01 はぁ、なんてこと!
エリー目線
客間からはリジーの声が聞こえる。笑い声も。二人で楽しそうに過ごしている。
これから起きることはわかっている。ノックをしても誰も答えない。しばらく待ってもう一度ノックをするとリジーの侍女がドアを開ける。彼女はわたくしを見るとおおげさにため息をつく。お邪魔虫が来た!と態度で示す。そしてわたくしがなかに入れるように一歩下がってドアを広く開ける。侍女の顔には嘲りの笑みが浮かんでいる。
「あら、お姉さま。遅かったですわね」とリジーが声を出し、王太子殿下が咎めるような顔をでわたくしを見る。わかりますよ。迷惑だって・・・よーーく理解ってます。
殿下の侍従が気の毒そうにわたくしを見る。
殿下がうちを訪れる度に繰り返されれば、覚えるよね。
最初のうちはリジーが先に部屋にいる事を注意したりもした。だけどリジーが母に泣きつくのだ。苛められたと・・・
母は社交という名のおしゃべり会が大好きだ。だから、いつも家にいない。いたとしてもリジーがやる事は全て正しい。母にとっては・・・
母がいなくとも執事も侍女長もいるから殿下のおもてなしはきちんと出来る。
だが、婚約者のわたくし、エリーと王太子殿下の交流は全くできない。
交流はなくともわたくしは王宮にあがって勉強をしている。勉強が終わるとすぐに帰るので殿下と会うのは家でだけだ。侍女は全員、侍女長も含めてリジーと殿下が交流できるように動く。
母はわたくしではなく、リジーを婚約者にしたいのだ。わたくしも賛成だ。
だから後押しをする。
部屋をノックした。返事を待たずにすぐに開けた。
◇◇◇
王太子の侍従目線
令嬢のエリー様が部屋に入って来た時
「お姉さま、遅かったですね」とリジー様が嘲るように言った。いつものことだ。
だが、予想外のことに驚いた我々は
「エリー!」と殿下が大声を出した。
「お嬢様!」と侍女が驚いた。
「それは・・・まさか・・・」とわたしも声を抑えられなかった。
エリー様とリジー様はびっくりして顔を見合わせたが、なにも言わなかった。
エリー様はなにごともなかったように
「遅くなりまして」とカーテシーをした。
エリー様の頭の上に文字が次々に出てくる。
【侍女が誰も教えてくれないので、知りようがないのですよ。それに今日は予定より早く参りました。・・・わたくしが邪魔だとわかっているからすぐに退散しますからね】
最初の行はこの部屋に入った時にすでに読める状態で、
【不愉快な事は早く終わらせたいわ】だった。
今回はエリー・ハーバー公爵令嬢なのか・・・
この国はたまに妖精のいたずらで、その人の心の声?妖精のつっこみ?が頭の上に表示される。
この文章は残念ながら家族には見えない。つまり、リジー様は見えない。侍女は見える。
ちなみにここに書かれた事は、妖精がやった事なので、その人は一切罪にとらわれない。
前に高貴な方の猫の上にそれが表示された時は大騒ぎになった。
よかれとおもって用意した綺麗なクッションは刺繍が邪魔で嫌で、子猫の頃から世話していた庭師の使い古しの毛布が大好きだとか・・・
猫のお世話の仕方が大きく変わったのだ。
令嬢はカーテシーをなさると
「わたくし、能力が足りませんのでまだ勉強が終わりませんの、幸いリジーはおもてなしに長けております。リジーいつも頼ってごめんなさいね。ほんとうに申し訳ありません。それでは殿下失礼します」と言うと
【母と侍女長、侍女が総出で、二人を後押しをしてるのよ。殿下喜んでね】と書き込まれた心なしか字が太い。
令嬢は部屋を出て言った。侍女は蒼白だ。
「エディ、お姉さまって本当に駄目よね」とリジー様がのんきに言った。
「リジーはいつも平和だね」と殿下が相槌を打った。他に言いようがないよな!
「急用が出来たから今日は帰る」と殿下は腰をあげられた。顔色が悪い。エリー様の本音が怖すぎる。
「えぇ。エディ!もう帰るの?」とリジー嬢が言った。
ここで帰っても、残っても結果は同じ、救いはない。
◇◇◇王太子目線
次の夜会でエリーとの婚約を正式に発表するつもりだったのだが、エリーの本音が・・・
妖精のいたずらがなければ、無事に発表出来たのに・・・わたしの気持ちはエリーにあるんだ。リジーがいない所で心を込めて謝罪すれば、気持ちをわかって貰えるだろうが・・・
夜会は外国からの客も来る。誤魔化せない。あの本音を世界に見せるなんて・・・
いつも優しく微笑むエリーだから、リジーとの戯れを認めて受け止めてくれていると思っていたんだ。甘えていたんだ。
今からどうしようもない。リジーに甘えられるのを楽しんだつけは大きい。
わたしがしてあげられることは、なにもない。
エリーと過ごす幸せな未来を諦めることだけだ・・・
そして、我が王室は世界にバカを晒すってことだ。
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