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霧の竜

 次の日になって、またしても何とか命拾いをしたらしいKと、A、Q姉妹と共に例の木の前に立っていた。


 今日も変わらず天気は晴れ、あまり強敵とかが出てこなそうな雰囲気のほんわか日常系陽気に包まれた朝を迎えることになった。


「さて、この木をどうするんだったかな? ジョーカー?」


 胸の前で腕を組みながら放たれたKの質問に、俺は淡々と全員に向けて解答を返す。


「この木は恐らく、霧の結界を支える魔法装置になっている。俺の予測では、こいつを上手く破壊できれば、結界の力が消えるか、あるいは弱まるだろう」


「つまり、結界の要になってる木を破壊しまくればいいってこと?」


「ああ。確証はないがな」


 これもやはり、ファンタジー世界王道展開である魔法の結界だ。


 大抵は何か媒体となる石や法具が存在し、それらを集めるか、あるいは破壊すると出られる仕組みになっている。


 今回の場合は集めるタイプではなく、壊すタイプだろう。


 結界が一定時間で再生するとかだと絶望的だけど、そうじゃないことに賭けるしかない。


「行くぞ」


 他の皆が息を飲んで見守る中、俺は黒剣を召喚して目の前の木に狙いを定める。


「『斬撃』!」


 魔力で強化された体で繰り出された閃光が結界の柱となっている木を斬り刻む。


 すると、パリンという木からは絶対に出ないだろう音が鼓膜に響く。


 魔力感知で調べてみると、木に宿っていた魔力は霧散して消えていった。


「どうだ? 何か変化はあったか?」


「……ない、けど。確実に何かは起きたと思うわ」


「はい。木から硝子の割れたような音がしましたし、きっと崩すことに成功したんですよ」


「でも、まだ出られそうな雰囲気でもないね。もっと沢山探さないと」


「それなら、後は簡単だな。魔力感知を使えば木は見つけられる。行くぞ」


「ええ!」


「はい!」


「よっし、やってやろう!」


 俺たちは魔力の反応が強い木々を次々となぎ倒していく。


 探し始めて一時間、既に百本以上に木は倒したと思うが、一向に森の外に出られる気配はなく、俺たちの体力も徐々に疲弊していく。


「中々、晴れないな。どうだ? 体力の方は?」


「大丈夫よ、まだ行けるわ」


「ここで止まるわけにはいきません。私も、頑張れます」


「はぁ、はぁ……。これは、ちょっときついかも……」


 三人の顔には疲労の影が見え始めている。


 あまりにも長期戦になるようなら、日を跨ぐ必要があるかもしれない。


「なら、少しだけ休んでまた再開するぞ。あまり無理をするのは良くない」


「……そう、ね」


「ジョーカー様が、そう言うなら……」


「うん、ちょっと休憩……」


『その必要はないぞ、小童ども』


 近くか、あるいは遠くから響いて来た荘厳かつ低い男の声。まるで頭の中に直接話しかけれらたかのように、脳内をぐわんと揺さぶられた。


 同時に、周囲に何故か霧が立ち込め始めた。


 さっきまでは太陽の光が木々の隙間から入りこむほど明るかったのに、それらが嘘のように視界が白く塗り潰されていく。


「全員、固まれ。はぐれるぞ」


「分かったわ」


「ジョーカー様! 私はジョーカー様のお傍を離れません!」


「急にどうしたんだ、この霧……。明らかに不自然だよ」


 全員で固まって周囲を警戒していると、ちょうど俺の正面に黄金色に輝く二つの光が幽霊のように浮かび上がった。


 そこから放たれるプレッシャーは凄まじく、どうやら俺たちはとんでもない強敵を目の前にしているらしいことが分かった。


『ギャオオオオオオオオオオオオ!』


 全身の骨の髄まで響く雄叫びと風圧が俺たちに降り注ぎ、やがて目の前の霧だけが晴れていく。


 姿を現したのは、全身が白色で背中から尻尾にかけて生えている棘のようなものが紫色の蛇のような生き物だ。


 しかし、蛇にしては大きく、しかも奴の白と黒色の四対の翼によって宙を浮いている。


 顔の横まで生えた大きな牙は弱者を噛み砕き己の糧とするための武器の一つか、あるいは自身の存在が偉大であることを示す証なのか。


 そして何より、こいつは魔力感知に強い反応を示す程の膨大な魔力を体内に蓄えている。


 ……なるほど、ファンタジー世界なら何でもありか?


