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約束

桜乃さんに本を貸してから5日が経った。登校して自分の席につくとどこか興奮を抑えられない様子の桜乃さんが俺に近づいてきた。そして周りを気にしながらも勢いよく話しかけてきた。


「あ、彩峰君!このファンタジー作品なに?!読んだ瞬間前のページ捲って伏線確認しちゃったよ…そ、そのせいでよちょっと返すと遅れちゃったけど…」

「ううん。全然いいよ。それにこうなることは分かってたからね」


俺がそう言うと彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「そ、そうなんだ…そ、それでこの作者さんの本ってまだあったりする?」


桜乃さんはモジモジしながそう聞いてきた。そうだよね!面白い作品を見ちゃったらその作者さんの他の作品も気になるよね!


「そう来ると思って…」


そう言いながら俺はカバンの中に手を入れて目的の物を探る。そしてそれを掴むと彼女の前に差し出す。


「特に面白いと感じたこの作者さんの本を選んできたよ」

「こ、ここまでよんでいたの…?」


衝撃!といったふうなリアクションを取る桜乃さんに思わず笑ってしまいそうになる。というか笑ってしまった。それを桜乃さんに見られていた。


「ひ、人が悪いよ…」


細いフレームの丸ぶち眼鏡をかけた彼女は恥ずかしそうに肩をすぼめながらそう言った。


「ご、ごめん…ふふふ…」

「も、もう…」


あぁ、楽しいな。まるで昔の優里と話しているような気がする。


「はい、これ」


俺はそう言って持っていた本を桜乃さんに手渡した。


「あ…か、借りてもいいかな…」


桜乃さんは申し訳なさそうにそう言った。


「うん。全然いいよ。面白い作品は沢山の人に知ってもらいたいからね」


そう言うと桜乃さんは俺の手から小説を受け取った。その顔は嬉しさを我慢しているような表情だった。


「あ、そういえば…」

「どうかしたの?」

「あ、うん。多分最近この本の作者さんが新しい本を出したばっかりだったような気がして…」


前本屋の前を通り過ぎた時に見たような気がする。今かなり気になっている1作品だ。


「そうなの?」

「うん。気になるな…」


それは何気なく放った言葉だった。独り言のような呟き。


「…じゃ、じゃあ私と一緒に買いに行かない?」

「…え?」


一瞬何を言われたのか分からなかった。


「や、やっぱり私となんて行きたくないよね!ご、ごめんね変なこと言っ…」

「い、いつにする?」


心臓がバクバクと音を鳴らしている。心臓の鼓動が目の前にいる桜乃さんに聞こえてしまうのではないかと思うほどにうるさい。


「っ、い、何時でもいいよ!」

「そ、それじゃあ今週の土曜日なんて…ど、どうかな…?」


未だに心臓の鼓動がうるさい。1人で行くのならなんてことのない本屋。だがそれが2人になると訳が違う。それに異性なら尚更だ。


「う、うん。それで大丈夫…」

「そ、そう…」


きっと周りの人たちが俺たちのことを見ているのならさぞかし滑稽に見えるのだろう。お互いがキョドりまくっている。だが俺たち本人は至って真面目なのである。


「どこに集まる?」

「どこにしようかな…」


そこでふと思い出した。ポケットに入っているスマートフォンのことを。このスマホは…別に欲しかったわけじゃない。でもあるものは活用するに越したことはない。


さっきは桜乃さんが勇気を出したんだ。次は俺の番だ。


「れ、連絡先交換して場所決めない?」


言った。言ってしまった。もう後には引けない。


「……」


桜乃さんが黙ってしまった。


「さ、桜乃さん?」


俺は恐る恐る彼女の名前を呼ぶ。


「…はっ!あ、え、れ、連絡先?い、いいよ」


すると彼女は我に返ったかのようにそう言った。


そして俺ちはお互いの連絡先をスマホに登録した。画面には桜乃 陽菜と表示されている。ほんとに交換出来たんだな…他人事のようにそう思った。


「そ、それじゃ…また後でね」

「う、うん…」


そう言って恥ずかしそうに頬を赤らめながら笑う彼女と別れた。


…土曜日が楽しみだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 優里の心情や寛人が本に逃げた原因は分からないが2人の心情がところどころ読めるところがよい。(出来れば寛人と優里がもう一度中学時代のように戻って付き合って欲しいけど) [一言] 陽菜との会話…
[一言] 陽菜っち実は中学時代とんでもねえヤンチャガールだったとかあればいいのに
[気になる点] このシーンを見られてたらもしかしたら? [一言] もう優里のことは眼中にないくらいになってるな これじゃ可哀想なのはお前じゃなく優里ちゃんだぜ
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