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エルフの姉妹を助けて格好良く去る。これぞ格好良い主人公っぽいキャラだ!

 あれから半年、俺は確実に森の出口へと少しずつ近づきながらも魔力を扱う練習をし続けた。


 その結果、瞬時に黒衣を纏って武器を出すことが可能になり、いくつか技も習得することに成功した。


 だが、その数々はまだ見せるときではない。技というのは見せびらかすのではなく、使いどころを考えて使うから格好良いのだ。


 やたら滅多に雑魚相手に使っても仕方ない。そう仕方ないのだが……。


「ねえ、この森退屈じゃね? もう獣を狩り飽きたんだけど~」


 俺は自慢の黒衣を纏い、不満をたらたら垂れ流しながら、とにかく退屈を強調しながら森を彷徨い歩く。


 元々、筋肉が付きやすい身体なのかは知らないけど森の中を一日中歩き回っても疲れないくらいの体力は手に入れた。


 魔力で体を強化できるし、疲れてもプラスで一日は歩き続けることはできる。


 誰かと戦う上で体力は重要だ。肝心なシーンで疲れて力が出ませんでは話にならない。


 俺が目指す主人公は良い子に人気の顔を変えれば力が出るヒーローでも、五分しか返信時間がない制限付き戦隊でもなく、どちらかというと圧倒的な力で勇者パーティーや世界を蹂躙する魔王とか、逆に超パワーで魔王や神を殺す最強系主人公なのだから。


 ともかく、もっと戦い甲斐のある相手とかいないの?


 異世界定番、がっつり金貨を蓄えこんでる盗賊とかでもいいけどさ、できれば魔力持ちが良いよね。自分の強さと比べられるし、もしかしたら技を使うことができるかもしれない。


 魔力持ちがうっかり森に迷い込んでくれればいいんだけどな。


「いないかなあ、魔力持ち。出て来い、魔力持ち。このままだと本当に森を抜けちゃうよ」


 もういっそ、森から出て街とかに行った方がいいかな?


 あの集落は完全に世の中と隔絶した限界集落だったけど、この森を北に抜けると確か大きな街があると彼の記憶は言っている。


 そんなとき、俺の願いに答えるように森の中に叫び声が響き渡る。


「誰か! 誰か助けてください!」


 朝日の差し込む神聖な空間に似つかわしくない暗く鋭い悲鳴。


「とにかく、行ってみるか」


 とんと地面を叩いて木の枝に飛び移り、気配を消しながら木々の枝を大きく飛び移りながら声のした方向へと向かった。


 そして、やがて目視で捉えたのは綺麗な銀髪をした二人の娘っ子と、それを追っていたと思われる男たち三人。


 娘の一人は腰まで銀髪が伸びていて、そっちはもう一人の短い銀髪の娘を庇うように体で覆っている。


 二人とも、俺が前まで着ていたようなみすぼらしい服を着て、体中が土塗れの誇り塗れ。


 だけど、その上からでも銀髪と分かるくらい美しい輝きを秘めた原石であり、彼女たちは絶世の美女に育つだろうことはもはや確定しているように見えた。


 彼女たちはある気の幹の根元で蹲っていたので、俺はその木の上で彼らに気づかれないように着地する。


「へへへ、ようやく追い詰めたぜ」


「銀髪のエルフが二人、忌み子は高く売れる! 人気だし、希少だからな!」


「怨むなら、自分が銀髪で生まれた事を怨め。エルフにとっては疫病神でも、俺たち人族にとっては金を生んでくれる金の鶏! いや、銀の鶏だ! さあ、大人しく捕まりな!」


 男たちは下卑た笑みを浮かべながら忌み子と呼ばれた二人のエルフ娘にどんどん近づいていく。腰には三人とも立派な剣が下げられているが、今はまだ抜かれていない。


「くっ……。私はどうなっても構わない……。でも、妹に手を出したら承知しない!」


「お、お姉ちゃん……」


 二人はどうやら姉妹らしい。姉が妹を庇って立ち、男たちから身を守ろうとしている。


 二人は恐らく魔力持ちだ。何だろう、ここまで魔力を使ったおかげで体が馴染んできたのか微かに気配を感じ取れる。


 もっと確実性を増した方法を習得したいけど、今はまだその時じゃない。


 そして驚くべきことに、彼女らを襲おうとしている三人も魔力持ちだ。


 同じ魔力持ちなら、体格差があってかつ男性の彼らの方に分があるだろう。


 いくら妹を守るために身を挺そうと、このままでは両方とも捕まって終わりだ。


 飛び出したい、飛び出したいところだがまだ我慢だ。


 ここぞというタイミングがある。それを狙う!


「へへ、じゃあいただきますぜ! エルフの嬢ちゃんたち!」


「くっ……。もう……」


 銀髪エルフの少女二人が、やがて神にでも祈りを捧げるように顔を伏せて抱き合う。


 エルフたちと男たちの距離が四メートル、三メートル……。


 ……ここだ!


 やがて二メートルに到達するか、しないかくらいのときに俺は颯爽と木の上から降り立ち、二つの勢力の間で綺麗に着地を決めた。


 着地の衝撃で黒衣から伸びる裾がバサリと宙を舞い、まさしく強敵感が出る演出!