「お前、竜だな? この森の主であり、霧の結界の元凶とも言える存在」


『ふん、若造が知った口を。だが、正解だな。如何にも、我こそはこの森の主にして霧を操る竜である。名をミスティア。よくぞ、我の作った結界の仕組みを見破った』


 滅茶苦茶大物感を出して喋る、まるで老人のような竜か。


 いい、いいね! それでこそボスっぽい存在であり、主人公たちの前に立ちはだかる強大な敵っていう感じ!


 やっぱり、ファンタジーっていうのはこうじゃないと。


「霧の竜、ね。まさか、御伽噺に登場するような存在が実在しているなんてね」


「御伽噺?」


「ええ。竜の伝承は子供でも知っているほど有名よ。世界のどこかで彼らは私たちを見ていて、悪い事をする子のところにやってきて頭を食らうと言われているの」


「それに、竜の尾を踏むなとか、竜の逆鱗を蹴るという表現があるように、竜は非常に恐れている存在として語り継がれています」


 俺は彼の記憶を探ってみると、確かにそんな風な知識も入っていた。


 因みに、竜の尾を踏むなとはわざわざ相手の怒らせるようなことをするなという意味で、竜の逆鱗を蹴るとは相手のとんでもない怒りを呼び起こすという意味だ。


 つまり、今俺たちはまさに竜の逆鱗を蹴ったわけだ。


「そんな呑気なことを言ってる場合じゃないでしょ! 今、私たちは伝説の竜を前にしてるんだよ? どうぞ食べてくださいって言ってるようなものでしょ!」


『金髪の小娘は察しが良いな。お前たちはもはや逃がすことはない。この森の秘密を知ったからには、ここで朽ち果て我の腹へと収まり、この秘密をあの世まで持って行ってもらう』


「口封じか……。そんなにこの森が大事か? 迷い込んだ者を神隠しに合わせ、未来永劫森を彷徨い続ける亡者にするなど、悪趣味にも程がある」


『短命の人間らしい物言いだな。もう我との盟約を忘れるとは』


「何だと?」


『仕方あるまい。冥土の土産に教えてやろう。この我と人間たちとの間に結んだ盟約についてな』


 ミスティアは一息入れると、ゆっくりと盟約とやらについての話を始めた。


『遥か昔、この世界には三つの領域があった。一つ目は、小僧のような短命だが数が多い人族、二つ目は長寿だが数が少ない魔族、三つ目は両手で数える程度の数しか存在しない竜種。三つの種族は互いの異なる価値観を受け入れることができず、長きに渡り争っていた。だが、世界の共通の敵であり、竜種をも凌ぐ遥か強大な力を持つ魔王が出現したことで、三つの相容れなかった種族は協力し、ついに魔王を倒すことができた。人族と魔族は互いに手を取り合い互いの文化を共有しながら共生の道を選んだが、体が大きく文明を築く力がない竜はどうあっても彼らと一緒に暮らすことは適わない。故に、代わりに彼らの生活を見守る道を選び、竜種は世界中へと散って彼らの生活を長きに渡って見届けて来た。我もまた、世界中へ散っていった竜たちと同じくこの森へとやってきた。この森は、昔から獰猛な生物が多く、人を襲う強力な魔物なども多く生息しているせいで暮らしには不向きとされていた。そこで、我は人間達に、我の力で魔物を駆除する代わりに定期的に生物の供物を捧げる盟約を持ち出し、彼らはこれを承諾した。彼らは嬉々としてこの森の中を開拓し、水にも食べ物にも困らない生活を始め、ある時までは文明が栄えたこともあった。だが、時が経つにつれて盟約を忘れ供物を捧げなくなった人間たちを見た我は、代わりの供物を用意することにしたのだ。それこそ、我がこの森に空間を歪ませる霧を出した理由だ。のこのこと外からやってきた奴らを飲み込み、やがて彷徨い、そして朽ち果て、我はそれを供物として受け取る。盟約は今も履行されている。貴様らはその贄となるべく森を彷徨っていたわけだ。だが、どうにもこうにも死なないどころか、森に張り巡らせた結界を破壊し始めおった。最近は警戒されているのか森の外から人間が来ない。故に、時間を歪ませ過去や未来からも人を呼び寄せているというのに……』


