cross 6
「最初から…そう言ってくれれば良かったのに」
出すつもりの無かった言葉が口をつく。
「捜査に協力して欲しいって、そう言ってくれれば…」
そう、言ってくれれば、変な期待をしないで済んだ。とうに忘れた淡い恋心がほんのり復活しかけていた。心が入る手前なら、今ならまだ引き返せる。きっと。
「言うわけには、いかなかった。情報を漏らすことになるからな。でも」
苦虫を潰すような表情で言葉を紡ぐ彼は続けた。
「碧ちゃんと出掛けたかったのは、本当なんだ」
彼の発する言葉をそのまま素直に受け取れるほど、もう子どもではない。一度警戒してしまったら、その警戒心は簡単には抜けない。
「その、言葉を信じていいのか、私にはわかんない、です。──私…」
もう出ます、と口に出したと同時に食後にと注文していたコーヒーがテーブルに届いた。
沈黙の中、コーヒーのいい匂いだけが私達の間にあった。
「……だから、なんだよな」
沈黙を破った低音に顔を上げた。
「女の子をデートに誘うとき、ついつい捜査に役立ちそうな場所を選んでしまう。で、行ったら行ったで、聞き込みをしてしまう。ワーカホリックってこのことだよな」
えっと…今、デートって言った?やっぱりこれはデートで合ってたの?
「会話するときだって取り調べの口調になる。独り身の期間が長いと、甘い会話がどんなものだったか、とっくに忘れてしまうんだよな」
自嘲気味に笑いを浮かべながら、吐き出すように彼は紡いだ。