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冒険者ギルドで依頼を受けよう

 ようやくリオの執行刑から解放された俺たちは、早速だが冒険者ギルドで依頼を受けることにした。


 リオによると、依頼は掲示板前の依頼書から受けたい依頼を選んで持って行くとのこと。


 依頼の掲示板には色々な依頼内容が書かれており、右下には推奨冒険者ランクが円の中に大きく書かれている。


「どんな依頼がいいのかしら? 魔物と戦うのか、薬草採取、治安維持とか家の掃除とかも依頼の中にはあるわね」


「何でも屋ってスワンさん言ってましたから、本当に出来ることは何でも請け負うんでしょうね」


「私は戦うことを専門にしてきたから、できれば戦う系の依頼がいいんだけど。ねえ、これって受ける依頼の難易度は何でもいいんだっけ?」


「リオの話によれば、特に制限はないらしい。ただし、難易度が自分たちのランクよりも上の依頼を失敗した場合は報酬となる金額の三倍を賠償金として支払い、冒険者資格を剥奪するとのことだ。厳しいが、罰が無ければ身の丈に合わない依頼を受ける冒険者が続出しそうだからな。特に、冒険者資格の剥奪は厄介極まりない」


 罰金と剝奪、両方の重すぎる制裁が下されれば今の俺たちは借金を抱えることになりかねない上、いよいよ稼ぐ手段が無くなってしまう。


 せっかくスワンが紹介してくれたのだ、ここで職を失ったら恩を仇で返すことになる。


「だが、俺たちとてこのまま下級冒険者でいるわけにもいかない。階級が上になれば、幾らかギルドから恩恵も受けられるとのこと。これから冒険者として食っていくなら、階級を上げるために依頼を選ばず受けることも必要だろう」


「そうは言ってもさ、まさかトイレ掃除とか部屋の片づけとかをやるの?」


「……」


 思った以上に夢がない仕事だな、冒険者とは。


 好きな依頼を受けられるのはフリーターみたいな側面もあって確かに働きやすいだろうけど、会う合わない、やりたいやりたくないと選り好みしてしまうくらい受けたくない依頼の方が多い。


 仕方ないか、今回は街中で工事現場への派遣とか、ハウスキーパー的な仕事を受けて路銀稼ぎを……。


「ん? これは……」


 もう駄目かと思った時、掲示板の一番右下に隠れた依頼書があったので、それを手に取って依頼内容に目を通してみる。


「何かいい依頼でもあったのかしら?」


「どれですか? 私にも見せてください」


「どれどれ……。街に出没する不審人物の調査?」


「ああ。どうやら、探偵ごっこをご所望らしい」


 三人もまた依頼内容に目を通し、Aがその内容を読み上げた。


「依頼の詳細は……。最近、王都の街中に出現する不審人物の確保、及び討伐。捕虜として人員を捕縛してギルドに引き渡せば、人数と情報量に応じて報酬も上乗せする。報酬は大銅貨三枚ね。ジョーカー、これを受けるの? 私は別に構わないけど」


「ジョーカー様が受けられるなら、依存などありません!」


「私も、これなら受けても良いかな。何だか、面白そうな依頼だし。この時代の人間で腕試しもできそう」


「……ならば、これを受けよう。行くぞ」


 皆の同意も得られたので、受付で書類仕事を立ってこなしていたリオのところへと依頼書の紙を持って行く。


「あら、皆さん。こんにちは」


「こんにちは。立って仕事をしていて疲れたりしないのか?」


「気遣って頂けるんですか? ですが、私たち職員はギルドに出入りする皆さんの顔をよく覚えておきたいので、書類仕事などをしている間も皆さんの顔がよく見えるように立って仕事をしてるんです」


「そういうものか」


「そういうものです」


 よくギルドの職員が経って仕事をしている理由が少しだけ知りたかったので、いい勉強になった。時に死地へと向かう冒険者に対する礼儀というか、手向けみたいな意味合いもあるのだろう。


