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これこそ魔力、俺が異世界でファンタジーするための力だ!

 ええ、森を彷徨っている間に何とか頭の中を整理してみた。


 どうやら、彼 (というか俺) は親がいない孤児らしい。


 どうしてそんな悲しい人生を送ることになったのか。それは、親が借金を抱え過ぎて俺を泣く泣く捨てたらしい。


 捨てたと言っても「要らねえわゴラァ!」的な感じではなく、「育てられなくて御免ね、良い人に拾ってもらって」みたいな感じで街の路地裏に置かれたようだ。


 そうしたら、どっかの誰かが俺を見つけ、流れ流れてこの村の奴隷としてやってきた……らしい。


 そうして暮らすこと五年、俺は大体十一歳か、十二歳くらいの年齢のようだ。


 俺が殺したあのおっさんは、あの村を牛耳っている村長の息子さん的な人で、奴隷や村の人を自分の所有物みたいにしてかなり乱暴したり、無茶な労働をさせている上、食べ物をほとんど独占しているおかげで子どもたちは飢餓で苦しんでいたようだ。


 そこに、俺の前世である「常世明人」の魂的なのが乗り移って転生したっぽい。


 確かなことは、俺は今、この魔力と呼ばれる謎の力がある世界で生きているということ。


 けど、それでいいじゃないか。


 俺は兼ねてより欲しかった、人智を超えた新たな力を得たのだ。


「この力があれば、俺は主人公無双もできるじゃないか! ごほっ!」


 やべえ、興奮して大声を出したら喉が……。


 そう言えば、俺って水も碌に飲めてないくらい飢餓状態なんだった……。


 あの大男、水や食料がどうとか言っていた気がする。


 つまり、この近くに水源もあれば、食料もちゃんとあるということじゃないか?


 こんな鬱蒼とした森と山に囲まれた限界集落に生きてるくらいだ、それくらいなければ生きていくなんて不可能だろう。


 俺は山の方ではなく、森の広がっている方向へと歩いて進んで行く。


 山を登る体力があるはずないし、異世界の獣がどれだけ恐ろしい生き物かも分からないのだから、常に警戒しながら進んで行かないと。


 今は昼、木漏れ日が温かい良い陽気だが、夜になればどんな凶暴な生物が姿を現すか。


 ただでさえ、夜っていうのは視界が悪くなるからな。


 早い所、寝泊りできるような場所を確保しないと。


 適当に歩いていたら、運よく川にたどり着いた。


 やっぱり、あの集落の近くにはちゃんと水を調達できる場所があったんだ。


 無限に流れる水があるっていうのに、それを独占して働かせるなんて最低の野郎だな、あの男は。


 あまり川の水を直飲みするのは良くないって聞くけど、もうこの際、衛生上の観点がとか言ってる場合でもない。


 自分の渇きを癒すため、文字通り自分の頭を突っ込んで川の水に浸った。


 ゴクリ、ゴクリと水が喉を通ると渇きが言えて空腹が若干誤魔化せる程度には満たされた気分になった。


 遅れてやって来た冷たさで、自分は確かにこの世界に生きているのだという実感を与えられて心地良かった。


「ええい、服も臭いし全部脱げや!」


 俺は裸族へとジョブチェンジし、川の中に足を踏み入れる。


 気持ち良いいいいい!


 今の季節がいつかは知らないが、冬だろうが夏だろうがどうでもいい! 


