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頑張った姉妹への報酬

 幸い、夜になると雨は上がり、あれだけ視界を覆っていた霧も晴れてきた。


 しかし、まだまだ暗雲は晴れることなく、異世界の夜空に輝く星々を拝むことは適わなかった。


 適当に狩った動物の肉を焼き、食べられる野草を食べて夕飯を済ませて焚火に暖まっていた頃、姉妹は俺の向かい側で同じく焚火に当たっていたが、急にQが立ち上がって、頬を赤くしてモジモジしながら俺の傍にやってきた。


 どうした? トイレに一人で行けないのだろうか?


「あ、あの。ジョーカー様」


「どうした? 何かあったか?」


「えっと……。その……」


 彼女は胸の前で手を遊ばせて、何かを伝えようとしている。


 ……ああ、もしかして。


「ご褒美の話か?」


「……っ! はい! そうです! 早速、いただきたいのですが……。駄目、でしょうか?」


 うわ、銀髪美少女エルフの本気の上目遣い……。


 こんなの、誰が言われても駄目なんて絶対言えないって……!


 しかし、俺はあくまでクールキャラな強キャラ設定なので、動揺を見せてはならない。


 どれだけ絶世の美女を目の前にしようと、鼻の下を伸ばしたりはしないのだ。


「ふっ……。いいだろう。何でも言ってみるといい」


「はい! ジョーカー様!」


 ぱあっと天使のように無邪気な笑顔を浮かべるが、見方によっては悪魔の笑顔かもしれない。


 これからどんな要求をされるのか、何をされてしまうのか。


 頭を撫でて欲しいとかそういう要求ならまだいいけど、彼女たちも年頃の女の子だし、あんなことやこんなことを……。


 いや、考えるのは辞めよう。聞く前からネガティブになっても仕方ない。


 あくまでクール、クールだ。


「さあ、Qの望みとはなんだ?」


「えっと、ですね……。これからすることを、毎晩してほしいんです」


「毎晩? ……いいだろう。それで、何をしてほしいんだ?」


「まずは……。隣、失礼しますね」


 Qは俺の座る倒木の椅子に腰かける。


 距離感がバグっているのか、俺と彼女の間には拳一個分もスペースが空いていない。


 ほぼ密着状態、結構大胆なことをするな……。


「その、お膝の上に頭を乗せても良いですか?」


「……うむ」


 許可を出すと、彼女はゆっくりと頭を横に倒してぽふんと膝の上に左耳をつけて寝た。


 さわさわと彼女の髪から伝わる感触が服の上からでも分かってしまい、非常にくすぐったい。その上、身じろぎをするものだから余計にむず痒い。


「そしたら最後に、頭を撫でてください」


「……こうか?」


 俺は彼女の頭頂部に左手を当てて、すりすりと上下に手を動かす。


「~~~!」


 凄く見悶えているのが分かる。


 かなり敏感なのか、途中から息が荒くなって明らかに頬も赤く……ってか、場合によってはかなり危ない映像なのでは!?


 流石に、これ以上は続けると犯罪臭が漂うことになりそうだ。


 いつまで続けて良いのか分からないので、途中で手を止めると……。


「ぁ……」


 小さく声を漏らし、今にも泣きだしそうに瞳を潤ませてくるので慌てて撫でるのを再開。


 すると、彼女はぱぁっと笑顔になって俺の膝に顔を擦り合わせて来る。


 ……くそ、可愛すぎて辞められないじゃないか。


 普通、こういうのは恥ずかしがるものだろうに、どうしてされる側の俺がこんなにも恥辱に塗れた思いをしなければ……。でも、良いんだよなあ……。


「ジョーカー様、Qは満足しました。これを毎晩です」


 毎晩……。やはり、毎晩やらなければならないのだろうか?