 実に、見事な心意気だ。


「野暮なことを聞いたな。今日は、この依頼を受けたくて持ってきた」


「これは……。今朝方に出した新しい依頼書ですね。皆さんに見えるように一番上に配置していたはずですが……」


「この依頼書を見つけたのは、掲示板の一番右下、しかも他の依頼書に隠される形で張り出されていたぞ。この意味が分かるか?」


「ま、まさか……」


「どうやら、既に奴らはこちらの動きを察知しているということだ」


 この依頼書に書かれている不審者とやらは、俺たち冒険者に自分たちのことを探らせたくはないらしい。


 こんなことをしても、大した時間稼ぎにもならないと思うけどね。


 あるいは、もっと大きな何かが近いうちに起ころうとしているのかもな。


 例えば、今夜辺りとかは狙い目だろう。


「この不審者とやらが目撃され始めたのはいつからだ?」


「一週間くらい前、でしょうかね。最初は怪しい人物を見たかもしれないっていう噂程度のものだったと思います。ですが、日が経つにつれて目撃証言を多数入手しましたので騎士団が動いたのですが、見つけることが叶わず。そこで、冒険者ギルドへとお鉢が回って来たということです」


「なるほど。つまり、標的は既に動き始めているということか」


 ここでも主人公っぽく匂わせるような台詞を敢えて言う。


 既に全てを見透かしているっぽい演出、一度やってみたかったんだよね。


「ジョーカーには敵の目的が分かっているの?」


「そこまではな。だが、良からぬことを企んでいることは確かだろう。早急に見つけて、吐かせる必要があるな」


「流石はジョーカー様。全てを見通す聡明な頭脳をお持ちな愛しの君……」


「ちょっと、Q? メルヘンな世界に旅立たないで戻って来て」


 意識が昇天しかけているQをKが呼び戻す茶番を聞き流しながら、俺もまた思考する。


 何が目的かは分からないが、これは早速だがチャンスが回って来た。


 俺たちを助けてくれた騎士団、もといスワンに対して少しばかりの恩返しができる。


 この初仕事を成功させて冒険者として良いスタートを切りつつ、困っている騎士団を助けてしまおう。


「依頼内容は把握した。俺たち四人で引き受ける。それでいいか?」


「是非ともお願いします。では、ジョーカーさん、Aさん、Qさん、Kさんの四人での依頼の受注、確認いたしました」


 リオが依頼書に何やら書き込むと、俺たちにそれを手渡してきた。


「こちら、依頼完了時に提出してください。期限は特にありませんが、進展があり次第、報告をお願い致します。いってらっしゃいませ」


 リオのにこやかな笑顔に見送られながら受付を後にしようとしたとき。


 誰かの視線を感じたので、見ていた何者かにこちらが悟ったことを悟られないように気配を辿るも、姿を隠すのが上手いらしくギルドの誰が俺たち野様子を窺っていたのか分からなかった。


