Prologue 5
「澄麗ちゃんは?先生だっけ。碧から聞いてた」
私と碧は2人とも水無瀬市で小学校の教師をしている。専門は私が国語で碧が美術だ。この4月、碧が勤務している学校に私が異動する。高校、大学と進路は違っていたけれど、同じ職場に配属されるとは不思議な縁だ。
「うん。4月から私も碧と同じ富士見小の勤務なの」
碧は大学生当時1年間海外留学していたそうで、卒業年次は私とずれている。富士見小は私にとって、この4月で異動しての2校目、碧にとっては初任校で1校目なのだ。
「え、澄麗も碧も先生で、同じ小学校なんだ。楽しそう…」
「こないだ校長室にお茶持ってったら澄麗がいてさ。お盆ひっくり返しそうになって焦ったわ」
内示が出たその日に異動先の学校に挨拶に行くのがこの水無瀬市のルールだ。校長室に通され、お茶を持ってきてくれたのが碧で私も驚いた。目を見開いた碧が手にしていた盆がその手を滑ったのだけど、間一髪、校長がそれを阻止した。校長の動きがあまりに俊敏で、笑いが漏れそうになったのは秘密だ。
「あの時の校長、めっちゃ俊敏だったよね」
「うちの校長、裏稼業で忍者やってんじゃないかって疑惑があるよ」
「忍者て」
隣を見ると英が俯いて笑いを堪えて震えていた。
「英?…あれ?梨愛も」
梨愛ちゃんも俯いて笑いを堪えている。
「いや、だって…ねえ、梨愛ちゃん」
「忍者疑惑のある校長先生って…どんな学校?」
英も梨愛ちゃんもどうやらツボに嵌まってしまったらしい。