J’adore[ジャドール]4
あの、恐ろしい光景が脳裏から離れない。自分が何かされたわけではないけれど。それでも怖いものは怖い。集中出来そうにない私は、晩御飯はチャーハンに逃げた。
「梨愛のチャーハン、美味い」
満面の笑みでチャーハンをどんどん平らげる満紘の通常営業なこの笑顔。癒される。あんな怖い光景は、さっさと頭の中から消えて欲しい。
「ごめんね、今日はチャーハンぐらいしか思いつかなくて…」
いつもだったら満紘の好む肉料理を用意していた。でも今日はどうしても機械的に作れるチャーハン以外のものは作れそうに無かった。
「チャーハン上手い人は料理上手い人じゃん?梨愛、もう俺の嫁さんになっちゃえよ」
「嫁さん、って…」
重大発言を軽くを放つ満紘には苦笑いで返すしかない。
「何、その苦笑い」
不服そうな表情のまま、満紘はチャーハンを口にどんどん運ぶ。
「だって重大発言を軽く言うから…」
どこまで本気にしていいのかわからない。本気にして「やっぱ忘れて」とか言われたら立ち直れない。そうでなくても、あの光景を見てしまった今日は、満紘の甘言に乗っていちゃつくという、そんな気分ではなかった。
「軽くなんて、言ってない」
不意に彼は真顔になった。
「梨愛が俺の嫁さんだったらいいのにって、本気で思ってる」
「満紘……」
「少しずつでいい。でも、考えといて」