桜の頃 3
入学式は滞り無く終わった。入学式が始まる前に新入生をトイレに行かせた結果、男の子の大半がズボンからシャツが出てしまっていた。新6年生にマンツーマンでお世話をお願いしているのだが、シャツが出ているかどうかのチェックをしないといけないという発想はやはり出て来ないらしい。
私達が事前にひと言伝えてはいるのだけど、新6年生達もそれなりに緊張しているらしく、頭から飛んでしまうらしい。まあ、毎年どこの小学校の入学式でも見られる光景みたいなのだけど。
更衣室に入ると、碧がスーツからジャージに着替えていた。
「おつかれ」
「おつかれちゃん。6年生達、どうだった?」
「しっかりやってくれてたよ」
碧は前年度5年の担任だったらしく、今年は持ち上がりで6年の担任になっている。
「てかジャージ?」
「戦闘服じゃん?」
「子ども帰ったから戦闘服じゃなくてよくない?」
昨年度運動会で作ったであろう富士見小の職員Tシャツにジャージを身に付ける碧。対して私はカットソーとジョガーパンツだ。
「碧、今から作業でもあるの?」
「教室掲示作ろうと思って」
本来教室掲示を作るだけならそこまでの装備は必要無い。でも碧は美術の人だから、私が使わないような絵の具等を使って本気の掲示物を作るのだろう。
「いいなあ、私教室掲示ってなかなかアイデア出なくて」
「澄麗みたいに学級通信さらさら書けないから掲示で勝負かけるしか無いの。武器は人それぞれじゃん?」
「それもそうか」