「過去や、未来だと? つまり、俺たちは同じ時代から来たとは限らないのか?」


『ふん、少なくとも人族の小童、金髪娘、銀髪の姉妹は別の時代の人間だな。振れ幅は二百年から三百年ほどか。だが、どの時代から来たのかは知らぬ。そう言えば、そこの娘らを追ってきた盗賊共も別の時代から迷い込んだようだな。ここが我の腹の中とも知らず、目の前の利益に飛びつき森の中に足を踏み入れたのは面白かったぞ』


 けたけたと笑う竜だったが、今の話を聞いても何一つ笑いのポイントはなかった。


 俺もまた、あの集落にいた頃と別の時代にいる可能性があるのか。


『まあ、霧が晴れれば我が生きる時間軸を起点とした時代に飛ばされることになるだろう。だが、お前たちが元居た時間に帰ることはできぬ。少なくとも、お前たちの中で一番先の時代に生きている者の時間軸より未来に帰ることになるだろうからな。だが、それも適わぬこと。貴様らはここで我の贄となり、二度と陽の光を浴びることはないのだからな!』


 ミスティアは猛き咆哮を上げると、俺たちに鋭い殺気を飛ばし始めた。


 彼は完全に、やる気満々だ。


 その方が俺にとっては美味しい展開なんだけどね。


「どうする? どうする!? 私たち、祝賀会を開く前に奴の晩御飯にされちゃうよ!? まさか、昨日のが最後の晩餐だったなんて……。知ってたら、もっと沢山食べてたのに!」


「言っても始まらないでしょう? でも、このまま突っ立っていたら仲良く胃袋の中に納まるのは間違いないわね」


「そんな!? それは困りますよ! まだまだジョーカー様の雄姿を拝見したり、ジョーカー様とあんなことやこんなこともしていないのに……」


「そうは言っても、もう待ってくれ無さそうだよ! どうすんの!?」


「静まれ!」


 わちゃわちゃと騒ぐ皆を、何とか静かにさせた。


 俺は全員に威圧の視線を向け、とにかくパニックを起こさせないようにする。


 ぶっちゃけると、俺だって怖い。


 そりゃそうだ。だって、目の前には伝承でしか知られていない超常的な存在である竜種の一体がいて、今からそいつの餌になるかもしれないのだから。


 しかし、怯えていても何もならない。


 俺は、ファンタジー世界の主人公たちにみたいになりたくて、ここまで生きて来た。


 きっと、魔王や竜のような強大な敵に立ち向かう時、彼らもまた内心では怯え、また震えていたに違いない。普通は死ぬのは怖いし、恐怖を感じなくとも死にたくはないだろう。


 だが、それでもなお彼らが立ち向かったのは、その恐怖を凌ぐ何かがあったからだ。


 そして今の俺には、それがある。


 彼女らを死なせないことだ。


「奴と戦い、勝利する。それだけが、唯一皆で生き残ることが出来る手段だ」


「嘘でしょ……。でも、それしかないなら、やるしかないよね。まだ死にたくないし」


「ジョーカーが出るまでもない。私たちで仕留めるわ」


「ジョーカー様、まずは私たちの戦いを見ていてください。きっと、勝利して見せます!」


 彼女たちもやる気満々のようだし、これなら全くもって問題はないだろう。


 AとQの気持ちも汲んで、初てくらいは任せてみるか。


「死なないようにはしてやる。だから、存分に戦え」


「ありがとう、任せてくれて」


「頑張ります!」


「ジョーカーに頼らないの……? まあ、私もやられっぱなしは嫌だし、一発くらいは殴らないと気が収まらないってものだ」


『ふん、愚かな。定命の者が永劫の時を生きる竜種に適う訳がなかろう。未だに外の世界への未練を捨てきれず、淡い希望を抱くとは……。自身の愚かさをその身に刻みながら、我の糧となるがよい!』


