翻弄 5
「5年生のアリバイを証明…ってことですね」
うん、やっぱこの低音、好き。じゃなくて。仕事中、今。
「東先生には毎回施錠をお願いするしかないですね」
少人数教室の担当は非常勤講師の東先生になっている。面倒だけど、鍵を持ち歩いて頂く他ない。
野外学習が終わって、やっとひと息ついたんだけどな。人が集まる所にはトラブルは付き物。しょうがない。
溜まったプリントの山と漢字テストの採点と戦っていた。気がつけばもう、19時近い。外はまだやんわり明るい。夏が近いんだと実感するのはこういうとき。
そろそろ帰ろうかな…。とっくに空になっていたマグカップを洗いに給湯室に向かう。
「お疲れさま」
「お疲れさまです。沢田先生、まだやってく?」
「ううん、もう終わるつもり」
「私も。なんだかんだもうお腹の空く時間だしね」
「お、腹減った?ラーメンでも食いに行く?」
「沢田くん、ラーメン好きな人?」
「俺の趣味、ラーメン屋巡り」
「じゃあ、オススメのラーメン屋、教えてもらおうかな」
「こってりでも大丈夫?」
「今日の脳の疲れ具合なら、こってりでも大丈夫」
「楽しそうな話、されてますね」
いつもより、更に低い九条くんの声が降ってきた。若干顔が険しいな。ご機嫌斜めなのかしら?
「あ、お疲れさま。ラーメンの話してたの。九条くんも行く?」
「ラーメン?」
「俺、ラーメン巡りが趣味なんだよね。如月先生と今から行くんだけど…。予定があるなら」
「それ、自分も行きます」