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助っ人キャラ現わる

 目的地へとたどり着くと、この辺りの木々が何故かなぎ倒されていた。


 切断された木々は刃ではなく、何か引っかかれたような傷が残されている。


「熊でも出たか? あるいは、狼か……」


「この辺りの熊や狼に、ここまでの力はないはずです」


「それに、微かに魔力の痕跡のようなものを感じるわ……。ジョーカーは何か感じない?」


「……少し待て」


 そうは言われてもな、俺はまだ魔力感知のスキルを会得できていない。


 Qは俺の魔力を探知できるみたいだけど、まさかAも力に開花し始めているというのだろうか?


 さて、そうしたら俺が後れを取るわけにはいかない。


 魔力感知は文字通り、魔力をそのものを体で感じること。


 熱や音、味覚、触覚を体で感じ取るように、五感のセンサーに魔力の感覚を覚えさせれば自然とできるようになるはずだ。


 俺は既に魔力を何度も操っている。


 体内で行っていた感覚を、自分の内だけではなく外側に持ってくるんだ。


 目を閉じ、精神を集中させて他の感覚を全て遮断する。


 自分の肺に溜まった空気が徐々に抜けて、やがて空っぽになり、頭の中から余計な思考が消えていく。


 その刹那、俺が開けると……。


「……感じるぞ、魔力の痕跡を。はっきりとな」


 この木々の爪痕に魔力がべったりとこべりついている。


 この周囲にも微かにまき散らされたような青紫色の微粒子が散っている。


「ジョーカー、あなたの目には何が見えているの?」


「感覚を研ぎ澄ませば、必ずや会得できる。魔力感知だ」


「流石はジョーカー様! まさか、私たちが魔力感知を使えることをヒントにされたのですか?」


「ああ。すまないな、少しばかり後れを取ってしまったようだ」


 Aは首を横に振った。


「いいえ、そんなことはないわ。だって、私だってまだちゃんと使えるわけじゃないもの。それを、こんなにも短時間で会得したのは流石としか言えないわ」


「ジョーカー様なら当然なんです!」


「どうしてQがそんなに得意げなのかしら? とにかく、今は彼に頼るしかなさそうね」


 俺は青紫色の粒子がより集まっている方へと視線を向ける。


 どうやら、あちらの山が見える方角に行ったようだ。


「行くぞ、二人とも」


「ええ」


「はい!」


 魔力の痕跡を頼りに更に森の奥まったところへと進んで行くと……。


 やがて、視線の先に金髪の女性のシルエットが映った。


 その頭頂部には何と、この世界の生物特有と思われる猫のような耳が生えていた。


 その種族についての知識は、彼の頭の中にちゃんと入っていた。


 亜人……。人間のような容姿に動物の特徴を一部併せ持った身体能力の高い人種。


 魔力をまき散らしていたのは彼女であり、彼女もまた魔力持ちということだ。


「亜人ね、まさかこんなところにいるなんて……」


「ですが、何か様子が変ではないでしょうか?」


「……しばし待て。俺が行く」


 俺は彼女たちをその場に留め、金髪の亜人に近づいた。


 後ろ姿は白いブラウスと黒いスカートを着用した俺と同じくらいの年齢の女性に見えるが、果たして話は通じるだろうか?


