沼 7
煙草と汗の匂いが鼻を掠める。朔さん、煙草吸うんだ。私の前で煙草を吸ったことはないけど。抱き締められているというのに、そんな呑気な考えが頭をよぎった。
そっと、顔を上げる。少しずつ角度を上げる度に、ぎぎぎと音が聞こえてきそう。朔さんの顔の体温が近づく度に、心臓が煩く音を立てた。
唇に朔さんを感じる。永遠とも思える長い時間、私達の唇はずっと重なっていた。
朔さんの唇が離れる。名残惜しさを感じて、今度は私から唇を重ねた。心臓が煩い。心臓の音が大きくなり過ぎて、私自身が心臓そのものになっているかのように感じた。
私の後頭部に朔さんは手を添えた。添えたんじゃない、もう固定されている。固定されたまま、朔さんは角度を変えて唇を何度も重ねた。
そのまま、視界が反転した。
朔さんの頭越しに天井が見える。
「朔、さん…」
口づけの合間にやっと名前を呼んだ。
「碧ちゃん、俺…もう我慢出来そうにない……」
熱の宿ったその目に見つめられ、下腹部が疼いた。布越しに触れている彼自身の硬さが太腿に伝わって胸の先端が硬くなるのを感じた。
「ここじゃ、嫌です…」
次の瞬間、身体がふわっと浮き上がった。眼前には彼の顔。そのまま景色が変わっていく。
暗い寝室のベッドにそっと下ろされた。背中に感じるシーツはパリッと糊が施されている気がした。