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29話 審議会 決着

「ソフィア。これ……」

 ソフィアの手に同意書が握られていた。

 私は拾った紙を渡し、自分が感じた違和感を話した。それを聞いて、ソフィアが抱き締めてきた。

「リリーシア、ありがとう。天才」

「ソフィア。頑張って」

「大丈夫。これで決めるわ」

 ソフィアは力強い目で、ベクター弁護士を見た。


「ベクター弁護士。先程、同意書などのサインは『複写紙で書かれた』とお認めになりましたね」

「あぁ、そうですね」

「では、この二つの証拠品をご覧下さい」

 ソフィアは同意書と、先程拾った紙を提示した。

「複写紙を押さえた時に出来た黒い汚れの位置に注目して下さい。私が書いたものは左側にあります。そして、同意書は上にあります。おかしいと思いませんか?右利きの伯爵夫人が書いたのなら、私が書いたように左側に汚れがつきます。なら、なぜか上に汚れがあるのか。それは、同意書にサインした人間は左利きだからです」

「っ!」

 ベクター弁護士が息を呑むのがわかった。

 そして、左手で書く動作と右手で書く動作を何度か行った。

「左利きだったと断定するのは早計です。右利きでも上を押さえて書くことは可能です」

 ベクター弁護士は不敵に笑って見せた。

「もう一つ、注目してほしい箇所かあります。サインの周りの汚れです。薄くですが、汚れていることがわかります。これはサインを書く際に手を滑らせたために汚れたものです。右手で書いた場合、サインの書き始めより後につきます。しかし、同意書はサインの書き始めより前から汚れが着いています。そして、書き終わりには汚れがない。これは左利きの人物が書いたと証明出来ます」

「言い掛かりだ!何かの拍子に汚れがついた場合もある」

「では、最後の証拠です。そちらが用意した『宝石商で紙に何か書く女性』の映像を転写した物をご覧ください。不鮮明であっても、書く手が左手だとわかります」

「なっ!!??」

 ベクター弁護士は慌てて転写した紙を見た。

「請求書も、同意書と同じ汚れがついています。同意書が左利きの人物によって書かれたと言えます。同意書は伯爵夫人が書いたものではなく、偽造されたものとなります。偽造された同意書で作られた親子鑑定書は信憑性に欠けるため、証拠品としての効力はありません。そちらがまだ伯爵夫人の不貞を主張するならば、新たに伯爵と赤子の親子鑑定を求めます」

「~っ!」

 ベクター弁護士は悔しそうに顔を歪めるが、言葉が見つからないようで、顔を真っ赤にしている。

 これで、決着がついたわね。


「フィート弁護士」

 今まで黙っていたエドワードが声をかけてきた。やはり、何を考えているかわからない顔だ。

「何でしょう」

「貴女の弁護はとても素晴らしいものだった。こちらが準備した証拠が、全て偽造された、偽造の疑いが強いものと判明し、正直驚いている」

「……」

「貴女なら、私の持つ疑念に答えを示してくれるかもしれない。話を聞いてほしい」

「わかりました」


 エドワードは息を整えて、私を見た。

「出産の約3ヶ月前、私は執務室から彼女と黒髪の男が首に腕を絡めてキスするところを見た。急いで現場に向かうと二人の姿はなく、代わりに、先程から話に出ている宝石店で購入されたペアネックレスの片割れを発見した。彼女の専属侍女のイモージェンに話を聞くと、二人は私が居ない隙に逢瀬を重ね、愛の証としてこっそりペアネックレスを身に着けていたと話してくれた。執事のモーリスも二人がキスをしたり、物陰で男女の営みをしていたと報告してくれた。さらに、彼女が男に貢ぐために高価な宝石を購入しては、モーリスに換金を言いつけていたと」

「そんなことしてないわ!」

 エドワードの口からとんでもないことを言われ、思わず大声で否定した。


「……品位保持の為に割り当てた予算のほとんどを、宝石や高価な皿を購入するために利用したと、帳簿に記載があった。また、宝物庫に保管していた宝石類も数点なくなっている。フィート弁護士。私は真実が知りたい。力を貸してほしい」

 エドワードはまっすぐソフィアを見た。

 真実が知りたい。それは彼の本心だと思えた。


「わかりました。まず、宝石類が失くなったこと、伯爵夫人が男に貢ぐために浪費したこと。これらについては調査をしないとわかりません。この場合、窃盗事件、横領事件として騎士団に相談することをおすすめします。ただ、伯爵が目撃した『夫人と黒髪の男が首に腕を絡めてキスするところを見た』について、反論出来る証拠を持っています」  

「見せてくれ」

 ソフィアは鞄から黒い小さな箱を取り出し、カチッとボタンを押す。すると何もない空間に映像が浮かび上がった。

「こちらはハーバイン商会で取り扱っている最新型の録画用水晶です。短時間ですが、録画と再生が出来ます」


『ずいぶん用意周到じゃないか』

 オーウェンさんの声だ。

 奥に映る、馬に乗る騎士も見覚えがある。

 ローゼンタール伯爵家の騎士の制服を着ているから、え~……と。


「これは、教会から王宮に向かう馬車の中で録画したものです。何故か、ローゼンタール伯爵家の馬車と伯爵家の副騎士団長のジョイ・ニードルと、見覚えのないローゼンタール伯爵家の騎士団の制服を着た男達が迎えに来ました」