 大地を震わす程の巨大な咆哮を合図に、俺たちの戦いは始まった。


 AとQは黒剣を瞬時に作り出し、たんと宙へと飛び上がってミスティアに攻撃を仕掛けた。Kもまた四足走行で大地を駆けてミスティアの背後へと回り、空中へと跳躍して鋭い爪による強襲を試みる。


 魔力による斬撃や爪の攻撃を体のあちこちに浴びせられるが、ミスティアはビクともしていない感じだ。


「くっ、弾かれた!」


「私たちの攻撃、通ってないんですか……!」


「怯んじゃダメだ! 攻撃を続けよう!」


 Aは黒剣に大量の魔力を溜め込み、そして解き放つ。


 天を貫く青紫色のとてつもなく巨大な剣光が、ミスティアの体表に叩きつけられる。


「『聖剣』!」


『ぬううううううう!』


 巨大質量とエネルギーによる攻撃で、一瞬だけだかがミスティアが怯んだ。


 かなり苦しそうに宙をのたうち回り、見た目上はかなり効いている感じだ。


「私も行きます! はああああ!」


 Qは黒剣の剣先をミスティアに向けたまま後ろに真っすぐと引き、巨大な量の魔力を貯め込んでから、引き絞った腕を前に突き出す。


「『魔剣』!」


 巨大な剣先が巨竜の腹を貫かんとして魔力がぶち当てられる。


『ぐうおおおおおおおおお!?』


 しかし、かの鱗はどれだけ頑丈なのか、Qの黒剣ですらも弾かれてしまう。「


「私だって! 負けないよ!」


 Kは魔力で強化した身体によって宙高く飛び上がり、その場で超人的な腹筋力で何回も前転し回転力をつけて、意力の上がった爪の攻撃を後頭部に直撃させた。


『ぎゃああああああ!?』


 Kの強力な一撃によって一度は頭を垂れたミスティア。


 竜が行動を停止している間際に、攻撃を終えた三人がこちらに戻って来た。


「これで、少しは利いたかしら?」


「あれだけ叩いて生きているのが不思議なくらいですけどね」


「竜も、実は案外大したこと無かったり?」


 だが、竜は徐々に頭を上げると再び巨大な咆哮を周囲にまき散らした。


『貴様ら程度の攻撃など、我に効くはずもなかろうに。言ったであろう、愚か者ども』


「全然、効いていない……」


「むしろ、さっきより元気な気がしますけど?」


「嘘でしょ!? 傭兵してるときに使ってた中でも、最高クラスの大技だったんだけど!?」


『定命の者が我に適うはずもない。これもさっき、忠告してやったはずなのだがな。だが、この我を前にして恐れなかった蛮勇に敬意を表して、この一撃にて葬ってくれる』


「な、何よ、今度は……」


「す、凄まじい覇気です……。これは……」


「ヤバいってものじゃないね……。上官、今そっちに行くかもしれない……」


 肌で、体で、本能で理解したのだろう。


 今の彼女たちでは、あの攻撃を止めることは適わないと。


 周囲の大気を飲み込むほどの巨大な魔力の奔流が作り出され、奴の口元に青色に輝く膨大なエネルギーの塊がやがて青い炎を纏う太陽へと変化した。


『死ね! 『蒼天』!』


 放たれた青い太陽はゆっくりとこちらに迫って来る。


 このまま待っていれば、皆仲良く太陽に飲まれて骨の髄どころか、灰すらも残らず昇天させられてしまうだろう。


「ごめんなさい、ジョーカー……」


「申し訳ありません、ジョーカー様。ジョーカー様だけでも……」


「もう無理なのか……。このまま、本当に上官のところに……」


 しかし、そう簡単に殺させるわけには行かないんだよな。


「退け、お前たち」


「ジョーカー……。待って、それは……」


「大丈夫だ」


 俺は、ファンタジー世界の住人たちに憧れていた。


「ジョーカー様! 危険です!」


「問題ない」


