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濃霧の謎

 彼女たちの鬼ごっこから半年が経過し、彼女たちもある程度は戦えるくらいの戦士に育ったと言えよう。


 というのも、基礎を据えた練習は当然の如く続けていたのだが、俺との実戦形式の稽古を行うようになったことで更に技量が増したのだ。


 A、Qは共に基本武器を黒剣としたが、試しに銃撃も教えてみた。


 そうしたら、Aは銃に対する適性は低かったが、逆にQは銃撃に対する適性が高く、Qだけは二つの武器を適材適所で用いることを覚えたのだ。


 ただ、Aの方が魔力操作感覚に関しては優れており、俺の見せた『魔力鋼糸』や『魔力覇気』を完璧に操れるのはAの方だ。Qも使えなくはないが、いくらか威力が落ちるみたいだし、基本的にAが前衛、Qが後衛という立ち位置になりそうだ。


 そして今、俺たちはいよいよ森を出るために、街のあるだろう方向に向かって歩いていたのだが……。


 行けども行けども出口が見えず、絶賛迷子中となっているのだった。


「ねえ、ジョーカー。もう四時間も歩いているけれど、本当にこっちが森の出口なのかしら? というか、この森の大きさ変じゃない?」


「確かに……。飛び上がって上空を見た時はもっと出口に近い位置に居たはずだ。なのに、その方向に向かっても森林が消える気配がない」


「どういうことでしょうか? 私たちは真っ直ぐ歩いているだけですし、出口の方向も一度はジョーカー様が宙を飛んで確認していますから、直進すれば三時間弱で出られるはずでしたよね?」


 そう言えば、今までは単に森が広いだけだと思っていたけど、思い返してみれば彷徨い続けて一年以上も経っているのに一度も森の外に出た事がないのはどうしてだ?


 単に出る気がなかっただけ?


 それとも、今までは森の中心に向かって歩いていたから見つからなかった?


 いや、それはあり得ない。


 俺は何度も森の外に向かって歩いていたはず。


 彼女たちを襲っていたあの襲撃者たちも森の外から来たみたいなことを言っていたし、あの時点では確実に森の出口に近い位置にいたはずなんだ。


 それがどうして、俺たちは未だに鬱蒼とした森の中を彷徨っているのだろうか。


「……分からない。だが、確かめる方法がないでもない」


「どうするつもり?」


「二人とも、俺に掴まれ」


「ジョーカー様に!? はい、ただいま!」


 Qは俺の言葉を聞くなりがしっと正面から抱き着いた。


 ちょっと育ったか? 胸が胸板に当たるんだが……。


 ……そうじゃなくてだな。


「Q,できれば右側から頼む。これでは前が見ずらい」


「はっ!? 失礼いたしました、つい」


 Qは慌てて右側に周ってきたので、ここは大胆に彼女の体を右腕で包むように彼女の体を掴んだ。


「ひゃう!? ジョーカー様の腕に抱かれるなんて……。はぁ、はぁ……」


「……A,お前もだ」


「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫よ、私はあなたに抱かれたくらいじゃ興奮しないから」


「……ならいいが」


 変態の子は一人で十分だ、これ以上はお腹いっぱい。


 Aのことも左腕でちゃんと抱きかかえて、準備は完了した。


「少し揺れる。しっかり捕まっていろ」


「あなた、まさか……。きゃあ!?」


「ジョーカー様……。素敵ですぅ……」


 俺は上空へと大きく飛び上がり、森の外の景色を見据える。


 俺の正面、大体五キロくらい先に森の端っこがあり、そこからはずっと広い草原らしき大地が続いている。


 あそこを抜けることができれば、森から出られるのか。


「行くぞ」


 Aは歯を食いしばって、Qは恍惚とした表情を浮かべて上空を駆けるタクシーの気分を味わう。


 俺もまさか、超人的パワーを手に入れたスーパーヒーローみたいに空を飛べる日が来るとは思わなかった。


 控えめに言って、最高だ!