『こんな特殊素材の馬車を用意し、崖から川に落とすなんて計画、お前だけで考えたとは思えない。誰の差し金なんだ?』


「この会話にあるように、ジョイ副騎士団長は夫人とオーウェンを殺そうとしています」

「なんだと!!」

 エドワードの驚いた声が響いた。

「怪我はないのか?!ここに来る前の出来事なのだろう?大丈夫なのか?」

 心配するような顔で話しかけてくる。

 学院時代によく見ていた表情だ……。

 胸がチクリとする。

 こんなことで動揺してどうするのよ。


「問題ありません」

 毅然とした声を心がけた。


「この殺人計画を練った犯人は、この中に居ます。続きをどうぞ」

 そういって、ソフィアは録画映像を流した。


『そんなの決まってるじゃないか。イザベラ奥様だよ』

 全員の視線がイザベラお義母様にむいた。

「ちっ、ちが……」


『どんなに屈強な男でも、あの崖から落ちたら死ぬって言ってたよ。あの口ぶりは、事故に見せかけて何回か殺してるな』


「屈強な男……。まさか……」

 エドワードの目の色が変わった気がした。

「ローゼンタール伯爵。その件は今の話し合いと関係ないので、後程対処してください。続きを流します」

 

『まぁ、今回の発案者はイモージェンらしいがな。何でも、髪を好きな色に染められる魔法スクロールを偶然手に入れることが出来たらしく、産まれた赤子の髪を黒色にすれば、その女を浮気者として排除出来るって計画だ』

 エドワードの視線がイモージェンに移った。

 イモージェンは下を向き、ガタガタ震えていた。 


 その後、ジョイ副騎士団長の自白映像が続き、エドワードが知りたがっていた『私と黒髪の男が首に腕を絡めてキスするのを見た』と言っていたことも、ジョイ副騎士団長とイモージェンが変装してエドワードを騙したことがわかった。


「……」

 エドワードは目線を落とし、両手を強く握っている。

 しばらくの間、誰も何もしゃべれなかった。


 コンコン。

 ドアをノックする音が響いた。 

「オーウェンです。入室よろしいですか」

「どうぞ」

 ソフィアが答えた。


「失礼します」

 オーウェンさんと白く光沢のある騎士服を着た男性が入室した。

「ジョイ・ニードルの自供した内容の報告書をお持ちしました。また、ローゼンタール伯爵家に強制捜査を行いますので、受諾書にサインをいただくのと、身柄を一時お預かり致します」

 白い制服の騎士が告げた。

「ちょっと待ちなさい!強制捜査?!」

 イザベラお義母様が慌てて立ち上がった。

「たかが一騎士の戯言を受けて、我がローゼンタール伯爵家を愚弄するとは許せません!エドワード、受諾書にサインする必要はありません。気分が悪いわ。わたくしは屋敷に戻らせて頂きます。イモージェン、行くわよ」

 イザベラお義母様は部屋を出ようとするが、白い制服の騎士が立ちはだかった。そして、彼女の前に紙を突き出した。


「イザベラ前伯爵夫人。貴女には『王室侮辱罪』『ナイジェル前伯爵殺害容疑』『リリーシア伯爵夫人殺害未遂罪』『親子鑑定書不正作成補佐罪』で逮捕状が出ています。大人しく付いてくるならば貴族専用の取調室へ御案内出来ますが、抵抗すれば執行妨害として地下牢に連行します」

「ちっ、地下牢?!わっ、わたくしは何もしていないわ!何かの陰謀よ!」

「それを証明するためにも、取調室へご同行願います」

「いやよ!わたくしは何処にも行かないわ!わたくしを連れて行くというのなら、ベルジュ公爵家が黙ってないわよ!」

「ご安心下さい。近い内にお会いできますよ。同じ取調室で。さっ、ご同行を」

「どっ、どういうこと……。エドワード。エドワード!わたくしを助けなさい!わたくしはお前の母なのだから、母が困っているときにお前が盾とならずに何をしているの!エドワード!!」

 彼女の金切り声が響くが、エドワードは立ち上がらず、「潔白ならば、堂々と取調室へ向かって下さい」と冷たい視線を向けた。


「この失敗作が!貴方など、産むのではなかったわ!立派な騎士にもなれず、軟弱な恥知らず。女に騙される愚鈍な男。ローゼンタール伯爵家の恥さらし!ナイジェル様を引き留めることも出来なかった失敗作め!こんなことなら、あの女の子供を奪って調教すれば良かったわ!この役立たずが!!」

「お止めください!!」

 あまりの罵倒に、私は立ち上がってしまった。

 

 

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