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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第一部 四章「冥界使者と水霊鬼」
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「7つの魔女の遺産」

 唐突に空洞に流された大量の水が続く道を通ってあらゆるものを押し出す。

 

「ま……っ!? 魔銃使いさーーーーーーーん…………!」


 ユーロが流され、その声が徐々に遠のき、水音に掻き消されていった。

 ゴォゴォと荒々しい水流が、徐々に勢いを失ってゆく。オリガを中心とした水量が切れたのか。後にその場に残ったのはオリガと、地面にうっすらと張られた水面のみだ。

 荒れ狂ったような津波はどこへやら。しん、と静まった時。オリガの後ろで空間が歪み、黒ずんだ穴が開く。そこからヘイオスがことを終えた様子を確認。細かなため息を吐いていた。

 うって変わって、オリガはどこかスッキリした様子で満面の笑みだ。


「いや~、すっきりした~!」


「なにがすっきりしただ……」


 オリガの頭上から手刀が落とされる。

 痛いほどのものでもなく、かなり力を抑えたものだ。

 

「やってくれたなオリガ。まさかここで大技を使うとは……」


「平気平気~。ちゃんと手加減して抑えてたから。やりすぎると今度は生き埋めだからね」


 オリガはその証拠にと頭上の鍾乳石を指差す。

 本来ならこの空洞そのものを破壊できるほどだったと話すが、オリガは意図してその勢いを殺し、水量にも制限をかけていたと言う。そのため、頭上の氷柱の如き鍾乳石に触れないようにもしていた。

 この通り、ちゃんとやるべきことはやったと、オリガは自信満々だ。


「死なない程度に流したから~、たぶん出口で倒れてんじゃないかな? 暴れられてもめんどそうだし」


 だが、些か過激なのでは。そうヘイオスの目が訴えている。

 しかし、それでオリガが非を認めるということはない。

 ……ふと、オリガが頭上を見上げたまま、「ん?」と目を丸くした。

 確かに彼女の予定通り、鍾乳石は津波の反動などを受けておらず落ちてくる様子もない。しかし、その巨大な尖る石の一角に、やんわりとした灯りが見えた。

 暗闇で発光しているのは揺らめく衣。それが石に巻き付き、そこにはクロトとエリーの姿が。

 オリガの予想を逆手に、クロトは津波の届かない位置にへと避難していた。

 唐突なオリガの攻撃は、クロトにとって明らかな攻撃であり敵対行動と思われても仕方がない。警戒と不快が混ざった鋭い目が2人を見下ろす。


「……なんなんだよアイツらっ。それにあの女が持っているのは……やっぱ魔武器か」


『ああ。それも、かなりヤバいのが宿ってやがる……』


「おお! すっごい!! 手加減したけど避けるとかさっすがー!」


「……まあ、あっさりやられてもらっては、さすがにあの方に迷惑だからな」


 向こうは警戒どころか、この事態すら予想の範囲内だった様子だ。

 ただの人間でないことは確か。そして、どうもただの他人とも思えない。初対面であるこの2人は、異常なまでにこちらを知っている。

 クロトは炎蛇の皮衣を地まで伸ばし降りる。抱えていたエリーも降ろしてから、魔銃の銃口を2人にへと向けた。


「いきなりだな。津波でご挨拶とか早々味わえるもんじゃねーぞ?」


「ん? いや~、それほどでも~」


「褒められてないぞオリガ。しかし、避けていてくれた事には感謝している。できれば、あまり危害を加えるつもりはないからな。……御互いのためにも、話し合いで解決したいと思っている」


「御託はいい……。お前らはなんだ?」


「だからー言ったじゃん。不死身くんと、そこの子には一緒に来てほしいって。でも断られると面倒だし~、こういう力見せとけば色々察してくれると思って。一石二鳥ってやつ!」


「すまないが、オリガは頭よりも行動で示すタイプでな。いきなりの非礼は申し訳なかった。だが、我々も思うところがあってな。……特に、№5の魔銃を持つ不死身の魔銃使いにはな」


「……№5?」


 クロトは首を傾ける。

 ヘイオスの言う№5の魔銃。それは自分の持つニーズヘッグの宿った魔武器を意味するのだろう。そして、この魔武器を製造したのは他にない。あの魔女の関係者。この2人もまた、生きていた頃の魔女と何らかの関りを持っている人材になる。

 そして、オリガの持っている赤い槍。その中心には青い宝玉が埋め込まれており、異様な気配はそこから漂わせている。確実に、それもあの魔女の作り出した魔武器の一つのはず。更に、一番懸念を抱いたのは、クロトの持つ魔銃の製造番号と思われる数字は5。なら、1から4も存在している事となる。

 オリガの槍。イロハの魔銃。既に回収済みの魔鋏。合わせても数が足りない。

 なら、目の前のヘイオスはどうだろうか。彼もその内の魔武器を所持していてもおかしくはない。これで数は合う。

 だが、もしも他に数があるとすれば……。


「ちなみに、あたしのは№2! 不死身くんのより早めに作られたの! 魔女様がくれたすっごーい魔武器!」


 もはやオリガは遠まわしなことを言わない。隠す気もないのだろう。

 あそこまで魔武器の力を示したのだ。嫌でも思い知らされている。

 

