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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第一部 三章「居眠り病」
16/59

「遭遇」

 薄暗い洞穴。周囲を石膏の柱が覆い、その中心にはひとつのモノが設置されていた。それは、自然的に形成され、大昔から変わらずその場に居座る器。形はその場にそぐわない、貴族などがたしなむ様なさかづきを思わせる金の器。器の頭上から細いライトが差し込み、その遺物の存在感を引き立たせる。

 少女の目が、下から上へとそれを眺め、物珍しそうにいた。


「ふーん。これが【聖杯】ってやつ? なんていうか~、パッとしないね」


 少女は期待下だったことに呆れ面をする。

 確かに、【聖杯】と称されたその物は金の色をしたものなのだが、とても古くからあるせいか、その神々しい色合いはくすんでおり、そこまで大層な名は似合わないとすら思える。古びたただの器の程度。これなら屋敷や聖堂に飾られている煌びやかな装飾の方が目を引くというもの。少女が残念がるのも納得がいく。


「私も実物を見るのは初めてだからな。どうあれ、我々の目的に変更はないし、むしろやりやすいんじゃないか?」


「確かに! 頭いいね!」


「……これに頭の良さはあまり関与しないと思うが、まあいいか」


 同じように【聖杯】を見物していた男は中心から離れる。


「他の【聖杯】も探さねばならんからな。手早く片付けよう」


「うーっす!」


 はきはきと応答。次の瞬間、少女は何処からともなく身の丈ほどの棒の形状をしたものを取り出す。

 それを大きく振りかぶり……。


「そんじゃごめんね~。【聖杯】ちゃん♪」


 勢いよく、それを【聖杯】にへと振り下ろした。

 静寂の空間に、陶器の割れる音が虚しく響く。


   ◆


 ようやく祠の通路に割り込めたクロトたちはまっすぐ奥にへと進む。これまでの灯りが乏しくなる坑道とは違い、こちらには光苔や石膏に含まれた光粉が柱を不思議と明るくさせている。無駄な灯りを持たなくても済み楽に進む事ができる。


「不思議ですね。周りの柱が光ってます」


「まだ魔科学が発展してなかった頃の代物だな。今じゃもっと明るい技術があるせいで、こういったのは使われなくなったな」


 今ではマナや魔素を使い、もっと明るく、更に効率よく夜に負けない光が実現できている。この場の柱も明るみはあるが、その感覚は狭く、その分狭い感覚で配置しなければならない。量もそれなりに必要になるため、今となっては効率が悪い。こういったモノは遺跡などでしかお目にかかれない。ある意味古代の発明だ。

 

「……むしろ、勿体なくないか? 今の技術と組み合わせようと思えばできんじゃねーのか? ……あ、でも確か光粉の成分も結構混ぜ合わせるもので光源としては難しくなるって話あったな。そこをどうにかできれば……」


 少しばかり、クロトの知識と好奇心が刺激されてしまったらしい。

 歩みは止めないが、夢中になってぶつぶつと考察を繰り返している。


「……魔銃使いさんって、なんだか不思議な人ですね」


「クロトさんは物知りなんですよねぇ。ああなっちゃうと普段よりもすごくおしゃべりになっちゃいます」


 これはクロトが幼少の頃から根付いている、魔科学などへの探求心や好奇心によるもの。普段は興味なさそうにしているが、実は表に余りださないだけで内心興味津々だったりもしている。特に、発明品などの代物が欲しい、というよりはその中身の構造などを把握したい方が勝っている。こういった物でも今の技術と組み合わせることができるのではと、ほんのわずかに向いた思考ですら頭の中で広めていく。

 ……ただし、それは考察のみに止まり、息詰まれば素直に余計な思考を停止。現状にへと戻ってくる。そもそも、クロトに魔科学などに働く頭脳はあっても実物を構造する知識はない。


