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人生初の友達

私の人生は楽しくない。もう高校生にもなるのにろくに友達は居ないし熱くなれる何かもない。強いて言うなら本を読むことが好きなことぐらいかな?でも本当にそれだけだ。私には他に何も無い。人に慕われる人間性も、誰もが見惚れる容姿も、もてはやされる運動能力も何もない。


人は自分には無いものに憧れる。例を上げればクラスの中心人物である久川さんは同じ女の私から見てもとても魅力的な女性だと思う。でも思うだけ。私がそうなれるとは到底思っていない。


だから私は今日も教室で波風立てないように静かにひっそりと過ごす。それが私の当たり前だった。誰にも話しかけず、話しかけられない。もう友達を作ることは半分諦めていた。きっと高校でもずっと1人で過ごすんだろうと、そう思っていた。


「っ!ね、ねぇ」


そんな声が近くから聞こえてきた。本を読んでいた私はその声がする方向を見てみる。するとどうやら私の近くにいた男の子が声を出したらしい。それにこの男の子私を見ているような…


私の周りには人が居ない。つまり…私に話しかけてる?


「…え?わ、私?」


私は咄嗟にそう言ってしまった。でも仕方ないと思う。だって私は入学して誰にも話しかけられたことがなかった。そんな私に話しかけてくる人なんて居ないものだと思っていたから。


「あ、い、いきなり話しかけてごめん…」

「あ、えっと、それは全然いいんだけど…ど、どうしたのかな」


失礼だとは思うけど、見たところ彼もあまり友達が多いタイプではなさそうだ。どちらかと言うと私と同じように隅っこでいるような人だと思う。そんな彼が私に一体どんな用だろう?


「その本」


彼は私が読んでいた本を指さした。


「この本がどうかしたの…?」


なんだろう…オタク臭いってバカにされるのかな…


そんなネガティブな思考に陥る。自信の持てない私はすぐにネガティブになってしまう。こんなだから友達も出来ないのかな。


「あ、えと…これ、面白いよね」


そんなことを考えていた私に彼はそう言った。予想外の言葉に私は少し呆けてしまった。


「ご、ごめ…」


彼はやってしまったといった顔で謝ろうとしていた。


「…うん。これ、面白いよね」


だから私はそう言い返した。きっと彼は悪い人じゃない。それは話してみた私の直感だ。


「だ、だよね…」


彼は恥ずかしそうに俯きながら小さな声でそう言った。うん。彼は悪い人じゃない。


少しの沈黙が流れる。気まずい。


「あ、じ、じゃあ、これも知ってる?」


そんな空気を変えようと思い机の中を探る。そして目的の物を手に取り彼の前に出す。


「え?そ、それって…」


私が持っていたのはファンタジー作品の中でもかなり硬派な部類の作品だった。普通なら女の子が読むような作品ではないと思う。でも面白いと思った作品は誰かに決められて読むようなものじゃない。


「知ってる?」


私は彼にそう聞いた。


「も、もちろん」


彼は少し驚いたような顔をしながらもそう言った。


「ほんと?面白いよね」


私は選択を間違えてしまったかもしれない。今彼は何を思っているのだろう。女の子らしくないと思っているのだろうか。


でも私の心配は杞憂だった。


「う、うん。特にあのシーンなんか…」


彼は嬉しそうにこの小説の話を始めた。私は小説の話が出来る友達なんて今までに誰もいなかった。だから人と同じ趣味の話が出来ることがとても嬉しかった。


「あ、分かる。あそこは熱かったよね」


だから彼と私は時間を忘れて小説の話をしてしまった。


「え、あ、もうこんな時間…」


気がつくと授業前の予鈴がなっていた。こんなにも時間が早く過ぎるなんて…今までにない新しい感覚だった。


「あっという間だったね」


本当にあっという間だった。楽しい時間って短いんだな…


「俺、彩峰 寛人。よ、よろしく」


どうやら彼は彩峰君と言うらしい。


「私は桜乃 陽菜。よろしくね」


私たちはお互い恥ずかしそうに笑いながらそう言った。


私に人生初の友達が出来た瞬間だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きは公開されないのでしょうか? 楽しみにしています。
[一言] 第二話の桜乃さん視点だけど、どちらもタイトルに付くのは「友達」なんだよね 主人公があくまで一緒に本の話が出来る「友達」を求めたに過ぎないように、桜乃さんもまた本の話が出来る「友達」に留まれる…
[一言] 改めて見なくても彩峰君めっちゃ勇敢だよね。自分から声掛けに行ってるし。今の世の中確実に陰キャの割合増えてるし、将来勝つのは此のタイプな気がする。
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