HYPNOTIC POISON [ヒプノティックプワゾン]6
ついてきてくれるって……?
え、どういうこと?
「考えといて欲しい。俺は、行きたいと思ってる」
あまりに唐突な話に、驚く以外に何もできない。
「満紘。私、東京に一緒について行くってことは、仕事を辞めないといけないのよ?」
「わかってる」
「私、この仕事、大好きで」
「うん」
「就活、すごく頑張ったんだよ?」
「うん」
「女の園だけど。でもやりがいは感じてて」
「うん」
「……うんしか言わないね」
う、と言いかけた満紘は、そのまま黙ってしまった。
「満紘の仕事も大事だよ。でも、私だって……。決して片手間でやってる仕事じゃなくて。……でも私、満紘と離れたくない。ごめん、矛盾してるというか、混乱してるというか」
満紘の視線から逃れて斜め先のビルの陰を見た。……ん?
「梨愛。混乱する気持ちも、仕事が好きなのもわかる。でも俺、この先もずっと」
「──やだっ‼︎」
咄嗟に満紘にしがみついた。震えが止まらない。
「え、梨愛……?」
「ま、ひろ。私、ここ、嫌だ」
「梨愛、どうした…?」
ビルの陰で、傷だらけの男性がこちらをずっと睨んでいた。タイミング悪く私は、その人と目が合ってしまったのだった。
「お願い。早く帰りたい」
私が見ていた方向を確認した満紘が息を呑むのがわかった。
震えが止まらない私の肩をしっかりと抱いたまま、満紘はタクシーをつかまえた。
タクシーに乗り込んでからも、震えが止まらなかった。満紘が抱き締めてくれているのに。
──あの人、同じ人だ。こないだ殴られてた、あの人だ。
どうして私、睨まれたんだろう?
偶然だよね?私のいる方向に何かあったんだよね?