「おい、そこの女よ」


「……」


 俺が呼び掛けると、彼女はゆっくりと振り向いた。


 しかし、それを見てすぐにこの場を離れた方がいいかもしれないと思った。


 彼女、暁のように紅く光った瞳の焦点は合っておらず、口から覗かせた犬歯には僅かに血が着いていて、おまけに涎をダラダラ垂らしている。


 彼女はどうやら、空腹で正気を失いかけているようだった。


 だから、ここまで来る途中の木々をなぎ倒して八つ当たりをしていたのだ。


「獲物……。得物……」


「ちっ、まずは正気を取り戻させないとな」


 彼女が地面を蹴ると、次の瞬間には自分の目の前へと接近していた。


「ジョーカー!」


「ジョーカー様!」


「案ずるな」


 彼女が伸ばしてきた右手の鋭い爪による攻撃をひらりと躱し、彼女の腹を下から蹴り上げた。


「がはぁ……」


「俺に手を出したことを後悔させてやる」


 空高く打ち上げられた彼女は口から唾液を吐き出したが気絶することはなく、空中で自分の体を回転させることで衝撃を緩和し再び空腹による狂気を滲ませた眼光が俺を睨む。


「があああああ!」


「中々のタフネスだな。だが……」


 空中から犬歯をぎらつかせながら落下してきた彼女は、俺の首筋に狙いを定めて食らいつく気満々だった。


 しかし、その攻撃をバックステップで回避し、彼女が着地した瞬間に彼女をサッカーボールのようにして蹴り飛ばした。


 彼女はボールのように地面をバウンドし、そして後方の木に強く背中を叩きつけられる。


「理性の欠いた獣ほど、狩りやすい敵はいない」


 とても痛そうだったが、これくらいは迷惑料ってことで勘弁してほしいところだ。


 だが、まさか「大丈夫ですか?」とか言うわけにもいかない。


 再三言うが、今の俺はクール強敵キャラなのだ。例え相手が女性だろうと、戦いの舞台に立ったのなら敬意をもってキャラを演じるべきだろう。


「ぐぅ、うう……」


「ふん、今のは良い一撃だったろう。もう動けまい」


「……が、があ、ああ……」


 彼女は虚空に右手を伸ばしていたが、やがて意識を失った。


 どうやら相当消耗していたらしく、今の一撃が留めになってしまったらしい。


「ジョーカー! 大丈夫かしら!」


「ジョーカー様! お怪我は!?」


 血相変えて駆け寄ってきてくれた二人に、俺はただ何も変わらず自分のキャラを続ける。


「心配無用だ。この通り、俺は無傷だ」


「そう、良かった……」


 Aはほっとしてくれただけのようだが、しかし、Qは俺を傷つけようとした彼女を視界に入れると、急に只ならぬ殺気を放ちながら黒剣を出した。


「ジョーカー様、私にお任せ下されば、今すぐにでも首を落とします」


 彼女の愛は天元突破しているらしく、既に彼女を排除の対象とみなしているようだ。


 しかし、それを許容することはできない。


 何せ、もしかしたら協力者になってくれるかもしれない人材だからだ。


 俺は左手を横に広げて彼女を制止する。


「待て、こいつはただ空腹で気が立っていただけだ。食事を用意し、彼女を助ける。復活次第、情報を聞き出すぞ。ここを出る鍵になるかもしれない」


「……分かりました。ジョーカー様がそう仰るなら」


「じゃあ、私たちが彼女を見ておくから、食料の調達をお願いしてもいいかしら? さっき、結構な攻撃が入ったみたいだし、一度診る必要があると思うから」


「分かった。任せよう」


 彼女は女性だし、同じ女性のAとQが適任だよね。


 俺は狩りに出るために彼女たちから距離を取ったが、その際にAとQは口にした。


「命拾いしたわね、あなた。ジョーカーが止めてなかったら遠慮なく殺ってたわ」


「ジョーカー様の恩情に感謝しなさい、この雌狼」


 Qは勿論だけど、表に出さない分、Aの方がもしかしたら怖いかもしれない。


 けど結論として……。女の子、怖すぎ!


 絶対にAとQは怒らせないようにしようと心に決めた瞬間だった。




 獲物と野草を確保して来て焚火をし、昼食の用意を作った。今日のメニューは魔力によって作った太い串を刺した熊のマンガ肉焼き香草乗せである。


 俺たちの分も当然あるが、大半は金髪の亜人のために用意したものだ。


 Q、俺、Aと焚火の前に座り、その向かい側の倒木に亜人の彼女は背中を預けた状態で眠っている。


 一応、この近くに生えた薬草を使って軽い手当はしてくれたみたいで、さっきよりかは肩の力も抜けているように見える。


 やがて、肉に焼き色がついてくると非常に美味しそうな匂いが漂ってきた。


 森から出られないかもしれないという状況でも、こうして昼食をしっかりと落ち着いて食べるのは重要だよね。


「ジョーカー様、お肉が焼けましたよ。今、お取りしますね」


 Qが積極的に肉を取りに行く。


 そんなに腹が減っていたのかと一瞬思ったが、「お取りします」というのはどういうことだろうか?


