Animal rhapsody 5
「え…。それで、どうやって飲ませたの?」
「蜂蜜に混ぜてやった。成分的に問題無いし」
成程。蜂蜜の強烈な甘みがあれば、苦味も消される。
「それ、人間にも使えそうね」
「いや飲めよ。薬ぐらい。ていうかコーヒーだってそんなに苦くないだろ」
「休憩時に甘いの飲んだっていいでしょ。脳が疲れてんの、私」
相変わらずの憎まれ口。もう何年もこれだ。毎日が忙し過ぎて、時緒の憎まれ口も変わらなさ過ぎて。彼とかつて付き合っていたことなど忘れてしまいそうだ。忘れた方が、いいのだろうけど。
時緒とは同じ高校、同じ大学だった。互いに動物好きなのが分かって仲良くなった。付き合い始めたのは大学に入ってからだった。私には、全部の『初めて』が時緒だった。男の人と付き合うのも、キスをするのも、抱かれたのも。全部、時緒が初めてだった。そんなこと、時緒にはもう関係無いのだろうけど。大事な大事な思い出なのに、2人とも獣医としてこの動物園に就職して以来、憎まれ口だけが日々更新されていく。
時緒のスマホの画面はメッセージの通知がしょっちゅう来ている。
「いいの?スマホ」
「いい。大した用事じゃないし」
私と同じく記録に集中する時緒は顔も上げずに答えた。今付き合っている彼女からだろうか?それとも、彼女になりそうな人からだろうか?聞く勇気なんて無いくせに、時緒のスマホのメッセージの送り主が気になってしょうがない。決して、それに気付かれてはいけない。気付かれてしまったが最後、憎まれ口を叩ける同僚という立場ですら、失いかねない。それは私には、辛い。