 よし、ここまではシナリオ通りだ。


「な、何だお前!」


「どっから湧いてきやがった!」


「俺たちの邪魔をするな!」


 まるで三流悪党が吐くような捨て台詞、いやまさしく三流なのだろう。


 三流とはいいものだ、主役を輝かせる上で非常に重要な役柄。一流ばかりの小説など詰まらない、強者はまず圧倒的な弱者を狩るところから物語は始まるべきなのだ。


「ふん……」


 俺はただ小さく呟き、突如として現れた謎の強敵を演じる。


 さあ、だがまだまだこんなのは序の口だ。


 次の章へと駒を進めよう。


「お前たちが知る必要はない。何故なら……。お前たちはここで『黒剣』の錆となって死ぬからだ」


 青紫色の魔力を放ちながら黒剣を高速錬成、更に格好つけて黒剣の切っ先を先頭の男の鼻先に突きつけた。


 男たちは動揺するが、やがてぐへへと気持ち悪い笑みを浮かべた。


「おい、坊ちゃん。あんたは知らないだろうが、俺たちは魔力持ちだ。お前のようなガキが勝てるような相手じゃねえ。悪いことは言わないから、ここから立ち去りな」


「そうすれば、命だけは助けてやる」


 右の男に続いて、左の男が脅迫をかましてくるが関係ない。


 そう、俺はこれから試すのだ。この力の真価を……。


「なら、やってみるがいい」


「生意気なんだよ!」


 先頭の男が剣を抜いて構え、それを振りかぶって襲い掛かって来た。


 俺は彼の剣と自分の黒剣を交える。


 互いの剣同士の鍔迫り合いで一瞬だけ青紫色の火花が散るが、圧倒的に俺の方が魔力量も力も上。俺の黒剣はびくともせず、逆に奴の剣はじりじりと揺れる。


 鋼の剣に魔力を通して何とか打ち合っているようだが、俺の黒剣の方が遥かに頑丈だ。


 故に、一度、二度と彼が俺に剣を打ちつけると、向こうの剣が勝手に砕け散った。


「ば、馬鹿な……!」


「やばい、こいつは魔力持ちだ!」


「逃げた方がいいですぜ!」


「今更気づいたか、三流の中でも特上の三流だな。だが、もう遅い……」


「ぎゃああ!?」


 俺は目の前の男を容赦なく斬り捨てた。


 左肩から右わき腹にかけてぶった切ったので、見事に上半身がバサリと崩れ落ちて派手に血を流す。


「兄貴! だから言ったんだ、森まで深追いする必要はねえって!」


「今はとにかく逃げろ! こいつはやべえ!」


「逃がすと思うか?」


 俺は早速、今異世界転生して初の必殺技を放つことにした。


 右手に持った黒剣を左腰に構えて身を屈める。


 そして、足先に魔力を集中させて一気に放出、敵を前にして背中を晒す相手を追尾した。


「黒剣一ノ型、抜刀術——『閃光』」


 奴らを追い越したときには刀を振り切り、振り返った時には二人とも綺麗に三枚おろしにしていた。


 本来は光速を超えるスピードで相手を斬り刻むイメージなんだが、今は音速を超える程度が限界の必殺技。


 俺は地面に浸み込んだ血を踏み荒らしながら二人の下へと歩いて行った。


 二人とも、今度は自分たちが襲われるのではないかと警戒しているようにも見えたが、俺は単純に誰かを助けるプレイがしたかっただけなので、襲うつもりはさらさらない。


 姉は俺をキッと睨みつけ、妹の方は不安げな色を瞳に乗せて俺を見る。


 よく見れば、彼女たちは綺麗な紫紺の瞳をしている。肌も白いし、やっぱり将来は女優とかを目指すべき人材だと思う。


 俺は意味深な笑みを浮かべて黒剣を消し、バサリと黒衣を翻して踵を返す。


 後は、あの台詞さえくれれば完璧なんだが……。


 さあ、来い。あの台詞!


「あの!」


 来た!


 俺は溢れ出る興奮を何とかセーブしつつ、とにかく自分の役に挺する。


 俺はゆっくりと上半身だけを後ろに回し、右目で彼女らの姿を捉えるようなポーズを撮った。


「あなたは……。あなたは、何者なの!?」


 来たあああああ!


 そう、これこれ! 


 主人公とかがヒロインを助けた時、去り際に聞かれる台詞ランキングナンバーワン!


 最高だ、このエルフ娘の姉の方!


 ……っと思っていたが、一つ問題が発生した。


 名乗り方、決めるの忘れた!


 どうする!? どうするよ!?


 このまままじゃ、エピローグのスタッフ、キャストに名無しの権兵衛として名前を刻まれる最悪のシナリオに成り下がってしまう!


 俺はふっと笑みを浮かべつつ高速で頭を回転させて名乗る名前を決める。


 この世界で生まれた彼の名前はない。親から名前をもらっていないので当然だ。


 あの集落に住んでいたときの名前もクソ坊主、もはや名前なんてないのと同じだよね。


 そのとき、俺はふと自分が名乗りたかった名前ランキングを思い出す。


 こういうとき、俺が名乗るべき名前でナンバーワンのもの……。


 そうだ、あれを使おう!


 元々は、向こうの世界での創作小説で出ていた奴だけど異世界だしノーカンだよね。


 彼女たちは俺の返答を待つ。


 迸走る緊張感、意味深なのに意味は特になく交わる視線。


 俺は満を持して、その名を口にした。


「俺の名はジョーカー。何者でもないが、何者にもなれる者だ——」


「じょー、かー……」


「っ、さらばだ。麗しき二人の姫よ」


 俺は再び踵を返して前に歩き出した。

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