 彼女はふぅ、ふぅと取った串を自分の吐息で冷ますと、それを俺の口元に運んだ。


「ジョーカー様、あーんですよ、あーん」


 Qは「早く食べて欲しい」と目を輝かせながら差し出して来る。


 正直、俺は腹が空いてないから食べないでおいてもいいかなくらいの気持ちだったんだけど、流石にそれを伝えるとがっかりしそうだな。


 ここは、遠回しに自分で食べろよってことを伝えよう。


「……いや、それはQの分だろう。俺は自分で取るから、遠慮せず食べるといい」


「遠慮なんてしていませんよ? ジョーカー様こそ、遠慮なさらなくてよろしんです。ただ、ジョーカー様が自ら取って食べる手間をかけるくらいなら、私が食べさせて差し上げたいんです!」


 それは嫌味とか、取り入りたいとかそういう邪な感情から来るものではなく、本当に純粋な優しさや思いやりから来るところが怖い所だ。


 彼女は俺に対して、かなり、かなーり重度のフィルターをかけて俺のことを見ているらしく、彼女の中では愛する人に尽くしたい思いで溢れ返っている。


 いや、いくらファンタジー中毒の狂人と言っても、俺は一応、常識的な考えは持っている人間のつもりだ。これだけ明確な好意をぶつけられて気付かないほどの鈍感主人公にはなれない、というかむしろ嫌いだ。