 俺は、他の誰よりも焦がれていた。


「絶対ヤバいって! ジョーカーだけでも……」


「逃げない」


 だから俺は、ここで皆を助けることで……。


 真の主人公になって見せるんだ!


「来い! 『黒剣』!」


 俺は右手に持った黒剣に自身の膨大な量の魔力を込めて限界まで強化する。


 そして、溜められた力を手に青い太陽へと飛び、黒剣を頭上へと体の軸と重なるように真っ直ぐに掲げて左手を添え、一閃——。


「黒剣弐ノ型——『星砕き』」


 青紫色の膨大なエネルギーが青い太陽にぶつけられ暫く力が拮抗するが、やがて純粋なエネルギー量で勝った俺の黒剣が超大型恒星を両断した。


 内包されたエネルギーが爆発して俺の視界を青い炎が覆い尽くすが、魔力で守られた体は熱に侵されることはなく、また傷つけることも適わない。


 そのまま地獄の炎とも呼べる超高温の爆炎の中を突き進み、やがて霧の竜ミスティアの御前へと躍り出た。


『ば。馬鹿なっ!? 今の攻撃で蒸発しなかったというのか!?』


「もとい、貴様程度の攻撃で蒸発するほど俺の命は安くないぞ、霧の竜」


 俺は魔力によるブーストで宙を弐段ジャンプし、ミスティアの上顎の上に着地し黒剣を奴の目の前に着きつけた。


「もしも、今この霧を解除して俺たちを外に出すなら、命だけは助けてやろう」


『この我に、命乞いをしろと言うのか! この竜種である我に!』


「死にたいなら別に構わない。お前を殺し、俺たちはここを出る。お前のような惰弱な存在にこれ以上、俺たちの時間を取られるわけにはいかないのでな」


『何のなのだ……。何のなのだ貴様は……! 一体、何者なのだ!』


 ふっ、名乗るのにここまで絶好のタイミングはないだろう。


 感謝するよ、俺をこの世界に生まれ変わらせてくれてありがとうな。


 俺は再び魔力を最大限まで込めた剣を頭上に掲げ、目の前の竜を睥睨する。


「俺の名はジョーカー。何者でもないが、何者にもなれる者だ——。しかと、その身と魂に刻み込むがいい……!」


『こんな馬鹿なああああああああああああああああああ!』


「黒剣弐ノ型——『星砕き』!」


 ミスティアの絶叫と俺の『星砕き』が衝突したのは同時だった。


 暫くは青い閃光によって視界を大きく塞がれることになったが、やがて晴れた時には霧の竜ミスティアはその体を地面に堕とし、倒れていた。


 俺は黒剣を消し、三人のところへと踵を返して戻った。


「ジョーカー! あなた、本当に無茶をして!」


「ジョーカー様! 本当に、本当にご無事で何よりです!」


「まさか、本当に霧の竜を倒しちゃうなんてね」


 皆あまり距離もないのに駆け寄ってきてくれて、Qが俺に正面から抱き着いた。


 その目には薄っすらと涙が浮かんでおり、ぎゅっと俺を抱く力も強くなった。


「私、ジョーカー様が死んじゃうんじゃって心配したんですよ! もうこんな無茶はなさらないでください!」


「……すまなかった。だが、これが皆を守る唯一の方法だった。許せ」


 わんわんと泣き喚く彼女の頭を優しく撫でてやる。


「謝るのは、むしろ私たちの方よ。あなたに危険を冒させてしまった。実力不足が露呈したようなものよ。これからは、もっと鍛錬をして強くなるわ。少しでもジョーカーの役に立つために、ね」


「私も傭兵を始めて七年くらいだけど、世界は広いって分かったよ。これからは、更に厳しい修行をして強くなっていこうと思う」


 皆の決意も固まったところで、俺は名残惜しそうにするQを引き離して皆で霧の竜ミスティアのところへと向かった。


 こうして改めて見ると、本当に竜なんだな。


 この巨体をこんな翼でどうやって浮かせているのだろうか?