「…………実際にやってみねーとわかんねーな。ま、そんな暇ねーからどうでもいいか」


『魔科学好きなのか嫌いなのかどっちなんだよ……』


「べつに好き嫌いとかねーが? ただ、あーできねーか、更にこーできねーかって、気になった事を放置しておくと後々虫の居所がわるくなるだろうが」


『……要するに、気になったら徹底的に知りたくなるってやつか。あんま小難しいの頭に並べねーでもらえますー? 俺そういうの興味ねーんで』


「……なんだったら、次の罰は俺の知ってる魔科学論文を聞かせてやろうか? そうだなぁ。3時間くらいするもんがいいか?」


『嫌がらせの時だけそんな楽しそうにしないでください』


 それは勘弁してくれと祈る炎蛇さん。それを嘲笑するのが魔銃使いだ。

 以前は敵対関係にあったニーズヘッグも、今ではクロトという主に事あるごとに罰という仕置きを考えられる日々。そのためか、この大悪魔はクロトが起きている間はなるべく余計な事をしないようにと心に留めているとか。

 どれもニーズヘッグが確実に嫌がる事をするため、そういった嫌がらせを考えるのは無駄に得意であると実感している。

 物理的というより、精神的にくるもののためどうにもできない。

 どうにかしてその嫌がらせ思考を逸らせないか。そう願っている最中だった。

 進んでいるにつれ、通路の空間が広くなってきた頃だ。柱同士の感覚が広まり、天高くある頭上には巨大な鍾乳石が幾つもこちらを見下ろしている。そんな物には目もくれず、先頭を歩いていたクロトが突如前方を向いたまま足を止める。後ろにも止まる様に促し、二人も前方に目を向けて止まる。

 何故止まったのか。クロトは前方を凝視し、その眼差しは警戒心を滲ませている。 

 何に警戒しているのか。そう思い数秒後。前方からこちらにへと向かってくる人影はようやく確認できた。

 数は2人。奥からは他愛なく会話する2人の声が空洞に響いてくる。近づくにつれ、その容姿もはっきりとしてきた。


「でさ~、ヘイオス~。この前教えてもらってさ~。すっごく美味しいって! 今度行ってみようよ~♪」


「……時間があればな。一応、忙しい立場だと思うんだが?」


 歳はクロトに近いだろうか。元気にねだる女性は長い灰色の髪をひとつにまとめ、動くたびに揺れ動かす。ボリューミーな髪束と、少し目が向いてしまったのは彼女の身なりにあった。

 年頃の少女だというのに、上半身は肌を多く晒しており、最低限布地を纏っているという様子。ネアですら大胆な身なりであったが、明らかに露出なら目の前の方が勝っている。

 うって変わって、隣を歩むのは高身長な黒衣のローブを纏う男性。少し長い群青の髪をこちらも小さくまとめ、会話中よく横長の眼鏡に指を添えている。

 落ち着いた様子で少女のおねだりを穏便に流してゆく。しかし、断られるかと少女も何度もねだる。腕をぐいぐいと引かれるも、男性は「うんうん」と聞いているようで聞き流している様子。

 そんな2人がこちらに気付いたのは粗方話のテンションが上がり始めた頃合いだった。

 ようやくクロトたちを認識した2人は、不思議と目を丸くしている。まさかこの場に人がいるなど思いもしなかったのだろう。それはこちらも同じだ。

 

「……あれ? ヘイオスー。人がいるよ?」


「観光……というわけではなさそうだな」


 確かに、遺跡関係ならその可能性はあっただろう。しかし、そう思うのは不自然でもあった。

 何故なら、此処はあの隔離された街の範囲内。なら、余所者が早々立ち入るわけがないからだ。そして、街の住人が今もいたなら、それを許すはずもない。

 その状況をふまえ、目の前の2人は何故この場所にいるのか。

 本来の入り口は完全に塞がれていた。こちらと同じように別の道から入った可能性もあるが、いったいなんの要件があってこの地に来たのか。

 ……いや。それよりも不自然なことがある。むしろ、あり得ないことだ。


 ――コイツら……、あのウィルオーウィプスの結界をどうやって突破した?