 何故、丼関係主人公が嫌いかと言えば、それは「ムカつくから」以上。この話終わり。


 ともかく、彼女の好意を無下にするのは俺としては好ましくない。


「……あーん」


 俺は口を開けて、目の前のマンガ肉へと齧りつく。


 俺がグッと歯に力を込めるとQが肉を引き剥がしてくれた。ゴムみたいに硬い肉を咀嚼し、ゆっくりと味わって食べる。


「どうですか? お味は?」


「……美味いぞ」


 取り敢えず、ベターな台詞を選んで返す。


「もっとお食べになられなますか?」


 よし、断わるならここだ。


「いや、俺は今ので腹がいっぱいだ。後はQが食べるといい」


「そうですか……。はっ!? でも、これはもしかしてジョーカー様と間接……」


 Q,君の欲望はいつでも漏れ出るね。


 まあ、悦んでいるのなら別に……良くはないな、うん。


「いいわね、甲斐甲斐しく世話を焼いてもらって。ちょっと前まではお姉ちゃん、助けてって言っていたのに」


「あっ! お姉ちゃん、ジョーカー様に恥ずかしい話はしないで!」


「ええ~、どうしようかしら?」


「むぅ~」


 悪戯っぽく笑みを浮かべるAに、頬をぷぅと膨らせてQが怒った。


 俺は心の中では結構ウケてたけど、表情は小さく口角を上げるだけに留めておく。


「二人は仲が良いな」


「そうでしょう? これでも、十三年もずっと一緒にいるから」


「私に何かあると、いつもお姉ちゃんが前に出てくれて……。お姉ちゃんは強くて、とっても格好良いんです」


「ふふ、ありがとう。Qも、とっても可愛い大事な妹よ。だから、守りたくなるの」


「ありがとう、お姉ちゃん」


 思えば、最初に出会った時もQがAに庇われていたな。


 Aはそうでもないけど、Qはもっと気弱だったイメージの方が強い。


「それが今となっては、Qの方も前に出る機会が多くなった気がするな」


 鬼ごっこのときなんかは良い例で、俺を積極的に捕まえに来てたよね。


「それは、ジョーカーに格好良いところを見てもらいたいからでしょ?」


「わっ! わっ! そういうことは言わないで!」


「もう遅いわよ?」


「も~、お姉ちゃん!」


 Qは慌ててみたり怒ってみたりで表情豊かだし、Aは大人な余裕を見せるわで、二人のやり取りは見ていて飽きないくらい面白い。


「だが、そういうAも日ごろ頑張ってくれているだろう?」


「あら、珍しく労ってくれるのね」


「珍しくはないだろう」


「珍しいわよ。自覚ないの?」


 割と褒めている気がしたのは、単なる思い違いなのだろうか。


 Qを毎晩甘やかし、Aが俺にちょっかい出して来るのを回避して……。


 ……確かに、自発的には労ってないかもしれない。Qのそれは頼まれてしていることだし、Aはあまり甘えては来ないからな。


「……そうか」


「そうよ。だから、もっと日ごろから私たちを褒めて頂戴」


 そっか、まあそういうことなら褒めないといけないよな。


 俺は二人の綺麗な銀髪へと手を添えて、宝石を愛でるように優しくよしよしと頭を撫でてやった。


「日ごろの褒美だ。遠慮なく受け取れ」


「ちょっと、急にどうしたの? くすぐったいわ」


 Aはとても声を弾ませ、笑いながらもされるがままにしている。


 どうやら、Qと同じでAも頭を撫でられるのが好きらしい。


 今度からは定期的にしてやるとしよう。


「Q,お前も……」


 あれ、Q?


 彼女はじゅ~と顔を真っ赤にして気絶していた。


 その恍惚とした表情はまるでこの世の天国を見ているかのようで、文字通り昇天してしまっていた。


「A、これはどういう……」


「突然のことで嬉しすぎて、意識が飛んだのよ。きっと。主にジョーカーのせいだけど、仕方のないことだと思うわ」


 これしきのことで意識が飛ぶとか、想像以上に彼女は乙女だったらしい。


 将来、もしも手を繋いだりした日には本当に死んじゃうんじゃ……。


 いや、流石にないと思うけどな……。


 俺は二人を撫でるのを辞めて、Qの頬を優しく叩いて意識を連れ戻してやる。


「……はっ! 私は何を!? ジョーカー様に頭に撫でられた夢を見ていたような……」


「そうか。それは良かったな」


 全部本当のことだけどね。


 今はまあ、甘い夢を見ていたくらいの方が刺激が少なくていいのかもしれない。


 Aに目線を送ると、彼女は小さく微笑んで右手の人差し指を唇にそっと当てた。


 うん、分かってるならいいんだ、分かってるなら。


 ……っと、話をしていたら肉が焚火もいつの間にか消えてしまっていた。


 そして、刺してあったはずの肉も丸ごと消えてしまっていた。


 ……あれ、肉も消えてる?


「がぶっ、むしゃ、むしゃり」


「「「……」」」


 じっくり焼いていた肉に爆速で齧りついていたのは、いつから起きていたのか知らないが金髪の亜人娘だった。


 自分の服に油が飛び散っているのもお構いなしに、とにかく夢中でバクバクと食べている姿を、俺たちはただ茫然と見守っていた。


「むしゃむしゃ、がぶりがぶり! ぐしゃ! バキバキ! ごくん……。ああ……」


 そして、肉を食べ終わった彼女はようやく俺たちにようやく気付いて、あっけらかんとした笑顔で言った。


「おはよう。そしてお肉ご馳走様、美味しかったよ」


 食べ物を盗んで無断飲食の上に被害者に対して堂々と挨拶とは、とんだ肝が据わった奴もいたものだ。


 よし、こいつは処刑しよう。


「A、Q。今夜の晩御飯は、非常に油の乗った亜人のソテーに出来そうだ」


「かしこまりました。捌くのはQにお任せ下さい」


「じゃあ、下ごしらえのための香料が必要ね。久々に、豪かな夕食になりそうだわ」


 二人もどうやら同じ気持ちだったらしく、黒剣を出してジリジリと亜人の女に近づいていく。その目は完全に、獲物を狩る者の目だ。


「ちょ、あの……。お三方の目がとても怖いのですが……」


「問答無用」


「待って! 待ってください! ごめんなさい、勝手に食べてごめんなさい! だから許して! ああ!? 尻尾はやめてえええええええええええええ!」


 ぶっちゃけ、R-18認定になりそうな描写が多数あったので詳しくは言えないが、三人がかりの猛攻により、亜人の女の子の悲鳴が森中に響き渡ることになったのだった。

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