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13話 それぞれの動き6(ソフィア視点)

 私は先ほど渡された地図を頼りに、地下道をオーウェンと歩いている。

「ここね。オーウェン」

「わかってる」

 手紙で何度かやり取りをしているから、問題はないと思っているが、自分の目で見て判断した相手ではないので、やはり警戒心が出てしまう。

 オーウェンもいつでも戦闘出来るよう、隙がない。

 指定された場所に『☆』が描かれた扉がある。

 その扉を五回叩き「星の導きに問う」と声をかけた。

 すると中から「ユリの花は美しい」と返ってきた。手紙の通りだ。

 そして扉が開いた。

「ようこそ、ソフィア・フィート様。オーウェン様。中にお入りください」

 細目の男がドアから現れた。

 この男が、チェスター・ハーバインね。

 ハーバイン商会の商会長であり、リリーシアの兄の嫁の兄。

 まるで仮面のような笑顔だと思った。

 こちらが警戒するように、あちらも警戒しているのだとわかる。


 部屋の更に奥の部屋に入ると、二人の男女が座っていた。

 男性は金髪で緑の瞳だ。どことなくリリーシアに似ていると思えた。

 隣の女性は茶髪に茶色い瞳。私の髪よりは長い。

「はじめまして。ブライアン・ブロリーンです。こちらは妻のマディヤです」

 女性は軽く頭を下げた。

「ソフィア・フィートです。こちらはオーウェンです。リリーシア夫人の護衛をしていた者です」

 オーウェンも軽く頭を下げた。

「自己紹介はその辺にして、まず座って話しましょう。申し遅れました。私はチェスター・ハーバイン。この度は私の呼びかけに集まっていただきありがとうございます。ここでひとつ提案を。初対面の場ではありますが、腹をわって話したいので、敬語はなし、互いの名前はさんづけ、でいかがでしょうか?」

「俺たちはかまわない」

 ブロリーン夫妻は小さく頷いた。

「私たちもかまわないわ。ね、オーウェン」

「あぁ」

「では、全員承諾したと言うことで、話を進めよう。それではお互いの持っているカードを見せ合おう。まず、私から」

 チェスターは、リリーシアが追い出された日のことから話し始めた。ローゼンタール伯爵家から、各商会にリリーシア夫人と護衛騎士オーウェンに商品販売や、サービスの提供を行わないように通達が入ったらしい。その後、王都商会組合からも同じ指示が回ってきて、ハーバイン商会は親戚だから指示を無視する可能性があると、組合から監視がつけられているそうだ。

「まぁ、抜け道くらい、いくらでもあるからな。私を監視するのは難しいだろう」

 感情の読めない笑顔だ。

 実に商人らしい人ね。

「だが、ソフィアさんの機転がなければ、我々はこうして会えなかっただろう」

「ハーバイン商会で『魔法のインク』を購入したからよ」


 あの日、ハーバイン商会を出ようとしたときに、私はこの『魔法のインク』を見つけたのだ。

 その名を『文字が消えるインク』だ。

 原理はわからないが、特殊なインクを利用していて、専用の消しゴムで擦ると消えるものだ。

 少し前の話だが、このインクでメモに文字を書いて、温かい弁当の上に置いていたら文字が消えたのだ。熱で消えると噂で聞いていたが、本当なんだ~と驚いたのを覚えている。

 そして、その話には続きがある。

 熱で消えるなら、冷ましたらよみがえるのか実験したら、見事によみがえったのだ。

 この現象を利用して、ハーバイン商会長と連絡をとれないかリリーシアと相談し、幼い頃一緒に遊んだ『かくれんぼ』の話や、『寒くなると記憶がよみがえる』と何気ない文書を手紙で伝えた。

 そして差出人を、私が信頼する冒険者ギルド長の娘にさせてもらった。あとは、宛名を『チェスター・ハーバイン商会長様☆』と封筒に書けば、チェスターがその手紙をリリーシアからだとわかり、秘密裏に連絡が取れたと言うことだ。

 余談だが、リリーシアは幼い頃からチェスターと交流があり、第二の兄として慕っていたそうだ。ただ、幼い子に『チェスター』は言い辛く、彼女は『スターお兄様』と呼んでいたそうだ。封筒に『☆』を書くことで、誰にもわからない二人だけの暗号となったのだ。


「この日記を見てくれ。これは監視の目を盗んで、ブライアンが伯爵家に潜り込ませていたテイラーという掃除婦を使って入手した、リリーちゃんの日記だ。生真面目なリリーちゃんは毎日欠かさず日記を書いていて、何日に誰に会った。どこに行った。何を買ったと、細々と書いてあった。そこで、彼女の日記をもとに裏取り調査を進めた結果だ」

 チェスターは日記の横に調査報告書を置いた。

「見ても良いかしら?」

「もちろんだ」

 私は日記と報告をざっと見た。

 とても見易い報告書だ。

「凄いわ。この報告書と日記があれば『異議申立審議会要請』の手続きを出せるわ。なるほど、相手の証拠が7/13に片寄っていたのは、リリーシアが町に出たのがその日だけだったのね。ふ~ん、ツワリが酷かったのか……。7/13にリリーシアが参加したお茶会の主催者に一筆書いてもらえれば――」

「それが……」

「どうしたの?」

「主催者の子爵令嬢が証言を覆した。当初はリリーちゃんを招待し、新婚生活の惚気話を聞かされて、参加した令嬢達と盛り上がり、最後まで参加していたと言っていたが、最近になってリリーちゃんは顔を出して直ぐに帰ったと言い出したんだ。証言書も書かないと言われ、その後は連絡を断られている」

「……脅しが入ったってことね」

「おそらく」

 黒幕の動きが速い……。

 本当、厄介ね。


「ちょっと良いかしら?」

 チェスターとの会話に妹のマディヤが割り込んだ。

「7/13と限定しているけど、何かあるの?」

「あぁ、そうよね。じゃぁ、次は私の話を聞いて」

 それから私は、伯爵が宮内国政機関に提出した婚姻無効申請に添えられた証拠の話、親子鑑定書が不正作成されている話をした。


「これが偽造された同意書よ。リリーシアに確認を取ったけど、不気味なくらい自分のサインに似ているといってたわ」

「確かにリリーシアのサインにそっくりだ」

 兄のブライアンも驚いている。

「ねぇ、何か変じゃない。この文字」

 マディヤが文字を指差した。

 言われてみると、文字が極端に細い。

「それに、紙にインク汚れも多いわ。……ねぇ、この同意書をしばらく預かることは出来る?」

「ごめんなさい。これを研究所から預かるとき、師匠に一筆書いてもらったから、又貸しは出来ないわ」

「そうなのね……。じゃ、近いうちにまた会えないかしら?確認したいことがあるの」

「「確認?」」

 マディヤの言葉に全員が首をかしげた。

「偽造サインのからくりを証明出来るかも知れないわ」

「えぇ?!」

 そんなことができるの?!

「本当かマディヤ?!」

 ブライアンが言った。

「それには兄さんの協力が必要よ」

「まずはピエール・バシュが、それをどこで買ったかを突き止め、同じ商品を手にいれろってことだろう?本当、兄使いが荒いな」

「よろしくね、兄さん」

 マディヤの有無を言わせぬ笑顔に、チェスターは軽くため息を吐いて「わかった。どうにかする」と言った。


「ねぇ、それって何なの?」

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