 こうして冷たい水に浸ることで心が満たされ、体が水と一つになったかのような解放的な気持ちに支配された。


 いつまでもこうしていたい気分だったが、流石に風邪を引きそうだったので服をしっかりと洗って近くの木の枝にかけて日光で乾かすことに。


 それから小一時間ほど休めば、先程まであった倦怠感も消えて体調も元に戻った。


 さて、これからどうするか。


 ともかく、この力を使いこなせるようになることが一点。


 もう一つは、食料を確保するために狩猟を……と思ったけど、この子の中に狩猟の知識も経験もある。


 これはラッキーだ、何が食べられて、、何が食べられないかが分かる。


 そうと決まればまずは……。まずは、魔力を使いこなさなくては。


 まずもって、魔力とは非常に自由自在な物質か、あるいはエネルギーだ。


 エネルギーとして運用する時、魔力は実体を持たない。


 体の中を流れるエネルギーを引き出せば体を鋼鉄のように堅くできる。


「だから、素手でぶっとい木を叩きつければ……!」


 簡単に風穴を開けられるし、半ばから折って丸太みたいに持ち上げることもできる。


「とんでもないパワーだ……。これが、魔力! 確かに悪魔の誘惑、魅惑の力……。誰もが欲しがるわけだ」


 この世界には二種類の人間がいる。


 魔力を持つ者と、持たない者。


 魔力を持って生まれた者は自分の身体能力を上げたり、武器を魔力で覆えば鋼鉄以上に強化できるので、一般人は魔力持ちには勝てない。


 それが、この子の中にあった魔力持ちに関する基礎的な知識だ。


 ここでもしも魔力がなければ、俺は転生しても一般人だったわけだ。


 非常にありがたい、生まれ変わって良かったと心底思うよ。


 しかし、魔力は基本的に体や武器を強化するだけで、こんな方法で使われるところは見た事も聞いた事もないようだ。


 魔力をあれでもない、これでもないと使い続けて四時間弱。


 日が暮れてきた段階で、ようやくそれは成された。


「来い! 黒剣!」


 まるで闇の組織に所属する幹部のように俺は魔力で黒服を創り、黒剣を右手に構える。


 今はまだ瞬時にというのは無理だが、できれば変身みたいな感じで一瞬でやりたいんだよな。変身に十秒もかけてたら、敵はその間に俺を殺すだろうし。


 魔力で作った全身が黒いこの剣、黒剣は切れ味抜群。


 何たって、純粋な魔力百パーセントの武器だ。


 武器を魔力で強化できるなら、魔力自身も武器になるはずという発想は過去に読んだ創作物から得た着想だ。


 俺は試しに黒剣で近くの木を優しく撫でると簡単に斬って倒すことができた。


 倒れた木の断面はすっぱりと真っ直ぐに斬れていて、撫でると非常に触り心地が良い。


「いいね、これが俺の新しい武器か」


 ここまでで分かったことは、魔力はエネルギー化と物質化の両方ができること。


 魔力を外に放出したり、身体強化をし続けると体内から消費される。ただし、武器化や黒服の魔力はちゃんと体内に戻せば無駄にはならないということ。


 上々、自分の力を把握することは何より重要なことだ。


「さて、そろそろご飯にしたいが……」


 この近くだと鹿や猪が捕れるらしい。


 川があるし、ここで魚を捕ることも可能みたいだが、俺はともかくがっつりと肉にありつきたい気分だったので、少し手間だとは思ったが狩猟をすることを選んだ。


 もうすぐ日が暮れて夜になる。


 その前に狩りを済ませないと、森の中で遭難したら目も当てられない。


 夕暮れの森は昼間とは違って、オレンジ色の優しい光が木々に成る木の葉の間から降り注いで幻想的な光景を作り出す。


 俺は地面の上に落ちているだろうアレを探して彷徨ってみる。


 すると、暫くして目的のものを見つけた。


 それは、猪の糞だ。


 見た目からして、まだまだ新しい。この近くにいるようだ。


 それから更に森を彷徨い続けると、ずんぐりむっくりとした黒っぽい茶色の毛色をした二本牙の四足獣を発見した。


 猪だ、しかもかなり大きく肉や脂肪がいっぱいあって栄養も豊富そうな個体だ。


 流石に剣だとあれだし、俺は魔力で猟銃を作り出して構えた。


 射撃練習だって前世でちゃんとやってる。


 弾は魔力にして、威力を底上げするために魔力を使って更に加速させる機構を作って照準を合わせ……。


 ドン!