「……」


「ジョーカー? どうしたの?」


「……いや、何でもない」


 亜人で傭兵の経験があるKですらも気付かないか。相手は、かなりの手練れらしいな。

三人は気付いていないようだし、俺がしっかりと周囲に気を配っておかないと。


 ギルドを後にした俺たちは、標的が出現するという夜の時間になるまで余裕があった。


「ねえ、折角だから皆で王都を観光でもしてみない? それにさ、思ったんだけど私たち、森を出てから碌に体とか洗えてないし、服も変えたいし……」


「それは……。確かにそうかも」


「やだ、私って今臭いますかね?」


 Qはすんすんと自分の臭いをかいでるけど、俺たちはたぶん鼻が慣れちゃってるから分からないと思うよ。


 でもね、俺も体を洗いたいなって思っていた。


 あるかは分からないけど、今はどっぷりと温かいお湯に浸かりたい。それに、俺、A、Qは今は魔力で黒衣を纏ってはいるけれど、そろそろまともな服が欲しかったところだ。


「よし、ここらで湯屋を探すとするか。公衆浴場くらいならあるだろう」


「それはいいわね。行きましょう」


「でも、お金がないですよ?」


「それなら、さっきジョーカーが勝ち取った金貨があるでしょ? ジョーカー、まさかここでケチるようなことはしないよね?」


「無論だ。これは元々、生活費に充てようと思っていたからな」


 この世界に娯楽のようなものがあるかは知らないけれど、俺がのめり込んだ趣味は今や俺がファンタジー世界の住人になってロールプレイングしてるからな。


 言わば、この世界で生きることそのものが趣味。なれば、お金の使い道なんて生活費くらいしか今はないだろう。


 俺たちは早速、公衆浴場を探してそこらを歩き回っていると、ちょうど良さげな旅館を見つけることに成功した。


 見た目は日本にあった古き良き旅館を思い浮かべてくれればいい。木造建築で入り口には「旅館」という暖簾が異世界語で書かれていて、提灯はないけどランプがある。


 ただ、扉とかは襖じゃなくてスライド式のドアで、和洋折衷とでも言えばいいのか。いまいち、日本の旅館になりきれていないところがまた異世界っぽい。


「ここにするか。宿も探さなければならないと思っていたが、一石二鳥だろう」


「泊まれるところと一緒っていうのがいいわね。ねえ、早く入りましょう。体の汚れとかを洗い流したいわ」


「ですね。ジョーカー様、善は急げですよ!」


「行こう、行こう!」


 俺たちは早速、宿の中に入って店員の案内を受けた。


 やはりというか、着物じゃなくて洋装なのはやっぱり日本じゃないって感じさせるところだった。ちょっと残念。


「お客様のお部屋は、お二階の一番奥の部屋になります。ただいま、部屋がそこしか開いておりませんので、ご了承下さい」


「構わない。早速で悪いが、部屋に行った後はすぐ水浴びをしたい。どこに行けばいい?」


「我が旅館では地下から天然の温泉を引いておりますので、とても湯加減が宜しいかと思いますよ? 水浴びなどには戻れなくなるのが自慢なのです」


「それは楽しみだな」


 まさか、異世界に来て温泉に入ることができるとは運が良い。風呂っていうのは日々の疲れを癒すのに一番最適な場所だからな。


「湯加減? 温かい水に入るってこと?」


「それって、大丈夫なんでしょうか?」


 AとQはとても不安げな表情をして問う。どうやら、二人は温泉初体験らしい。


「AもQも、温泉に入ったこと無いの? だったら、安心しなよ。絶対に気持ち良いから。ジョーカーは入ったことはあるんだっけ?」


 ここは「ある」と答えたいが、森で生活をしていた俺が温泉に入っていたらおかしいことになるからな。


「いや、ないな。店主が自慢と豪語するくらいだ、さぞ気持ちが良いのだろう」


「ほほほ、ええ勿論でございます。ではこちらへどうぞ」


 俺たちは奥の階段を使って二階へと上がり、廊下の奥側、つまり間取り的には入口方面の一室に案内された。


 右側にシングルサイズのベッドが二つ並んでいて、奥の壁には一枚の窓があり、左の壁際には一セットだけ机と椅子が用意されていた。机は勉強机くらいのサイズのもので、引きだしが胸の下辺りに来るところに一つある。その上には夜に点けるようのランタンが一つだけポツリと用意されていた。


 実に質素、だけど不思議と落ち着く間取りだ。


「こちらがお部屋になります。温泉でお使いになられる布はお一人様一枚、無料で貸し出しておりますのでご利用ください。浴室は一階、階段とは逆の廊下を進んだところにございます。男女で分かれておりますので、お間違いのないようお気を付けください」


「ああ。助かった」


 店主が去った後、特に荷物もない俺たちがやることはたった一つ。


「行くか」


「行くわよ」


「行きましょう」


「行くっきゃないっしょ。温泉!」


 というわけで、俺たちは再び一階にいる店主のところに行き体を拭く用の布を借りると、一、二もなく浴場に向かったのだった。

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