胸踊る 7
真夏に髪下ろしたくないんですけど。そう告げても匠は嬉しそうに笑うだけだった。
あと2週間程で終業式。それまでには彼が付けた跡は消える……と思うんだけど。首筋にある、その目立つものは何とか隠した。仕事に行く為、匠が家に帰ってから梨愛ちゃんにメッセージアプリで泣きついた。
さすが美容部員、使うのはコンシーラーだけじゃなかった。「お顔と同じように隠せばいい」という、そんな発想出てこなかった。化粧下地とファンデーションとコンシーラー、全部使って尚且つ髪も下ろす。これ、1週間続けるのか。真夏の学校、暑いんですけど。「誰に付けられたかは今度じっくり追及するからね♡」というひと言も送られてきて鏡の前で苦笑いした。
職場着いたら匠にクレームかな。でも、職場ではいつも通りに振る舞わないと周りにバレちゃうしな。クレーム言えるのは仕事終わってからか。長いな。
考え事をしていたら、あっという間に職員室に着いた。
「おはようございまーす。──おはようございまーす……」
私達の机は職員室奥窓際。ドアから机まで、遠い。
「おはようございます」
匠……九条先生が顔を上げた。昨日の情事が一瞬で頭の中を駆け巡る。彼は彼で、いつものポーカーフェイスだ。
「お、おはようございます……」
いつもの如月先生の顔を作って微笑む。肩に掛けてた鞄を机に置いた。……え?
「きゃああ‼︎」
職員室中の先生方の視線が一斉に私に集まる。でも叫ぶしかなかった。
「え、ちょ……カ、カエル……?カ、カエル、いるんですけど……」
何故?なんで私の机に蛙なんているの?