 出口の端に徐々に近づく。


 四百メートル……。


 三百メートル……。


 二百メートル……。


 あと少しというところまで来て、急に周囲が白く深い霧へと包まれる。


「な、何? 急に?」


「こんな高い場所で、霧、ですか……?」


「っ……」


 真正面が真っ白い画面で覆われて、いよいよ右も左も、後ろまでも濃霧の空間で充たされてしまった。


 それでもなお進み続けると、やがて光が見えて霧が晴れ……。


 目の前から巨大な大木が迫って来た。


「っ、クソ!」


「きゃあ!?」


「にゃ!?」


 二人の可愛らしい悲鳴が聞こえると同時に、俺は何とか急ブレーキをかけて止まることに成功する。


「……どういうことだ?」


「ここは……」


「さっきの森の中、ですね……」


 霧が晴れたと思って周囲を見渡してみれば、そこはさっきまで居た森の中の景色そのものだった。


 上空に居たはずが、いつの間にか森の中に戻されたというのか……。


 俺は二人を下ろして、一旦周囲を見渡してからある結論にたどり着く。


「……どうやら、この森の空間が歪んでいるようだな」


「空間が歪む? つまり、森の外に出ようとすると戻されるってこと?」


「それだけならいいがな」


「……! まさか!」


「私たちは、森の中でも知らず知らずのうちに方向感覚を惑わされていた、ということでしょうか?」


 二人の辿り着いた答えに、俺は静かに首を縦に振った。


 これも完全にファンタジーお決まりのパターンだけど、ある程度は推測ができるのでそれを話すことにする。


「この森は広大だと、俺も思っていた。だが実際は、謎の空間の歪みの影響で森の中の距離間隔が消失しているのだ。加えて、定期的に降る雨によって作り出される濃霧……。あれもまた、俺たちの方向感覚を狂わせる罠だったのだろうと俺は推測している」


「でも、確かにそうかもしれないです。濃霧の中にいるとき、急にジョーカー様の気配が薄くなってしまうんです」


「例の魔力感知か?」


「はい。この森の作り出す霧には、魔力の流れを阻害する何かがあるんだと思います。それでもなお、私たちが霧の中で魔力を使えるのは、魔力量を上げて普段から鍛えていたおかげなのだと思います」


 Qは自分の顎に手を添えながら、知的に自分の考えを解説してくれた。


「……やはりな」


「流石はジョーカー様! 既にお見通しだったその審美眼、御見それいたしました!」


「つまり、私たちはその霧を作り出している元凶を叩くことが、この森を抜ける鍵になりそうってことでいいかしら?」


「ああ、間違いない」


 Aの言う通り、この森には濃霧を作り出している原因になっている何かがあるはずだ。


 その原因を排除すること、目下、それが俺たちの成すべきことになるのだろうが……。


 問題は、その原因となっているのが何か分からず、どこにあるかも分からないことだ。


 ……こういうとき、物語ならお助けキャラ的なのが登場する頃なんだが、流石に現実だとそう上手くはいかないか……。


「取り敢えず、この森で濃霧を作り出している元凶を探すぞ。必ず、どこかには手掛かりがあるはずだ」


「そうね。ここで足踏みをしていても始まらないし、少なくとも森の中である限りは生きていけるもの。時間はかかるかもしれないけれど、それが一番確実な手ね」


「ならば、早速探すと致しましょう。ですが、どこをどう探せば良いのか……。いえ、必ずや見つけて見せます!」


 しかし、歩けど歩けど手掛かりは見つからず、探せど探せど同じような場所をグルグルとしてしまい、俺たちの努力は虚しく終わってしまう。


 狩りをして食事を摂り、水場で水分を補給しながら、かれこれ二週間が過ぎたが成果は得られず……。


 何の成果も、得られませんでしたあああ!


 ……と、某巨人が攻めて来るアニメの登場キャラの台詞を心の中で叫ぶことになってしまった。


「……見つからないか」


「もうすぐ一ヶ月になってしまうわ。このままだと、一ヶ月、一年、私たちがお爺ちゃん、お婆ちゃんになっても森から出られないかも」


「それは流石に……。はっ! でも、このまま一緒にいれば必然的にジョーカー様と……」


 Q、自分の欲望が駄々洩れだ。


 流石に、俺もこの森で一生を彷徨い続けるのは御免だな。


 けど、このままでは霧の森から出ることは不可能。


 さて、どうするか……。


 ドン!


 そのときだ、向こうの方で爆発音が聞こえたのは。


 その方角へと視線を向けると、森の上空に土煙が立ち上っていた。


「何事だ?」


「ジョーカー様、あっちの方で爆発が……。何でしょうか?」


「恐らく、誰かが森を破壊したか、あるいは何かと戦っているのね。つまり、私たち以外にも森の中に迷い込んだ人がいるってことよ。ジョーカー、どうする? 行ってみる?」


 俺は自分の顎に手を当てて暫く知的に考える仕草を見せてから言う。


「これは、今までにない変化だ。行くべきだろう。何か、脱出の手掛かりを掴めるかもしれない」


「危険は伴うかもしれないけれど……。そうね、ジョーカーの言う通りだと私も思うわ」


「私はジョーカー様の行くところなら、どこへでもお供します! さあ、参りましょう!」


 俺たちは早速、その煙が立ち昇る場所へと駆け足で向かった。

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