J’adore[ジャドール]5
満紘は私より2つも年下なのに、たぶん私よりもしっかりしている。私にこんな話をするのも、決して軽い気持ちでは無いのだろう。
「う、ん…。考えとく…」
「ん。梨愛、おかわり」
満足そうに空になったお皿を私に差し出す。満紘と付き合う前は、チャーハンを作ったらフライパンにあった残りはラップに包んで冷凍していた。満紘と食べるようになってからは、フライパンにチャーハンが残ることは少ない。次からは多めに作ろう。
「あの、ね…」
「ありがと。どうした?」
「今日、仕事帰りにね。地上を歩いて駅まで行ったんだけど…」
「何?ナンパでもされた?」
チャーハンのおかわりを受け取って上機嫌だったはずの満紘の顔が曇る。
「ナンパじゃないの。一本入った奥の道でね、喧嘩してて」
「え、物騒」
「殴られてる人と目が合っちゃって」
満紘の手が止まった。目が険しくなる。
「──それで、どうなった…?」
「怖くて、ダッシュで逃げちゃった」
「そうか…」
大きく息を吐いた彼は、私をそっと抱きしめた。
「無事で、良かった…。俺、てっきり…梨愛が巻き込まれたかと…」
「何もされてないのにね。なんか、すっごい怖くて…」
「そうだよな」
満紘の背中に手を回すと、腕に力が込められた。この人の背中、こんなに広かったんだ。まだまだ私の中では小さな頃の満紘の印象が強くて。時折気付かされる、彼の男の部分に少しぞくりとした。