J’adore[ジャドール]3
木曜日の仕事終わりはウキウキする。あと1日頑張れば朝寝坊できる。
駅までの道は地下街を通るか地上を通るかの二択。今の時期は外の空気が爽やかだから、地上の道を散歩がてら歩いて行くことが多かった。
駅までの道は電灯が並んで明るい。一本奥に入ると、少し治安が悪くなる。今日も…ああやっぱり、男性が喧嘩してる。
「──今更抜けたいって?ここまで知っといて抜けられるわけねぇだろ⁉︎」
うわー…。今日は喧嘩の会話が大きいな…。喧嘩をしてる人達は、多分その都度違う人達なんだろうけど。今日はより物騒さを感じる…。
早く帰ろう。足を早めようとした、そのとき──。
「時緒…。助けて…」
とき、お…?何か、聞き覚えがあるような…。
振り返ると声の主と目が合った。
本能が「早くここから去りなさい」と言っている。身を翻して駅へと走った。
電車の中へ駆け込んだ。息が切れる。ヒールで走るって、どうかしてる。
息を整えつつ、周りを見渡す。いつもの変わらない、互いに興味を持たない乗客たち。
良かった。ここは、安全だ。いつもと同じ。
目が合ったときの声が脳裏に蘇る。
時緒って…。誰、だっけ…。
思い出さないといけない気がするんだけど…。
『仕事終わったー。腹減った。今日のご飯何?』
満紘からメッセージが来ていた。ああ、この人はなんて平和なんだろう。