 流石に俺も男であって、流石に大きくなってからもというのは流石にな。


 未来に怒り得ることを予測し、何とか今晩だけにできないか交渉を試みる。


「なあ、ご褒美というのはその場に至福があるからこそ価値のあるもの。毎晩やっていたら、いつか飽きてしまうのではないか? また、機会があればいくらでも……」


 しかし、彼女はぷぅと頬を膨らませて怒ったことをアピールしてくる。


「毎晩、です。これは絶対、譲れません」


「いや、しかし……」


「毎晩」


「だが……」


「ま、い、ば、ん」


「……分かった」


 彼女は再び満開の花畑のような可憐な笑顔を浮かべると、俺のなでなでに夢中になる。


 ……負けた。クールキャラで強敵感のあるっていうのが設定なのに、これじゃあ娘に対して素直になれない頑固おやじキャラになってしまう。


 まあ、でもいっか。彼女たちの同行を許したのは俺だし、今更というやつだ。


 ちらと向かい側を見れば、今の一連のやり取りをコントか何かと勘違いしたらしいAがクスクスと声を抑えて笑っていた。


 すると、彼女はQの反対側の空いている俺の隣を占領した。


 おいおい、今度はAがご褒美を所望なのか?


 まあ、彼女はいくらか理性的だしQより無茶な要求をすることはないと思うけど。


「Aも褒美が欲しいのか?」


「そうね。せっかく貰えるものなら、貰っておこうと思って」


「……それで、何が欲しいんだ?」


「それじゃあ、私たち姉妹にあなたのことを全て教えて頂戴」


 言葉の通り受け取るなら、俺の素性とか好きな物とか、そういうのを教えろって意味だと思うけど。


「それはどういう意味だ?」


 彼女は妖しく口角を上げると、俺の黒衣の胸元にそっと左手を添えて顔を近づけて来た。


 ほんのり香る甘い匂いに一瞬だけクラッとしそうになるも、ゆっくりと呼吸をすることで心臓の鼓動が早くなるのを防ぎつつ、表情が崩れないようにする。


「……緊張してるでしょ?」


「あり得んな」


「強がらなくてもいいのに。こんな美少女二人に迫られて冷静でいる男なんて、男じゃないと思うのよ」


「自分のたちの容姿に自身があるんだな」


「私たち、これでも集落にいた頃は美人だって言われていたのよ? 銀髪じゃなければ嫁にしたいって言われたこともあったわね」


「髪程度で人を判別するとは、くだらない連中も居た者だ」


「本当にそう思うけど、残念ながら世界は残酷よ。たったそれだけで、牢屋の中に入れられるくらいだから」


 本当にくだらないと思う。どうしてこんなにも神秘的な存在を、そんなにも悪く言うことができるのか俺には理解できなかった。


「牢屋で生活していたのか。よく逃げ出すことができたな」


「男って皆馬鹿ばっかりだもの、ちょっと誘惑すれば簡単に丸め込めるわ。驚くほど脱出は簡単だったけど、困ったのはこの森に逃げ込んでからよ。多分だけど、私たちを追って来なかったのは、どうせこの森で死ぬと思っていたからでしょうね」


「……確かに、そうかもしれないな」


 この森はとにかく広い。不思議なくらいに、それはそれはもう。


 加えて、ここには凶暴な野生生物が多くいるし、さっきの鬼ごっこの時もそうだったが定期的に雨が降り濃霧が立ち込める。


 森の中で迷ったらいよいよ外に出ることなどできず餓死するか、それとも動物の餌になるか……。いずれにしろ、助かる可能性はないだろう。


「そんなことより」


 そんなことなのか。


「質問しているのはこっちよ、ジョーカー。いずれはきっと、あなたの体にも色々と聞くことになるでしょうけど……。それはまたの機会にしましょう」


 AはQと違って、既にどこか大人の色気を感じさせる雰囲気を持っている。


 体の使い方、魅せ方、そういうのはきっと彼女たちが集落を逃げるために身につけた者なのだろう。それだけに、意力はとても高い物だ。


 意味深ではあるし、大方予想はできる内容ではあるが、今はあまり深くは聞かないで流しておこうと思う。彼女だって、今はそれについて話すつもりはないようだし。


「まず、あなたのことを教えて。あなたはどこから来て、どうしてこの森にいたのか」


「私も聞きたいです! ジョーカー様の過去のお姿を!」


「……」


 二人は興味津々、特にQは瞳を輝かせながら俺の膝枕を絶賛堪能中だ。


 俺はこの世界の住人ではあるが、同時に異世界人だった記憶も持っている。


 そのことを言うべきか?


