★【序章】
魔女との因縁を終え、クロトはエリーの【呪い】を解除するため新たな旅にへ……。
最初に目を付けたのは魔女が利用していたと考えられる魔武器を製造した場所。魔女の工房。
手掛かりを追う最中、二人はユーロという青年に出会い辿り着けない街の存在を知る。
そこは、魔女が生まれ育った街。
【呪い】には未だ世界の謎とされている自然物の一種【聖杯】が関与しているらしく……。
その1つが最寄りにあると向かった矢先、そこで遭遇したのは二人の魔武器所有者。
彼らの目的。それは【聖杯】の破壊と、魔女の作り出した7つの魔武器所有者。そして【厄災の姫】。
「それでは、――両者の捕獲を開始する」
魔女の遺産である7つの魔武器。
7体の大悪魔たち。
新たな戦いの幕が上がる。
【厄災の姫と魔銃使い Ⅱ】魔女の遺産編 開幕
――まだ…………キミの【願い】は叶っていない…………。
ぼんやりとする思考に、そんな言葉が囁かれた。
直後、泡のように消えていく声と共に少女はゆっくりと瞼を開く。
その瞳は、まるで夜空に散らばる煌めく星々を宿したもの。この世のモノとは思えない、美しい星の瞳。
しかし、それは美しくもあり、恐ろしい【呪い】をその身に宿す証。
いずれこの世に終焉をもたらすと予言された――【厄災の姫】の一番の特徴である。
【厄災の姫】。中央に位置する大国の元姫である――エリシア・クレイディアント。
今は名を――エリーと呼ばれ、その【呪い】を抱え生きる。
エリーは視界が安定すると、眼を丸くさせて左右を見渡す。
「…………此処は……?」
周囲にあるのは、地平線の境目すら見えない黒い空間。夜闇とは違い、ただ何もないというものだ。そのためか、恐ろしいという感覚はなかった。
手を前に出し、そーっと足を進ませる。見えないだけで、実は何かがあるやもしれないと、そう思ったからだ。
その考えは当たっていたらしく、前方で手が何かに触れた。
「……?」
首を傾け、触れるものを両手で確かめる。
「壁……?」
硬いなにかであること。温かさも、冷たさもない。壁のようなものがそこにはあった。
しかし、肉眼でそれを確認することはできない。
透明なのか、実は壁ではないのか。それすらも不明だ。
「……」
今度は体を近づける。
壁に耳を当てる様に、その奥がどうなっているのかを今度は聴覚で確認しようとした。
――…………
無音としており、なにも感じ取れない。
何もないのか。そう思って耳をその壁から離そうとした時。
遠くから。壁の奥から何かが迫ってくる音が聞こえ…………。
壁を挟んで、それらは間近で少女の耳を襲う。
「――!?」
エリーは、驚いて壁から突き放すように後退した。
離れる直前に聞こえてきたのは、幾多もの声。うめく様な、苦しむ様な……。怨嗟の声が酷い重みとなって迫ってきた。
心臓が今でも鼓動を早め、恐怖に呼吸が乱れる。
壁から離れても、それらの声はわずかに壁の奥から漏れて聞こえてきていた。
「……っ、何……? 今の……」
改めて、壁の方を見る。
下から上へ。そして、壁は視界でぼんやりとその姿を現した。
しかし、わかるのは自分よりも巨大な何かであるということ。
色もはっきりしておらず、全体図すらもわからず、結局は壁という認識でしかない。
まるで、何かを包み込んでいるような……、そんな壁だった。
圧倒的な巨大さに意識を奪われるも、耳には壁の奥からの声が届き我に返る。声は、ただ怨嗟の様なものだけでなく、どこかこちらを手招きする様な意思を感じた。
――おいで。おいで。
そんな誘われ方をされるも、不信感と嫌悪感でエリーは後退り息を飲む。
「……私を…………呼んでいるの……?」
今はまだ壁でそれらとの境界ができている。だが、それでも不安はあった。
いつかこの壁が壊れ、その奥に引きずり込まれるのではないかと……。
もし……。
もしも、本当にそんなことになれば、今の自分はいったい……どうなってしまうのだろうか?