沼 6
「もっかい…だけですよ?」
もう一度、スプーンでロールケーキを掬う。
「はい、あーん…」
スプーンを朔さんの口元に運ぶ。ぱくっと口に入れたと同時に、その手首を掴まれた。
驚いて顔を上げると、真剣な表情の朔さんと目が合った。
「朔さん…?」
「好きだ」
え…?今、何て?
「さ、く…さん?」
「俺、碧ちゃんが好きだ。頭の中は仕事でいっぱいだし、デートしてても仕事が頭によぎるし、酒にも弱いけど。もっと言うと、梨愛の兄だけど。複雑な気分になるかもしれないけど」
面食らった私に、朔さんは続けた。
「それでも俺、碧ちゃんが欲しくてしょうがないんだ。今でも腕の中に閉じ込めたいのを我慢してるんだ」
「朔さん…」
言葉を続けたいのに、出て来ない。胸がいっぱいで、単語ひとつ出て来ない。
「夜中に2人きりで俺の部屋にいるんだ。俺の理性はとっくに限界超えてる。……碧ちゃん、俺の、彼女になってくれないか」
「朔さん……酔ってます?」
そうじゃない。そんな可愛くない言葉を言いたいんじゃない。
「酔いはもうとっくに覚めてるよ。碧ちゃん、君の返事が聞きたい」
朔さんのに真っ直ぐに見つめられ、目を逸らせない。目を逸らす事など許されない、そんな気がした。
それでも一瞬、下を向いた。顔を上げると同時に空いている左手で、朔さんの服を掴む。
「朔さん、私…」
次の瞬間、私は朔さんの腕の中にいた。