 この場に至るには、ウィルオーウィプスの結界を突破しなければならない。

 不可解な事が目の前の人物2人に警戒を示してしまう。その横で、クロトはエリーの少し疑念を抱いた表情に気付く。

 

「……なんか感じたか?」

 

 クロトは小声でエリーに問いかける。

 エリーは小首を傾けた。


「なんと言いますか……、2人だけなのかな~っと思って。()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 エリーは目の前にいるのが2人だけなことに不思議と違和感を抱いていた。まるで、本当は他にも誰かいたと感じていたかの様子。

 この空洞で音が反響する分、複数人の声が予想の人数を間違えた可能性もあった。だが、エリーの勘は当たる事がある。特に、()()()()()()()()()に対して。

 その発言につられてか、ニーズヘッグも少しばかり違和感を得ていた。


『姫君の言葉……なんつーかわかる気がするんだよな。……アイツら、――本当に2人だけか?』


 ニーズヘッグも何かを感じたようだ。そこまで意見が出れば、クロトの警戒心は更に強まる。

 最初に何故人間の2人を警戒したのか。それは身に染みついてきたクロトの経験からくる直感というものなのだろう。目の前の2人は、ただの人間ではない。そう無意識に感じてしまったからだ。

 お互い間のあるまま、どちらも相手を観察するようにする。ヘイオスと呼ばれた男性がクロトと、続けて隣のエリーにへと視線を寄せる。

 間を開けて、彼は眼鏡をくいっと上げてから何かを察した様子で細かなため息に似た呼吸をとる。

 

「……なるほど。どうやら、予定外の遭遇というわけか」


「え? なに? ヘイオス知ってんの?」


「私も本人を見るのは初めてだ。……そこの少年は、炎蛇の使い手か」


 当てる様に、ヘイオスはクロト示す。

 ゾクリと内臓に寒気が走る。まだ何もしておらず、ましてや魔銃すら出していないというのに、ヘイオスはクロトのことを炎蛇の使い手と言い当てた。

 まるで、クロトがニーズヘッグと契約していることを知っている様子。

 言い返す間もなく、続けて少女が驚いた様子でクロトを見る。


「ええ!? マジでヘイオス!? うそー、あたし信じられないんだけど? でもヘイオスってこういう時嘘言わないから、そうなんだよねぇ」


 少女も何かしら事情を知っているようだ。

 いったい何なのか。この2人は何者なのか。そう苛立ちながらいれば、更に彼らの発言には耳を疑う。


「やっぱ帰りは楽しなくてよかったじゃん。おかげで目標更に達成! えへへ、感謝してもいいよ~」


「そうだな、――オリガ」


 ヘイオスは向けられたオリガの頭を撫でてやる。

 

「それに、魔銃使いだけではない。あの方の()()もいるのは好都合だ」


 2人だけで話を進めていく間に、何度も悪寒が身を這いまわって不快感が増す。

 クロトはとうとう我慢ができず、2人の会話に割り込んだ。


「何を言っているお前ら……っ。さっきから……なんでお前らが俺たちのことを……!?」


 疑問がある。普通なら知り得ない情報を彼らは知っている。 

 クロトの疑問に答えようと、ヘイオスが語りだそうとする。


「……それは」


「――それは君があの人の子を連れているからだよ、()()()()()


 ヘイオスの説明に割ってオリガが言い放つ。オリガはクロトのことを不死身であることですら承知していた。

 更に、自分のことだけでなく、その言葉は隣にも言っている様。

 いや……そうなのだろう。この2人は知っているのだ。

 エリーの素性を。どういう存在なのかを。


「あの人の…………子……?」


 クロトとエリーは互いを見合う。

 困惑するエリー。その親はという立ち位置を示すのはこの場合、クレイディアント王妃ではない。

 脳裏に魔女の姿がよぎる。

 

