沼 2
朔さんの頬はいつもよりやんわりと紅く、目尻も下がり気味だ。朔さんと一緒に飲むのは初めてなんだけど…。もしかして、朔さん、お酒弱い?
思えば、朔さんの妹である梨愛もお酒が弱い。厄介なのは、お酒が弱いくせにお酒が好きだというこの事実。アルコール耐性には遺伝も絡むと聞いたことがある。梨愛がお酒弱いなら、その兄の朔さんもお酒が弱い可能性は十分にあった。
と今更思い巡らせても、どうやらもう遅いみたいだ。腕はくっついてるし、さっきからさりげなく膝が当たっている。それも、当たったまま、膝を避けようとしない。でも私も避けないんだけど。何故かって?だってちょっと……嬉しいから。
梨愛にしてみれば、複雑なんだと思う。それはそうだよね。自分の兄と自分の親友が…って。正直、反応に困るよね。私が同じ立場ならきっとそう思う。
でももう遅い。こういうことって、止められるものではない。始まってしまったら、自分でコントロールなんて出来ないものなんだ。それは今までの経験で嫌というほど実感していた。
大将の焼き鳥屋を出て2軒目を目指そうと試みた朔さんは脚元がふらついていた。ねえ、刑事さんだよね?多少の恨みは買ってるだろうし、今狙われたら一発アウトなんじゃ…。
数歩先を歩く朔さんの手を取った。