打破 8
「く、じょうくんが格闘技やってたらギャップ激し過ぎるよ」
「そうですか?やってもいいんですけどね。空手やってたし」
「え、空手やってたんだ」
「結構長くやってましたよ。乗ってください」
彼の車の真横で、乗ろうともしないでつい話し込んでしまった。
「そうだね。ご相談があるんだっけね」
九条くんが連れて行ってくれたのは、閑静な住宅街の中にある、昭和レトロなカフェだった。
「こんばんは」
「こんばんは、匠くん」
柔らかな表情で彼はカウンターの中のマダムと言葉を交わした。
「ここ、よく、来るの?」
九条くんの服の袖を摘んで小声で問う。
「実家から、近いんです。そこ、どうぞ」
彼が示したのは、庭に面した窓側の席だった。
テーブルに運ばれたカレーは香辛料がよく効いている。でも辛すぎず、ペーストされた野菜が舌を滑る。美味しい。簡単には真似できない味付け。何度か通わないとレシピの解読は難しそう。
「美味しいね。……で、九条くん?」
「はい」
「いや相談あるんでしょ?」
「これ美味いっすね」
「うん美味しい…じゃなくて」
「──如月先生」
「ん?」
「沢田先生と付き合ってるんですか?」
「……ごほっ…っ、ごほっ…え、何?」
「だから、如月先生は沢田先生と付き合ってるんですか?」
慌ててごくごくと水を飲む私に無表情で問う彼の視線は冷たい。
「付き合って、ないけど。なんで?」
「沢田先生と、仲良いでしょう。昨日なんて名前で呼ばれてましたよね」
「沢田先生……雄二くんは大学からの飲み仲間なの。付き合い長いけど、今更何か、とか無いから」
昨日の雄二くんとのやり取りが一瞬頭の中をよぎった。
「だったら。俺と付き合ってください」