「単刀直入に言うよ不死身くん! キミとその厄災の子にはあたしたちすんごく用があってね。一緒に来てほしいの」


 強気とオリガは話を進めてゆく。

 しかし、いくら何でも急な話についてゆけない。


「……オリガ。いくら何でも説明を飛ばしすぎだ。彼らも混乱する……」


「え~。……あ! じゃあ、手っ取り早くこれでわかってくれないかな?」


 笑みを浮かべ、オリガは左袖に隠れていた腕輪にへと手を伸ばす。

 紅色の腕輪を振るう様に抜くと、腕輪は瞬時に形状変える。その姿は棒状であり先端は二股に別れ、杖というよりは槍にも見える。まるで、真っ赤な珊瑚を槍にへと変えた武器。鋭利な刃は見当たらないが、異質な雰囲気を漂わせてはいた。

 いい例を出すなら、クロト自身も所持している。


 ――魔武器……!?


 クロトもニーズヘッグも彼女の手にする武器がそうであると勘付く。

 オリガはこちらの動揺など見向きもせず、くるりと一振り槍を回し地にへと槍を突き立てる。


「おいオリガ。初手で過激なのは……」


 苦言を告げようとするも、オリガはヘイオスの言い分など聞こえず。


「ほいじゃあいっくよー!」


 と、明るく叫んだ。

 オリガは突き立てた槍の柄を両手で強く握りしめ、そして唱える。



「――深きそこに眠りし()()よ……」



 唱えるその言葉に、ニーズヘッグが息を詰まらせ目を見開く。

 

『ヤバい!? ――クロト、逃げろ!!』


 水にひたるような冷たさが大気に充満してゆく。

 頭上の鍾乳石から滴り落ちる水が機動を変え。地に溜まる水滴がうごめき。それらは唱え続けるオリガを中心に渦巻き始める。


「――其は鬼水。荒れ狂う大波となりて我が敵を――【呑み込め! ルサルカ】!!」」


 わずかに浮いた槍の先端が、再度地を付く。

 波紋を広げ、その合図はこの場では想像もできない事態を引き起こした。

 地鳴りと共に、奥から何かが迫ってくる気配。オリガの後方から現れたのは、空洞を占領するような大津波だ。

 津波は周囲を巻き込みつつ、一直線にクロトたちにへと襲い掛かる。

『やくまがⅡ 次回予告』


クロト

「また新キャラ出てきやがったか。なんだよ2期は? 眼鏡キャラが増えるシステムか??」


ユーロ

「やめてください魔銃使いさん。確かに私は頼りないですしお役に立てないかもしれないですけど、眼鏡に罪はありませんっ。これは私が眼鏡が必要なだけであって、眼鏡は協力者のようなもの。私が必要としなければ……、眼鏡がこのように言われる事もないというのに……!」


クロト

「その無駄な眼鏡擁護なんだよ? べつに俺は眼鏡を批判してんじゃねくて、眼鏡属性を持ったキャラが今回連続で増えてることに不満があるだけなんだよ」


ユーロ

「くっ……。申し訳ありません! 私が眼鏡をかけていなければ、連続で眼鏡を利用されているキャラが登場することもなかったのに……っ」


クロト

「だからなんで無駄に擁護してんだよ?」


ユーロ

「きっとあの方も眼鏡がどうしても必要な深い事情があるやもしれないんです。私はただ視力が人並よりも低いため……それさえなければ……っ」


クロト

「へたれ眼鏡がなんか言ってんですけどー。じゃあ、もうコンタクトにしろよ。そうすれば何もかも解決だろうが」


ユーロ

「それは困ります。私、目になにか物を入れるのは抵抗ありますし、私から眼鏡を取ると、それは私ではない気もしますし」


クロト

「じゃあもう変な擁護やめろよ!!」


ユーロ

「次回、【厄災の姫と魔銃使いⅡ】第一部 四章「冥界使者と水霊鬼」。ですので、私が悪いだけで眼鏡に罪は……」


クロト

「最初に戻ってんじゃねーぞ! 眼鏡にでも取り付かれてんのかお前!?」


ユーロ

「やめてください魔銃使いさん。眼鏡壊そうとしないでください!」

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