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7/10

悲しい

ある日、寛人が桜乃さんに本を貸している所を見てしまった。それはファンタジー作品で私があまり読まないようなジャンルだった。


でも桜乃さんはファンタジー作品も好きだと言う。それだけで寛人の気を引ける。ずるいと思ってしまう。そんなことを思ったせいなのか私の口からは自然と言葉が出ていた。


「私も…」


そのことに瞬時に気づいた私は慌てて口を噤んだ。


「え?優里なんか言った?」


だが隣にいた友達には聞こえてしまっていたらしい。


「…え?あ!いや、えーっと…そう!私も彼氏作って遊園地に遊びに行きたいなーと思って!」


だから私は咄嗟にそう答えた。少し話を聞いていてよかった。


「え!優里彼氏いないの?!優里くらいの可愛さならすぐに彼氏なんてできるよ」


友達にそう言われる。


「そ、そうかな?」

「そうだよー。逆になんで彼氏いないのか不思議だわ」


確かに私に告白をしてくれる人は沢山いる。だけどその全てを断っている。元々、というか本質が陰キャのまま変わっていない私はその一つ一つの告白を断るのにとてつもなく疲弊してしまう。逆上して手を出されるのではないかとつい怖くなってしまう。それでも今まで一度も告白を受けることはなかった。だって


「……彼氏になって欲しい人に振り向いてもらえないからだよ」

「え?」

「ううん。なんでもない」


こんなことをここで言ったって仕方ないのにな。私には寛人と面と向かって言う勇気がまだ持てない。


だがそんなことを言っている場合では無い。本当に何とかしないと…寛人を取られる。嫌だ。きっと私に告白してきてくれる人たちは外面の私を好きになってくれている人たちばっかりだ。固められた殻の中身を好きになってくれた人なんて1人も居ないだろう。それがわかってしまうのだ。だいたいの男の人は目線が胸や足などに注目されている。あまりいい気持ちにはならない。でも寛人はあのなんの飾り気もなかった頃の私と対等に接してくれた。それが本当に嬉しかったんだ。だから私は寛人のことが大好き。…行動しないと。


-------------------------------------------------------


「それでさー」

「あ、あー」


友達と帰っている途中、私は分かりやすく声を上げた。


「ん?優里どうかしたの?」

「そ、それがさ、学校に忘れ物しちゃって…先に帰ってて!」

「あ、優里!行っちゃった…」


嘘だ。本当は忘れ物なんてしてない。今日は寛人が教室掃除の日だ。私はそれを知っている。2人きりで話すことの出来る時間を何とか作るため私は急いで教室へ戻った。友達を騙すことになったのは申し訳ないと思うがもうなりふり構っていられない。


出来るだけ汗をかかないように、それでいて早く教室につくように早歩きをする。


教室の前に着いた私は一度息を整える。そして意を決したように扉を開いた。


開け放たれた教室の中にはせっせと箒を動かす寛人の姿があった。


「…」

「…」


そして当然目が合う。嫌な沈黙が2人を包み込む。まるでこの世界で2人しか居ないようなそんな錯覚をしてしまいそうになる。


何を話そう。何か話さないと。そう思い頭を回転させてみるが何も思い浮かばなかった。そうしているうちに再び寛人は箒を動かしだしてしまった。


「ひ、久しぶり。寛人」


私は何も考得られていないながらもなんとかそう言った。


「あ、ひ、久しぶり…久川さん…」


久川さん。寛人が私のことをそう呼んだ。それだけで私と寛人の距離は離れてしまっていることを理解した。あの頃は私のことを名前で優里って呼んでくれたのに…私は涙がじんわりと浮かんだ。それを悟られないように下を向いた。


「…」

「…」


再び沈黙が2人を包み込んだ。音がしない。世界が音を失ってしまったかのようだ。


「あ、私忘れ物取りに来たんだ」


私は嘘をついた。何とか寛人と会話をしたくて。


「そ、そうなんだね」


でも寛人は私と目も合わせることなくそう言った。辛い。辛いよ寛人。


「ね、ねぇ、おすすめの本とか…ない?」


私は縋るようにそう問いかけた。本好きの寛人ならこの話題に食いついてくると思ったから。


「っ!」


すると寛人は驚いたように瞳孔を開いた。もしかしたらまたあの頃のように仲良くなれるかもしれない。そして時間をかけて2人の関係を積み重ねていきたい。


そう思っていると寛人が本を持ってきてくれた。


「じゃ、じゃあこの本なんてどうかな」


差し出された本は私の知らない本だった。表紙とタイトルからラブコメだということは分かる。もしかしたら私の好きなジャンルを覚えてくれていたのかな。それなら嬉しいな。でもあいにく私はこの本を知らない。最近はずっと女性用の雑誌などを読んでいる。それは周りに本当の私を悟られないために。寛人の理想を守るために。そのために私は好きな読書の時間を無くしてまで頑張っている。そのせいで最近のラノベは全く知らない。


「これ…どんな話なの?」


私はそう聞いた。寛人がまた楽しそうにこの本の概要を話してくれるかもしれないと、そう期待して。


「…」


少しの間が空く。


「寛人?」


私は不安になって彼の名前を呼ぶ。


「あ、えっと…恋愛小説だよ」


すると彼は簡素にそう答えた。


え?それだけ?もっと楽しそうに話してよ。昔みたいに2人で話そうよ。


「そうなんだ…私も読んでみようかな」

「ネットで調べたらすぐにでも出てくるよ」


でも寛人は素っ気ない態度を取る。そして本を自分のカバンに仕舞ってしまった。


「…私には貸してくれないんだ」


気づくと私はそんな醜い自分の心の声を口に出してしまっていた。


「え?な、何か言った?」

「う、ううん。なんでもないよ」


幸い寛人には気づかれていないようだ。


「それじゃあ私、帰るね」

「え?あ、う、うん」


私はそう言って少し困惑している寛人を残してその場から走って逃げ出した。悲しい。その感情が胸の中をいっぱいにする。どうしてあの子とばっかり話すの?私とはもう話してくれないの?あの楽しかった時間は嘘だったの?そんな思いが頭の中を駆け巡る。自然と大粒の涙が出てくる。


しばらく走り続けるとひとまず涙は止まった。そして目の前に友達を見つけた。私は出来るだけ何事も無かったかのように友達に近づいた。すると私に気づいた友達が話しかけてきた。


「あ、優里遅いよー」

「ご、ごめんね」


私はそう言って軽く謝る。


「ん?なんか目赤くなってない?」

「そ、そうかな?気のせいじゃない?」


私はそう言って心自分の心と共に誤魔化した。

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[良い点] じわじわと曇っていくところがたまりません(ゲス顔)
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