「№2! 魔槍のルサルカ! ――いっくよー!」


 開戦の合図を唱え、槍をくるりと真横でひと回し。次の瞬間、薄い水面を踏みしめ、水しぶきをあげて突撃を開始した。


 





 先手を取ったのはオリガだ。しかし、間合いまでの時間が発砲の隙を許す。

 クロトはまっすぐ突っ込んでくるオリガに一発銃弾を放つ。銃弾の直撃よりも早く、オリガは片足で地を強く踏みしめ速度を殺し、全身をひねって槍を水面にへと叩きつける。まるで爆発でもしたかのように水柱が高くあがり姿をくらました。空振りした銃弾は奥のヘイオスにへと飛ぶが、体の角度をずらして難なく回避。


「……とばっちりは勘弁してもらおうか」


 今戦っているのはオリガだ。ヘイオスは少し魔銃の射線上から移動することとした。

 手応えがないいじょう、銃弾がオリガに当たったことにはならない。クロトはオリガを目で追い、頭上にへと向く。水柱の勢いに乗って跳躍したオリガは槍を真下に構えている。気付かれなければ不意打ちはできただろうが、クロトもあまくはない。落下予測地点から数歩下がる。眼前に落下したオリガは槍を地に突き立て着地。こちらも空振りと目を丸くしたオリガが顔を上げれば、銃口が目と鼻の先。間もなく銃弾が放たれる。


「うわっ! っとぉ!?」


 首を傾け、追い打ちと撃ち込まれる銃弾から逃れつつオリガは後退。槍の間合いを保ちつつ、クロトの足を狙って槍が振るわれた。

 体勢を崩すのが目的。そしてオリガの攻撃範囲は刃は見当たらなくとも槍と同じ。回避はするも、中距離の間合いを取りつつ、素早い槍捌きで詰め寄ってくる。

 対してクロトは魔銃。遠距離が基本だ。相手はそれを見越し、なかなか撃たせない様に立ち回ってくる。

 

「……ちっ、面倒だな。――【纏え! ニーズヘッグ】!!」


 クロトは身に炎蛇の皮衣を纏い、更にそれを右腕にへと巻き付けた。

 羽衣は刃の造形を模り、クロトは戦い方を一変。一呼吸の後に一気に間合いを詰めて迫りくる槍を受け止める。

 

「おおっ、面白いねそれ! 変形とかカッコいー!」


「うっせー女だなっ。戦う気あんのか!?」


「えーっ。あるに決まってんじゃん! ただ面白いのが好きなだけー!」


 子供のようにはしゃぐオリガに苛立ちすら湧く。

 せめぎ合う中、クロトは刃を傾け槍を受け流す。勢いのままオリガは前にへと身が傾きバランスを崩す。体制を立て直そうとするも、羽衣の刃が突如開き、銃口がまた狙っている。

 不安定なバランスのままオリガは身を反らし後退、銃弾を避ける……が。


「やば……!?」


 後退をしたものの、まだ安定しない姿勢。その隙を狙い、クロトが無防備なオリガの体に刃を振るう。


「――終わりだ!」


 容赦のない一撃。大振りの刃がオリガの曝け出されている腹部を横一文字に切り裂いた。


「ヒャー! ク、クロトさん!!」


 エリーはその一瞬に手で目を覆う。

 経緯がどうであれ、クロトが他者を刃で切りつけた事に変わりはなく……。エリーは目を塞いだままクロトに注意を促す。


「ダ、ダメですよクロトさん!! そんな事したら死んじゃいます!!」


 クロトの事だから加減はしてくれているだろうと、淡い期待を持つも相手は女性だ。一生消えない傷を肌に残すなど酷なこと。それどころか手当ができなければ危険だ。

 焦るエリー。しかし、クロトはそんな忠告よりも自身が得た違和感に思考が働く。

 

 ――……、なんだ? 今の感覚は?


 確かに、クロトはオリガの腹部を見事に切り付けた。その手応えに違和感が生じてしまっている。

 躊躇いなく切ったため、内臓も損傷するはずの一撃だ。まともの当たったのなら致命傷にもなる。しかし、クロトとしては切ったのは人体の手応えとは違っていた。

 そして、嗅覚は一切血の匂いを捉えていない。

 仲間であるヘイオスもこの事には無関心と言えるほど反応がない。

 前屈みにうずくまるオリガ。わずかに「うぅ……」と呻く声が聞こえるが、それは徐々に笑みを含みだし、しまいには腹を抱えて笑い出した。


「あははははっ。――なーんてね!」


 腹を抱えていたオリガ。彼女の腕の隙間から、ぼたりと何かが滴り落ちる。

 それは鮮血ではない。――水だ。


「なに!?」


 痛みもなく、オリガは起き上がると、裂かれた腹を晒す。

 傷口と思われる位置からは血ではなく水があふれていた。まるで、その体は水でできているかの様。

 今更だが、クロトはもう一つの共通点がオリガにあると思い出す。

 魔女から与えられた魔武器の悪魔と契約した者が得るものの一つ。――体質変化だ。

 せっかくの一撃も。それは水が形を元に戻す様に消えてしまう。


「ふっふーん。キミの体も面白いけどぉ。あたしの方がもーっと面白いでしょ?」


「……お前、その体まさかっ」


「見ての通り、ルサルカと契約したあたしの変化。あたしの体は水になることができるんだよ。だーかーらーっ、キミの攻撃は無意味だよん」


 クロトは自分の不死身は死なない分ある意味便利とも思える。

 しかし、彼女の体質もまた不死に近しいものだ。それはこの戦いの勝敗にも関与してくる。

 オリガの体質変化――【水体】。

 それは銃撃や刃をただ通すだけのものにしてしまうというもの。それだけにはとどまらないだろう。水とは、液体。形を自由自在に変化させることができるのだから。

 

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