 細長い銃弾……いや、魔弾は猪の脳天をうまく貫いて殺すことに成功した。


 よし、後は持って帰るだけだな。


 魔力で強化した肉体なら、例え子供の体でもこの程度の大きさの猪なら簡単に運ぶこともできるだろう。


 そのときだ。周囲から突き刺さるような殺気を感じ取る。


 この感覚、ついさっきまで前世で居たはずなのに懐かしい。


 暴走族や暴力団に挑んだときに向けられた、敵を絶対に仕留めるという確かな意志を感じさせる。


「そこか!」


 飛び出してきたのは、体長が二メートル近くある白い毛皮の狼だ。


 俺の目の前に鋭い牙をこさえた顎を大きく開けて飛び出してきて、今にも頭を丸かじりされそうだ。


「ふっ……」


 俺は冷静に銃口を既に彼の口に向けており、ダン! と一発撃って絶命させた。


 すると、仲間を殺されたと知って出て来た仲間の狼が三匹、俺に一斉に飛び掛かって来る。


「このでは分が悪いか。だが、今の俺は……」


 自分の足裏に魔力を集中させてタンと地面を蹴ると、五メートル以上の高さを軽々跳躍することができた。


 滞空時間を利用して銃を黒剣に作り変える。


「さあ、食べ物を盗もうとした報いを受けろ!」


 着地の瞬間と同時に構えた黒剣で一体の首を斬り落とし、遅れながら自分たちとの格の違いを思い知って逃げ帰ろうとする彼らを後ろから俊足で追い越しざまに斬り刻む。


 四肢や頭部を大きく損傷させたので、意識があろうと間もなく絶命するだろう。


 俺は狼たちが死んだことを確認してから、猪一体と狼四体の死体を四回に分けて持ち帰った。


 流石にこの体だと、力は強くなっても人間の大人以上のサイズの生物を同時に持ち帰ることはできなかったからだ。


 この世界で彼が身に着けた火起こしの技術を使って火を起こし、黒剣で掻っ捌いた肉を魔力で作った串に刺して焼いていたら夜に変わっていた。


 異世界の夜空には無数の星が瞬き、夜空を大きく横断するように七色に輝く天の川が流れている。それが丁度、水流と同じ方向に流れているために水面に映り込んだ星々を今にも掴めそうだと錯覚しそうになるほど幻想的だった。


 しかし、星々は眺めることはできても手に掴むことはできないし、食べることもできない。


 やっぱり、綺麗な景色よりも目の前のご飯の方に目を奪われるのは必然だよね。


 この世界だと、恐らく肉にありつくのはかなり久しぶりだ。


 あの集落で暮らしていた時は、例え肉を出されても残飯というか、本当に端っこにあるような脂肪も旨味もない部分だったから。


 そのせいで、その破片を食べるために無駄に噛む回数を増やしたり、口の中で溶けるまで転がしていたのは良くない思い出だ。


 目の前で焼けた狼や猪の肉は、彼からしたらご馳走なのだろう。


 既に体が目の前の肉を求めて腹を鳴らし、涎が自然と口の中で分泌される。


 やがて肉から香ばしい匂いが漂って来て、いよいよ我慢の限界も近づいて来た。


 赤みの部分が無くなると同時に油が染み出してきて、とても美味しそうだ。


 魔力で作った串を手に取ると、あれだけ炎に晒しても熱くはなかった。どうやら、魔力には断熱性があるようだ。


 というか、こんな使い方をするのは俺くらいだろうから誰も知らないだろうけどさ。


「いただきます」


 早速、がっつり横から一気にがぶりと食い千切って食べてやった。


 ぐちゃり、ぐちゃりと噛むとゴムみたいな感触がするが、噛み応えがあってとても美味しい。腹の中は空っぽだし、体の中がどんどん満たされていく感覚が気持ち良い。


 俺は夢中で肉を齧っては焼きを続け、気付いた時にはあれだけあった肉はもう骨だけになってしまっていた。


「いやあ、食った、食った。もう一週間分くらいは食ったよ」


 今まで碌に食べられなかった分を考えると、この程度じゃあ全然足りないとは思うけど、これからたらふく食えば問題ないよね。


「さて、これからの方針だけど……。まずは魔力を使いこなす。そして、必殺技や技名も考えないと」


 いやあ、やっぱり定番だよね。技名!


 主人公も敵キャラも、何か強力な武器を使う時や剣を振るう時、技を使う時は必殺技を叫ぶ物だ。


 相手に自分の手の内がバレてもなお対策できないくらい強い、これぞ真の強者って感じがする!


「俺が使う剣は黒剣……。いや、『黒剣ダークソード』にしよう! 銃もあるよな……。そうだ、この銃は魔銃『ダークトリガー』! そして、魔力を使った体術を二世界混合格闘術『魔闘ブラックアーツ』と名付けよう! いいぞ、この調子で詳細な技名と、あとは必殺技も考えないとな……」


 それから俺は、とにかく決められるだけ技の出し方と技名を考えて、眠くなったときにぐっすりと眠ることにした。


 もちろん、獣に奇襲をされないように木の上でね。

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