翻弄 4
6年生の将人くんは目立たないタイプで、むしろ「優しい子」という印象。決して華やかではないけれど、いつも微笑んでる感じの子。その微笑みの裏には──。
「闇が、深いですね」
突如降ってきた低音に顔を上げた。変わらないポーカーフェイスと視線がぶつかった。九条くんがいつの間にか私の真横に立っていた。その距離、あと3センチぐらいで触れそうだ。
「そう、だね。いつも、にこにこしてる印象なのに」
「注目を集めたいのは間違いないんでしょうけどね…。如月先生。これ、お願いします」
手渡されたのは学年だよりの回覧だった。
「ありがとう。そうか、来月は九条くんだったっけ。3学級あると廻ってくるのがたまにでいいね」
「前の学校は…よく廻ってきたんですか?」
「単級だったからね。オール1学級。担任イコール学年主任」
「え、すご…」
「慣れだよ。やらなきゃいけない状況になったらやる以外の選択肢無いじゃん?あ、お疲れさまです」
主任会議に出ていた稲垣先生が自席に戻ってきた。と同時に、九条くんも自席に戻る。
「6年は当然なんだけど…。4年と5年もしばらくは各クラスをマークした方がいいかもって話になったよ」
「…と、言われますと?」
私が問うと、稲垣先生は続けた。
「今回、筆跡が明らかに将人に近かったんだけど…。でも少人数教室は4年も5年も使うからね」
「やれちゃう状況ではある、ということですね。でも掃除は6年で、4年と5年は授業とその前後しか入らないですよね?」
「毎回教師が施錠するってことですか?」
ん?九条くんのトーンがさっきとは違う低音になっている気がする。いや、集中して、私。