打破 7
「まあ…今日作りたかった分は大丈夫です。如月先生」
「ん?」
「今日、ご飯行きませんか?」
「へ?ご飯?」
どういう風の吹き回しだろう?一時はよく一緒にご飯食べに行ってたけど。最近は一緒にご飯食べに行くどころか避けられてたっぽいのに。
目を丸くしていると彼は続けた。
「その…ちょっと、相談したいこと、あるんで…」
「相談?」
九条くんが私にする相談…何だろう?私じゃない人に対する恋愛相談とかだったら、私のメンタルが持つかどうか怪しいんだけど。
でもでも、私は優しい先輩ポジションを維持する事に決めたんだ。そう、私は優しい先輩。可愛い後輩の恋愛相談ぐらい、聞いてやるのが心意気ってものだろう。
「ん、いいよ。あと30分ぐらいは時間欲しいんだけど、いいかな?」
「はい。道徳の所見やってますんで」
「え、もう道徳の所見入るの?早いね」
「あれ?先生まだなんすか?」
「……相談乗るの、やめようか?」
「いやお願いします」
久しぶりに九条くんにイジられた気がする。渾身の冷たい視線で応戦したけど、たぶん勝ててない気がする。
「──お待たせ、しました」
先に職員室を出ていた九条くんと駐車場で落ち合った。スマホに目を落としていた彼は顔を上げた。
「何か面白い記事、あった?」
彼のスマホからはニュースサイトの記事がちらりと見えた。
「ちょっと、格闘技の記事が…」
「九条くん、格闘技好きなの?」
「自分はやらないですけど。見るのは好きです」
──「好きです」の部分で私の目をじっと見るの、やめてほしい。もう期待しないって決めたんだから。