「この数字はあの方の、魔女様が生み出した魔武器のいわば製造番号だ。№5【魔銃のニーズヘッグ】、№6【魔銃のフレズベルグ】、№7【魔鋏のメフィストフェレス】。そちらが有している魔武器が以上だろう」


「……どんだけ作ってんだよあの魔女は」


『少なくても7つはあるぞ。……となると』

 

 ニーズヘッグが言うまでもなく理解できる。

 こちらの知らない魔武器が、オリガの槍を含め4つ存在しているということ。

 

「私たちは魔女様が残した遺産となる魔武器所有者を探している。既に、こちらでは№1から№4まで集結している。少し自由なところはあるが、協力関係にあるのなら問題はない。そして、魔女様に反旗を翻した二人の魔銃使いと、魔鋏。あとはそちらの魔女の娘子で、こちらとしては目的がおおかた達成できるという感じだ」


「……言っとくが、いきなり攻撃されてお前らを仲間とかなんて俺は思わねーからな? それに、俺たちはお前らに構っている暇もない。わかったら俺らのことは諦めてそこをどけ。急にそんなこと言われても、こっちも色々とあるしな」


 お互いいがみ合うよりも、此処は考える時間をとると思っていったん引くの妥当だ。そう話を打ち切って、今はこれ以上話す事はないと意思表示した。

 しかし、ヘイオスは先をどくということはしない。

 

「この先には何もない。進んでも無意味だと思うが……」


「そんなのお前らに言われても関係ねーんだよ」


「だってなんも無いよ? あたしたち、この奥から来たし~。なんか用でもあんの?」


 不思議と首を傾けるオリガ。2人にとって、この先に思いたるものがないのだろう。

 話にならないと思えた時だ。クロトの後ろで、エリーが奥を覗き込む。


「……あ、あの。この先に【聖杯】というものがあるそうで……、私とクロトさんはそれを探していて……」


 余計な情報を与えるな。そうクロトは心で呟く。

 オリガとヘイオスにこちらの情報を与える事は、今後それらを頼りに関わろうとする節が見えたからだ。そのため、クロトも余計な事は言わないようにしていたのだが、これはどうしようもない。

 2人はキョトンとして、互いを見合う。


「……ああ、なら進む必要はないぞ魔銃使い」


「……あ?」


「だって、あたしたちのやる事って、キミたちを探すだけじゃなくて、その【聖杯】を壊してまわってることだからさ」


 一瞬、頭の中が白紙の様になる。

 

「まさか、よりにもよってそちらも探しているとはな。その様子からして、こちらとは理由が異なるらしい」


 真っ白になった脳内で最初に塗り固めていったのは不快感だった。運よく【聖杯】の情報を入手し此処まで来たというのに、目当ての【聖杯】は目の前の2人によって破壊されているという現状。

 無駄足と邪魔された事に、怒りが湧き上がってきた。


「……テメェらっ。よくもやってくれたな!」


「あーあ。ヘイオスが不死身くん怒らせたー! どうすんの?」


「私が悪いのか……? 以前から魔女様に人物像を聞いてはいたが、予想以上に短気らしい……」


「じゃあ、やっちゃう? その方が早い?」


 オリガは槍を揺らす。しかし、ヘイオスはそれを了承できず。


「仕方ない。別の交渉手段をとろう。もしかしたら、いい感じに話し合いだけでなんとかなるやもしれんしな」


 そう言って、ヘイオスは何もない空間を見上げつつ呟く。


「……いけるか? 私としては穏便に済ませたい」


「だってさー。よろしくお願いできる? ……え、いや?」


 続けてオリガも何者かと会話する素振りをしている。

 その姿には既視感があった。


「不死身くーん、キミもちゃんと悪魔出してね! 話つけてもうから!」


 オリガが予想を確信に変えてゆく。

 やはりそうだ。2人とも、内に宿す悪魔と対話している。どちらも魔女の作った魔武器を所持しているのなら、それもおかしな話ではない。

 どういった経緯で枷の幾つかを外したかは不明だが、2人はその悪魔を表にへと出そうとしている。


『……クロト。たぶん言うとおりにしねーとめんどそうな感じなんだが?』


「こっちとしては腹立たしいんだが?」


『いや、わかるんだが。相手の悪魔の片割れのことを考えると……なぁ』


 今を思い返せば、オリガの所持する魔武器の悪魔の名は聞いた事がある。以前ニーズヘッグとの会話でだ。

 確か、【水霊鬼のルサルカ】だ。ニーズヘッグとは面識もあるらしく……。津波の時にもそれなりに動揺すらしていた。


「……そんだけやべー悪魔なのか? そのルサルカってのは」


『やべーと言えば……やべーかな。いろんな意味で』


「ちゃんと対話できんだろうな?」


『…………善処するつもりです』


 どこか不安要素のある発言だ。

 しかし、これ以上の厄介頃も面倒だ。ここは渋々クロトも了承という形で静かに頷く。

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