 いや、別に言わなくても黙っていればいい話だ。


 だが、せっかく主人公プレイを楽しんでいるし、ここも少し面白くしてみようか。


「俺は前にも話した通り、元は山奥にある限界集落の孤児だった。碌な水も、食料もなく、ただ死にゆくだけの哀れな男だった。だが、俺はあるとき思い出したのだ。自分があるべき本当の姿を」


「本当の姿?」


「きっと、正義の味方とかそういうのですよ! そうですよね!?」


 Qからの期待の眼差しが強いが、残念ながらそんな大層なものではない。


 俺は小さく首を横に振る。


「俺は思い出したのだ。前世の記憶を。集落の住民に殺されそうになったのをきっかけにな。そして俺は気付かされた。自分は何者でもない者になりたかったのだ」


「……そう言えば、あなたはいつも言っているわよね。『何者でもないが、何者にもなれる者だ』って。私たちのことも、そうやって励ましてくれた」


「では、ジョーカー様は先祖返りのようなものをなされたんですか?」


「そうなるな。だが、思い出したのはそれだけだ。魔力に目覚めたのは全くの偶然であり、その意志だけがこの世界で生きるための活力を与えた」


 本当は他のことも思い出してるけど、強敵感を出したいからカットね。


 でも、それ以外は全く本当の話だ。


「俺は自分を殺そうとした男を殺し、この森に逃げ込んだ。右も左も分からない中、生きるために生物を殺す術を身に着け、魔力を掌握してここまで来た。二人と出会ったのも偶然に過ぎず、知っているとは思うが助けたのは単なる気まぐれだ」


 気まぐれというか、俺が主人公っぽいプレイをしたかっただけなんだけど。


 やる気があったから助けたっていう意味では、嘘を吐いていることにはならないかな。


「へえ。あなたも中々、過酷な人生を生きてきたのね」


「素晴らしいです……。ただ、森で怯えることしか出来なかった私たちとは違って、自らの力で道を切り開いて来たのですね? 何者でもない、しかし何者でもなれる……。勇者や正義の味方なんかよりずっと格好良いです!」


「……そうか」


 その自らの力って言うのも、前世の知恵を少しばかり拝借しているから全てが全てってわけじゃないけど、そこは主人公的な天才的発想補正みたいな?


 うん、それも主人公っぽい。なんか突然技を閃いたり、伏線も張られてない状態で謎の力が開花したりとか。


 増々、謎の今日敵キャラ感が出て来たみたいだ。


「でも、良かったじゃない。ずっと男一人の孤独な旅が、今や両手に花。あなたがここまで生きてきたのは、きっと私たちに出会う為だったのよ」


「よく言う。強引について来たのはそっちだろうに」


「でも、冷徹になり切れずに了承したのもジョーカーでしょ?」


「冷たそうに見えて、本当は心優しいところも素敵です……」


「……」


 言わせておけば……。こちらが甘い、甘いと勘違いしてるんじゃないか?


 ……まあ、いいか。二人は満更でもない様子だし、俺は俺のキャラを演じていれば問題は何もない。


「ともかく、今日はもう寝るぞ。二人とも、そろそろ離れろ」


「……残念です。もうちょっと一緒が良かったんですけど……」


「なら、良い方法があるわ。三人並んで寝ればいいのよ」


「確かに、それは良い考えですね! お姉ちゃん!」


「良くはない。さっさと休め」


「つれないわね。ヘタレなの?」


「そろそろ本気で怒ってもいいか?」


「冷静なジョーカー様が怒るところ……。ちょっと見てみたい……」


「こら! やめないか!」


 結局、二人を寝かしつけてから寝ることになったので、次の日の朝は一番遅くに起きることになった。


 なお、二人がちゃんと朝ご飯を用意してくれたので、それで許すことにした。


 ……やっぱり、俺って甘すぎるのかな?

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