「死んだんですか? ミスティアは」


「いや、死んではいない。気絶しているだけだ」


「殺さなかったのね」


「殺す理由はなかった。だが、もしもこのまま意固地に俺たちを解放しないのであれば、今度こそ止めを刺す」


「ふうん? 君っては、女の子だけじゃなくて竜にも甘いんだね。私たちを殺そうとした奴だよ?」


「こいつには、この森に住む民を守るという盟約がある。それを勝手に絶ってしまっては、彼らも困るだろう」


「そういうことね。まあ、いいんだけどさ」


 やがて霧の竜ミスティアは目を覚まし、状態だけを起こしてボロボロになった自分の体を見渡した。


『負けた……。だが、見逃されたか』


「勘違いをするな。これが最後の警告だ。俺たちをさっさと外に出せ」


『……ふん、言われなくともそうするわ。貴様らのような奴がいては、おいそれと眠ることも、食事を摂ることもできんからな。だが、そうだな……。これを持って行くといい』


 ミスティアは自分の鱗の一部を歯で剥ぎ取り、それに魔力を込めて一枚のコインへと姿を変えさせたものを俺に渡してきた。


「これは?」


『我の鱗で作った最高級の一品だ。見た目はただの白金貨だが、世界に一枚しかない代物。売るなり、取っておくなり好きにするといい。我を倒した証の代わりだ。さっさと行け。もう二度と、ここに来るな』


 ミスティアはそれだけ言い残すと体を霧状にして大気へと溶けていった。


 彼の姿が見当たらなくなると同時に周囲の霧が台風のように渦を巻きだし、俺たちはその中心に取り残されることに。


「何よ、今度は……」


「分かりません。あの竜は何をしたのでしょうか?」


「もう動きたくないんだけど……。まさか、更に強い敵が現れたりとか?」


「……」


 そして、やがて霧が晴れるとそこは……。


 燦燦と太陽が降り注ぎ、明滅する視界にやがて入ってきたのは中世のような街並みと道行く人々が俺たちを珍しそうに見ている光景だった。


「ここは……。一体どこだ?」


 ようやく視界も慣れた頃、皆もまた周囲の景色の変わりように動揺する。


「街? でも、さっきまで森に……」


「私たち、もしかして転移させられたのでしょうか?」


「あいつ、空間歪曲できるんでしょ? なら、十分に有り得る話だよ」


 呑気にそんなことを話していたのがいけなかったのだろう。


 あるいは、俺がもう少し早く動揺から立ち直っていれば良かったのかもしれない。


 ガシャ、ガシャという金属音が幾重にも鳴り響いて来て、やがて物々しい鋼の鎧を装着した兵士の軍団がやってきて、俺たちへと腰に装備されていた剣を引き抜き、俺たちに向けて来た。


 そして、鎧集団の中でも特に偉そうな金髪で長身の男が前に進み出て来て、俺たちに言い放った。


「貴様らだな? 怪しい霧の中から現れたという不審者どもは!」


 そして、彼はすぅっと息を吸うと野次馬たちが見守る中、堂々と宣言した。


「私の名は王国騎士団団長スワン・スチュアート! 貴様らを、不法入国及び治安維持法違反に基づき逮捕する! ご同行願えるかな?」


 団長の指示に従い、俺は両手を上げて降伏の意を示すと、皆もそれに従ってくれた。

それと同時に、俺は瞬時に悟った。


 うん、これはマジもんのヤバいイベントだってね。

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